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99.10.09
■北朝鮮 農業政策転換実り、大豊作の秋?
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金正日総書記 頻繁に現地指導
来年の保証なく構造的には依然不安定
「飢餓の共和国」といわれてきた北朝鮮だが、今秋は農産物増産の兆しがみえる。現
地を九月下旬に訪問した日本の農業関連技術コンサルト会社幹部は「天候にも恵ま
れ、大豊作のようだ」と報告している。「強盛大国」建設をめざす金正日総書記は軍
事だけでなく、農業重視の政策を進めており、現地指導も頻繁に行ってきた。米国、
中国などからの支援もあり、当面は食糧危機を脱したとも言える。だが、農業構造は
不安定で「いつまた飢えるのか」という食糧事情は続きそうだ。(北朝鮮問題取材班)
◇食糧増産
国際社会から食糧支援を引き出そうというねらいからか、北朝鮮は五月以降、干ばつ
などで各地の農産物が多大な被害に見舞われていると何度も報道してきた。
「黄海南・北道と平安南・北道、咸鏡南・北道など、全般的地域の稲、トウモロコシ
の成長に深刻な悪影響を及ぼしている。成長期のトウモロコシが枯死し、田畑はひび
割れ、稲が枯れている」(七月二日 朝鮮中央通信)。
しかし、実際にふたを開けてみると、黄海南・北道、平安南道では空前の豊作とい
う。
北朝鮮は今年、農業を重視する政策を打ち出し、金正日総書記は現地指導を度々行っ
てきた。農場だけでなく、養魚場、家禽牧場、牛牧場なども訪れ、食糧増産への強い
意欲を見せていた。
◇実る稲
北朝鮮ではまた、琉球大学の比嘉照夫教授が開発した乳酸菌や酵母菌など約八十種類
の微生物を集めた複合培養液のEM(有用微生物群)菌を農作地で広く使用している。
一九九三年に試験的に導入して以来、北朝鮮各地にEM工場(現在、百十一カ所)を建
設。全国の稲作や畑作などで積極的に利用して、増産を図っている。金総書記もEM
工場を視察するなど高く評価しており、北朝鮮は今年四月、比嘉教授に農学名誉博士
号を授与している。
比嘉教授とともに現地で指導に当たっている農業関連技術コンサルタント会社、EM
研究機構(本社・沖縄県)の一行が今年九月下旬、平壌近郊や黄海南・北道、平安南道
など各地を視察した。
同行したEM研究機構の山本博暉東京事務所所長は「北朝鮮の今年の作柄は、大豊作
のようだ。現地の稲はたわわに実っていた。コメや小麦など穀物が五百−五百五十万
トン以上、ジャガイモなどのイモ類は百万トン以上の収穫が見込まれている」と話
す。
朝鮮中央通信は八月十二日、「(両江道の総合農場を現地指導した)金正日総書記は、
ジャガイモの作柄について聞き、例年にない豊年をもたらしたことに大きな満足の意
を表し、その成果を高く評価した」と報じている。
◇国際支援
国連食糧農業機関(FAO)は、北朝鮮で飢餓が伝えられた一九九八年の穀物生産量は
三百四十八万トンと推計。また、北朝鮮の最低ラインの必要量は穀物四百六十万トン
と推定されており、国際社会は絶対的に不足する食糧を援助してきた。
伊豆見元・静岡県立大学教授は「今年は中国から定期的援助以外に、国交樹立五十周
年にちなんだご祝儀の援助がある上、米国からも六十万トンの援助がある。今年の食
糧事情はいいと思うが、来年の収穫がどうなるかわからない。国際社会からの援助も
中国以外は単年度で行われ、来年の保証はない。食糧事情が構造的に好転していると
はいえない」と話す。
労働新聞は「人民の飢えは承知で人工衛星打ち上げに何億ドルも回した」という金総
書記の言葉を紹介している。金正日政権は食糧輸入に使う予算を削ってミサイル開発
に貴重な外貨を投入してきたのだ。
伊豆見教授は「食糧を海外から買う資金はあるが、飢える国民のために使う気がない
ことははっきりしている」と指摘している。