Tweet |
回答先: 「『買ってはいけない』は買ってはいけない」のスレッドです 投稿者 Y.M. 日時 1999 年 10 月 07 日 03:20:29:
スチレンをよく勉強してから書いてほしい
カップヌードル
(買ってもいい度 1・5)
カップめんが栄養の面から問題があることは〈百万年〉も前から言われ続けてき
たことなのでいまさら『買ってはいけない』から指摘されるに及ばない。カップ
めんは、あくまでスナック(軽食)として食べるのであれば便利でお手軽だか
ら、それに対してことさら非難するにはあたらないと思う。ただ、これを常食と
するのはスナック菓子を常食にするようなもので、もちろん問題である。
『カップヌードル』が栄養学的なこと以外の側面から注目されてきたのは、その
容器に使われている発泡スチロールの原料であるスチレンが、いわゆる「環境ホ
ルモン」としてリストアップされてしまったからである。まあ、実際の悪影響が
いかほどかは厳密にはわからないが、環境ホルモン、環境ホルモンと騒ぐ今日に
おいては大きなイメージダウンは免れない。業界では容器を紙に切り替えるとこ
ろも出てきた。
環境ホルモンとなるのはスチレンのダイマーやトリマー(スチレンの分子が2
つ、3つにつながったもの)だが、『買ってはいけない』で取り上げられている
のはもっぱらスチレン・モノマー(スチレンの単独の分子)のほうである。ダイ
マーやトリマーは水にあまり溶けないが、モノマーはある程度溶ける。『買って
はいけない』は、さっそくそこのところを指摘している。
「さらに怖いのが容器からのスチレン・モノマーの溶出だ。スチレン製コップに
水を入れただけで6〜9ppb(ppbはppmの1000分の1)が溶出する。この水
を飲ませたラット7匹のうち、4匹にがんが発生した(三重大学医学部、坂下栄
氏〈当時〉の実験)。熱湯をそそいだときの溶出量は51ppbと激増している」
はっきりいって、この記述はなんかおかしい。いや、相当におかしい。じつをい
えば、ppb(10億分の1)というレベルなら、スチレンはごく普通の食品に存
在している。小麦、ピーナッツ、牛乳、チーズ、いちご、コーヒー豆といったも
のにもごく微量に含まれているのである。したがって、スチレンがppbのレベル
でガンになるのなら、これはもう大変な騒ぎくらいですむ話ではない。
つまり、『買っていけない』のこの記述にはカラクリがあって、この引用文の前
後は直接関係がないのである。坂下栄氏の実験はじつに'76年のことであって、
スチレン・モノマーがどうのこうのと騒がれるずっと以前の話である。もちろ
ん、当時においてポリスチ
レン容器の毒性に注目した坂下氏の研究は評価に値するが、ただ坂下氏がネズミ
に飲ませたのは、いったん容器に熱湯を注ぎ、一晩置いて冷やしたものである。
こういうやり方なら、たぶんスチレン・モノマーの溶出量は相当な量になるだろ
う(しかも2年間与え続けたのである)。とうていppbのレベルではすまないは
ずだ。ところがこの記述をみれば、どうしたってスチレン製コップに水を注ぎ、
即それを飲ませただけでガンになる、というふうに読めてしまう。
さらにつけ加えれば、坂下栄氏の実験のやり方では、スチレン以外の多くの物質
が溶け出していた可能性が大きい。いやこれは可能性ではなくて、当然溶け出し
ている。したがって、坂下氏の実験でラットに腫瘍が生じたのは、(船瀬氏の言
うように)スチレン・モノマーのせいであるとは、とてもじゃないが特定できな
い。まあ、こんな初歩的な誤りをいちいち指摘するのはバカバカしいが、要は船
瀬氏の言説はうわべは「科学的」なように装いながらも、実際には全くのデタラ
メだということだ。
『買ってはいけない』がこういう詐術をこらしたのは、スチレンは超微量でも危
ないのだということを読者に無理やり印象づけたかったからだろう。しかし、ス
チレンが危険だという警鐘を鳴らしたいのならば、もっと正確な記述で良心的に
やってもよかったのではないか。ただいたずらに消費者の恐怖心を煽り立てよう
とするやり方にはどうも賛成できない。
ところで最初の方で述べたように、カップヌードルのポリスチレン・カップが問
題視されるようになったのは、スチレンダイマーやスチレントリマーが環境ホル
モンだとみなされているからである。ただこの話は二転三転している。ダイ
マー、ポリマーはお湯に溶けないから安全だという話もあったのだが、実際には
麺のスープの油分に溶けることがわかったのである。そこで解せないのは、船瀬
氏がダイマー、ポリマーの問題に言及せず、ひたすらモノマーの毒性についてこ
だわっているということである。そのかわりといってはおかしいが、フタル酸エ
ステルを持ち出している。
「多摩川のコイの精巣は異常に萎縮している。いわゆる内分泌撹乱化学物質(環
境ホルモン)の影響だ。その一種、フタル酸エステルの多摩川下流部の水質濃度
は1.6ppb。それに対してカップめんスープ濃度はなんと1100ppb。これは多摩川
の約688倍の汚染濃度だ」
フタル酸エステルはよくプラスチックの可塑剤に用いられているが、最近話題の
化学物質である。第二のPCBとかいわれ、やはり環境ホルモンにリストアップ
されている。だが、環境ホルモンの種類はゴマンとあるから、多摩川のコイの異
常がフタル酸エステルのせいと特定することはできない。ただ、多摩川のコイが
どうこういう以前に、ポリスチレン・カップからは実にいろいろな物が溶け出す
ことは間違いない。それが不安な人は避けた方がいいかもしれない。
(佐藤貴彦)
●『買ってはいけない』の論点●
カップめんは日本のジャンクフーズ(くず食品)の代表であり、カップヌードル
こそカップめん王国の王座を占めるものである。ビタミン類や繊維分に乏しい反
面、塩分や化学調味料が非常に多く、何よりも恐ろしいのは容器から溶出するス
チレン.モノマーによる環境ホルモンの危険性だ。