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◎すべての道はイランに通ず 拉致事件で仏歴史学者
「インタビュー」−仏学士院エレーヌ・カレールダンコース氏
−日本人技師拉致(らち)事件を、どうみるか。
「武装勢力の狙いは、国境紛争を有利に展開することにあり、日
本人に危害は加えないだろう。この勢力はアフガンやパキスタン、
もっと言えばタリバンの影響下にあると推察する」
−地域への日本の経済支援に対する評価は。
「隣国カザフスタンならば、エネルギー資源を持ち投資効果も計
り知れない。しかしキルギスに関しては疑問に思う。文明からほど
遠い状態の国にいくら投資しても、効果は薄い」
−キルギスの現状は。
「遊牧民が行き交う平原にすぎなかったが、最近20年で周辺国
とともにイスラム化が進んだ。しかし地域で最も資源が少なく、兵
力も貧弱だ」
−投資が地域を安定化させる側面もあるのでは。
「イスラムの過激化は内在的な問題であり、必ずしも投資が有効
とは言えない。92年にパキスタンが非アラブ・イスラム世界の統
合を打ち上げたように、内部の権力動向も複雑だ」
−21年前の著書で、当時のソ連は周辺民族の民族的・宗教的覚
せいにより崩壊すると予告した。
「危ぶんだ通り、クレムリンへの反感と民族感情、イスラム教が
融合してしまった。アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバ
ンが『全中央アジア・イスラム国家』樹立を目指し、タジキスタン
進出の機会を狙うまでになった」
−中央アジアの今後の推移は。
「タリバンが簡単に支配を拡大するとは思えない。むしろイラン
革命、イラン・イラク戦争を通じて大きな精神的影響を与え続けた
イランの役割が大きい。かつて中央アジアの道はすべてモスクワに
続いていたが、今やすべての道はテヘランに続いている」
−モスクワの役割は。
「ダゲスタンで対イスラム弾圧を強化しているが、逆にイスラム
世界の指導国と対話を進め、中央アジアの安定化に寄与することこ
そが重要だと思う」(パリ共同)
▽カレールダンコース氏
エレーヌ・カレールダンコース氏 フランスの歴史学者(ロシア
史)で1929年7月6日パリ生まれ。ソルボンヌ大卒後、史学博
士となりパリ第1大学などの教授を務め、90年からフランス学界
最高権威である学士院の一員。94年から5年間、欧州議会議員。
78年の著書「崩壊した帝国」でソ連は反ロシア帝国の多民族反乱
の結果、生まれたにすぎないとし、再び各民族が覚せいすれば崩壊
するとの斬新(ざんしん)な見解を示した。「レーニン」(79年)
、「ニコライ2世」(96年)など著書多数。 (了)
[共同 9月16日] ( 1999-09-16-15:09 )