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◎容疑者自殺で国民に不信感 イラン、問われる法の支配
イランの反体制政治家、リベラル派作家ら5人が昨年相次いで殺
害された事件で、軍事裁判所はこのほど、容疑者として逮捕された
同国情報省次官について「外国のスパイだった。獄中で自殺した」
と発表した。しかし、不審な点が多く、「一刻も早い真実の公表を」
との声がイラン国民から高まっているほか、保守派と改革派がそれ
ぞれ“真犯人探し”を始めるなど波紋を呼んでいる。
捜査と訴追を担当するテヘランの軍事裁判所が情報を出し渋れば、
「法の支配」確立を目指すハタミ政権下で、革命体制自体の信頼性
が問われかねない。
政府の諜報機関でもある情報省が5人の殺害に関与したことが判
明したのはことし1月。その時点で、社会に大きな衝撃を与えたが、
事件の詳細が分からないまま半年余りが過ぎた。
軍事裁判所は6月20日、主犯格の4人の容疑者名を初めて公表
した上、拘留中の情報省次官サイード・エマミ容疑者が「入浴中に
脱毛剤を飲み込んで自殺した」と発表。さらに「事件には外国の関
与があった」として、エマミ容疑者をイスラエルなど敵国のスパイ
と断定した。
しかし、政治的に微妙な事件なだけに、人々の多くは今回の不審
死を額面通りには受け止めず「これで捜査は幕引きか」と失望感が
一気に広まった。
脱毛剤はイスラム教徒にとって、体毛を落とすための身近な薬品。
「刑務所内は警戒が厳重。それに、あんなもので自殺出来るのか」
と、庶民の間では「脱毛剤ジョーク」まで流行し始めた。
自殺の事実関係のほかにも、裁判所の発表には疑問点が多い。エ
マミ容疑者はイスラム原理に忠実な保守強硬派で、スパイだという
証拠を提示していない。諜報機関の高官がスパイだとすれば大変な
事態だが、それほど指導部全体に緊張が走っている雰囲気もみられ
ない。このため、保守強硬派は「エマミ次官はスパイでなく、改革
派と近かった別の局長が真の首謀者」と独自の理論を展開。
一方、改革派メディアは「エマミ容疑者を側近として用いた(保
守強硬派の聖職者)ファラヒヤン元情報相を追及すべきだ」と主張
するなど、“犯人探し論争”が再燃、泥沼化しつつある。
テヘランの消息筋は「ここまで世論の声が高まれば、当局は捜査
結果を出さざるを得ないだろう。出しても納得のいく説明が出来な
ければ混乱に拍車を掛ける」と指摘した。別の外交筋は「保守、改
革両派の対立が新たな政治テロにつながらなければいいが」と心配
している。(テヘラン共同) (了)
[共同 7月 1日] ( 1999-07-01-15:47 )