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<ロシア>新内閣誕生の裏に新興石油王アブラモービッチ氏の暗躍
毎日新聞 6/21 12:28
ロシアでは、病弱のエリツィン大統領の背後で権謀術策の権力闘争がうわさされるが
、ロシア新内閣の誕生の裏でも、謎の人物の暗躍が話題となった。「新興石油王」のロ
マン・アブラモービッチ氏(32)。大統領の二女タチヤーナ顧問ら大統領を取り巻く
グループと近く、今回のステパーシン内閣の誕生の裏では大きな力を振るったといわれ
る。 【モスクワ・石郷岡 建】
★大統領一家の金庫番★
ロシア政界の黒幕的存在としては、政商・ベレゾフスキー氏(前独立国家共同体事務
局長)が有名だが、アブラモービッチ氏はほとんど無名の人物で、その活動には謎の部
分が多い。これまでマスコミにも顔写真がなく、その入手が特ダネとして紙面を飾った
ほどである。
モスクワ石油・ガス大学を卒業後、石油ビジネスに身を転じ、オムスク石油精製会社
と特別な関係を結び、これで大きく飛躍した。現在、シベリアの有力石油会社「シブネ
フチ」の株の9割を直接・間接的に支配し、巨万の富を動かす男ともっぱらの評だ。
石油ビジネスの縁で、タチヤーナ顧問の夫アレクセイ・ディヤチェンコ氏(東方石油
会社代表)と知り合い、大統領側近グループとのパイプを作ったという。マスコミは、
大統領一家にヨットや別荘を寄贈したとの疑惑を報道し、コルジャコフ元大統領警備局
長は同氏を「大統領一家の金庫番」とやゆした。
★猛烈な人事工作★
解任されたスクラトフ前検事総長が、「大統領側近の贈賄容疑事件」として、家宅捜
索を行った謎の警備保障会社「アトール」社も、アブラモービッチ氏の関連企業とされ
る。ただ、これらの疑惑事件は、いずれもはっきりとした事実の裏付けがなく、うわさ
の域を出ない。
5月のプリマコフ首相(当時)解任の政変劇に伴う新内閣誕生では、猛烈な人事工作
を展開し、特にアクショーネンコ第1副首相、カリュージュヌィー石油相、アダモフ原
子力相などを閣僚に押しこんだ。
また、年金基金、税関などの人事を押さえ、さらには「ガスプロム」(天然ガス)、
「トランスネフチ」(石油・ガス輸送)、「統一エネルギーシステム」(電力)、「国
有鉄道」の4大企業の支配をもくろみ、来夏の大統領選挙をにらんだ選挙資金づくりを
狙っているという。
もっとも、これら「反アブラモービッチ」報道は、大統領と反目状態にあるルシコフ
・モスクワ市長派系のマスコミが中心で、真実かどうか、にわかには判断しがたい。
★「謎の暗躍人物」★
アブラモービッチ氏は自由経済・市場主義を熱烈に信奉し、共産党の活動停止や下院
(共産党系議員が多い)の解散、レーニン廟(びょう)の撤廃などを主張しているとい
う。この過激な立場がロシア各派から嫌悪され、悪魔扱いされる原因ともいわれる。
しかし、もっと重要なのは同氏の出自問題かもしれない。記録ではウクライナ人だが
、名前はあきらかにユダヤ系。プリマコフ前首相、キリエンコ元首相、ネムツォフ元第
1副首相、ベレゾフスキー氏など、ロシア政界にはユダヤ系有力者が次々と現れている
のも事実だ。
もともと反ユダヤ感情の強いロシアでは、「ユダヤがロシアを支配する」という根強
い偏見(?)がある。そこに再びユダヤ系の名前が現れ、一挙に評判となり、「謎の人
物が暗躍」と取りざたされたのが実態のようである。
[毎日 6月21日] ( 1999-06-21 12:28 )