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99.03.29産経新聞
http://www.sankei.co.jp/main.html
■不審船は陽動 「北」工作員数十人潜入
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複数の関係者証言、茨城など6カ所判明
破壊活動の特殊部隊
日本の領海を侵犯した北朝鮮の工作船事件について産経新聞は二十八日、工作船の任務は陽動作戦で、日本の警備・防衛当局が工作船を注視している間に数十人の工作員部隊が太平洋側から日本に潜入した、との証言を複数の関係者から得た。潜入した工作員は朝鮮人民軍総参謀部偵察局など破壊活動を専門とする部隊とされる。判明しているだけで青森、茨城、千葉、愛知、熊本、宮崎などに潜伏しているとみられる。北朝鮮は日本を「打撃目標」にすると宣言しており、破壊工作に備えて事前調査を行っている可能性が高い。
証言によると、太平洋側からの工作員侵入経路は具体的には明らかにされてはいないが、船舶による上陸が敢行された。このほか一部では空路も使われ、偽造パスポートで入国審査をすり抜けるなどルートは複数だった。
工作員の侵入は日常的に行われているが、数十人規模の大量潜入は極めて異例だ。この潜入にあたって日本国内でも支援組織が受け入れ準備を行っており、作戦は成功したとしている。
潜入したのはいずれも特殊部隊である総参謀部偵察局のほか第八軍などの要員で、鉄道、通信、橋などを含む破壊活動の訓練を受けている。今後の活動は現在、指示待ちの段階という。
今回の工作船事件をめぐっては(1)工作船としては大型の百トンクラスの船を二隻同時に領海侵犯させた(2)日本側の通信傍受態勢を認知しているはずなのに二十一日からさかんに無線交信していた−などの不審点があった。
証言によると、工作船は「挑発行動」も目的とし、日本側が工作船を直接、攻撃した場合、北朝鮮は日本に対して軍事的緊張を高めるための作戦も想定していた。また、追跡艦船が北朝鮮領海に入った場合、ミサイル発射を行う計画で、工作船に対する日本側の対応に応じた各種の作戦を想定していたという。
日朝関係は、日本列島上空を通過した弾道ミサイル「テポドン1号」発射問題や日本人拉致(らち)疑惑で非公式接触もこう着状態にある。
産経新聞が得た情報では、今回の工作船事件で北朝鮮側は限定的な武力衝突の事態を意図的に作り出し、工作員の破壊活動を含めて軍事的緊張を一気に高めることで、日本側に軍事対決も辞さない北朝鮮の構えを認識させたうえ、拉致問題やミサイル問題を棚上げした形で「戦争」か「日朝交渉」かを選択させる狙いがあるとされる。
作戦は昨年末から検討され、地下核施設疑惑で査察(立ち入り)合意がなるなど米朝関係が当面の危機を回避し、南北関係も韓国の「太陽政策」で支援獲得の路線が定着したことで最終決定されたとしている。北朝鮮には、対日政策の強硬路線をさらに強めて日本の孤立化を図る意図もあるようだとの指摘もある。
野村総研の森本敏・主任研究員 「これが事実とすれば、北朝鮮は米韓に比べ日本が北朝鮮に対して拉致疑惑など基本的な問題で、従来になくしっかりした姿勢を堅持していることに不快感を持ち、米国の対北朝鮮政策の見直しを行っているペリー前国防長官による報告書の出る前に日米韓にくさびを打ち込む狙いがあったと思われる。日本の対北朝鮮政策の基本は対話と抑止だが、抑止のなかでも国内治安に重点を置き、政策の再検討をすべきだ」
防衛庁防衛研究所の武貞秀士・第三研究室長 「興味深い情報だが、現在の北朝鮮で外交政策と軍事政策がどこまでリンケージしているのかには疑問は残る。北朝鮮は昨年のテポドン発射で日本が想像以上の厳しい反応を示したことに驚いているもようだが、依然として日本の政治決断は過小評価している。今後も対日路線は強硬策をとり、テロ活動を行うことも十分に考えられる」
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工作船の動きと符合 北朝鮮の陽動作戦
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低速、停船で挑発
工作員潜入 危機醸成が目的か
日本海で起きた北朝鮮工作船事件は、これまでの工作船活動と違って、日本側に察知されることを意図的にねらっていたふしがある。警備当局や専門家の間でも、発覚当初からその目的が読み切れない面があった。今回の工作船が工作員部隊潜入の陽動作戦だったとする関係者証言は、なぞに包まれた事件を解き明かすかぎとなりそうだ。
二隻の工作船が日本海で活動していることは二十一日、日本側の通信傍受で判明した。工作船は、その位置が容易に確認されるような通信を頻繁に行っており、日本側は工作船の活動を早期からキャッチしていた。また、漁船に偽装したにしては、漁網もなく船上に目立つアンテナを多数立てるなどの不自然さがあった。
通常、工作員送り込みの工作船は一隻で行動し、沿岸に近づいてから上陸用のゴムボートを使うが、今回の工作船は最初から二隻が行動をともにし、そのことも発見を容易にさせた一因となった。
二十三日からの追尾劇でも、海上保安庁の巡視船に対して工作船は当初、追跡を振り切るのではなく、十ノット程度の速度でのろのろ航行するなど、むしろ追跡させることが目的だったとも受け取れる行動をとった。
しかも、しだいに速度を上げた工作船が巡視船を八十キロ余り離した二十三日深夜の午後十一時四十七分から約二十分間、海上自衛隊の護衛艦が接近していたにもかかわらず、いったん停船したことは、挑発だったと考えられなくもない。
産経新聞が今回得た関係者証言によると、工作船の目的は、日本の海上警備当局の裏をかいて太平洋岸などから工作員部隊を潜入させる陽動作戦と、挑発行動によって軍事的緊張を高めることだったとみられる。
この背景には「日本はテロや武力行使の脅しにもろく、恫喝(どうかつ)には容易に屈服する」という北朝鮮側の分析と、それに基づく対日戦略がある、と指摘される。
関係筋によると、現在の北朝鮮の対日戦略の柱は(1)戦域ミサイル防衛(TMD)などで日米安保体制が強化される前に先手を打つ(2)日本人拉致(らち)疑惑、ミサイル発射などに対する日本側の対北朝鮮制裁の再検討を迫る(3)朝鮮半島をめぐる日米韓体制の分断を図る−ことという。
今回、産経新聞が入手した情報では、北朝鮮側は今年から来年にかけ、朝間に軍事的緊張を醸成することで、日本側に譲歩を迫ることを狙っている。そうすれば、最終的に北朝鮮に有利な国交正常化交渉を再開できると見積もっているという。
北朝鮮の金正日総書記による対日戦略については、韓国に亡命した北朝鮮の黄長●・朝鮮労働党元書記が「金正日総書記は日本には高圧的な態度で出るべきだと指示」してきたと証 言している。
また、テロや拉致、破壊活動はすべて金正日総書記が承認して初めて実行されると述べている。今回の関係者証言によって、金正日総書記がこれまでの対日戦略をさらに硬化させようとしていることがうかがえる。
●=火へんに華