Tweet |
『FLASH』1999/5/25
寺澤有
爆弾告発・私はこの盗聴器を全国の警察に納入した!!
早ければ数カ月以内に警察の盗聴が合法化され、我々のプライバシーが暴かれかねな
いことになる。警察による電話やFAX、電子メール等の通信傍受を認める「組織的
犯罪対策法」(組対法)に反対の立場だった公明党が、「盗聴の対象となる犯罪を絞
る」などの修正を条件に、自民党、自由党と足並みをそろえて賛成する方針を固め、
今国会で成立する可能性か高まったからだ。
だが、すでに警察は情報収集の手段として、違法な盗聴も現実におこなっている。今
回、その一端を本誌に証言してくれたのが丸竹洋三氏(65)である。'57年、丸竹氏
は早稲田大学理工学部を卒業し、補聴器国内最大手メーカーの「リオン株式会社」に
就職した。入社早々、丸竹氏は上司から「盗聴器の仕事をやってほしい」と言われた
という。
「当時、東京・中野の警察学校に『さくら寮』と看板のかかっている建物かありまし
た。そこで石井さんという警察官に会い、盗聴器関係の仕事を請け負いました。もっ
とも、「石井」はリオン向けの偽名だそうです。『さくら寮』は全国から警察官が集
まり、「警察で使う機械の講習を受ける合宿所」と石井さんは説明していました。私
の上司は「あそこ(さくら寮)は戦前の特高(特別高等警察)みたいなところ」と藷
していましたがね。それから2年ぐらいかけて、小型ワイヤレスマイクとFM受信機
からなる盗聴器を完成させました。一セット約20万円で百セット以上は警察庁に納
めました。私の月給が1万円台前半のころですから、会社は相当な利益をあげたと思
います」(丸竹氏)。
かつて「さくら寮」に深くかかわった元警察庁キャリアは言う。
「公安警察は警察庁が一元管理するというのが原則になっている。時には非合法な活
動もするのだから、各都道府県警察がパラパラに行動しては困る。『さくら寮』は単
なる合宿所ではなく、警察庁警備局の分室として、公安警察の中心を担っていた」
警察がリオン製の盗聴器を実際に使用したことは間違いがない。そのうちのいくつか
は全国各地の共産党関連の施設から見つかっている。また、丸竹氏も「盗聴器の修理
でも何回か『さくら寮』へ行きました。どれもかなり使い込んだ感じでしたね」と証
言する。
その後、丸竹氏は盗聴器と関係のない部署へ異動。再ぴ、盗聴器の仕事に携わるの
は、緒方靖夫共産党国際部長(当時)宅の電話盗聴事件か発覚(86年11月)し、1年
ほどたってからだという。
「ほぼ同時期に警視庁と島根県警から依頼を受けました。警視庁のほうは、電話線に
クリップを挟めば通話内容が聞こえるというもの。緒方宅の盗聴が見つかったので、
より発覚しにくい盗聴器を求めたのでしょう。警視庁の技術者と検討を重ねたうえ、
半年ぐらいで試作器を作りました。しかし、リオン上層部から『盗聴器はやめろ』と
指示があり、そのままになりました。警視庁はあきらめきれず、何度も製品化を要請
してきたそうです。島根県警のほうは、通話中に雑音が入らないよう、こっそり録音
できる盗聴器。こちらは盗聴器の一部の儲からない部分を製作する藷で、すぐに断わ
りました」(丸竹氏)
緒方氏宅の電話盗聴事件では、三島健二郎警察庁警備局長と中山好雄神奈川県警本部
長が辞任に追い込まれている。その余波がまだ十分残っている時期に、警察は性懲り
もなく盗聴器の高性能化を図っていたというわけだ。
現在、参議院議員となり、組対法の廃案を目指している緒方氏は「警察の盗聴は秋葉
原の盗聴器レベルではない」と警告する。
「警察は、200本もの電話回線のなかから正確に私の自宅の回線だけを選び出し、別
の回線を接続させてアジトヘ引き込むという盗聴方法をとりました。この方法は通話
中に雑音が入らず、盗聴が発覚しにくいといわれます。発見できたのは、共産党の専
門家が定期的に盗聴をチェックしていたからです。警察は税金を湯水のように使い、
どんどん盗聴方法を進化させています。今では、我々が全然気づかない方法で盗聴を
おこなっていると考えるべきです」
丸竹氏も「警視庁や島根県警に依頼された盗聴器は、リオンが断わったとはいえ、ほ
かのメーカーが製作していたでしょう。そう考えると全国で、どれだけの電話が盗聴
されているかわかりません」と言う。
緒方氏宅の電話盗聴事件が発覚してからも、歴代警察庁長官は「警察が盗聴をおこ
なったことはない」と言いつづけている。3月2日、参議院予算委員会における関口
祐弘警察庁長官の答弁も同様の趣旨だ。それならば、警察庁は丸竹氏の証言をどう聞
くのか。違法な盗聴の実態にほおかぶりしたまま、「今後の盗聴は合法化してくださ
い」と言っても、それは虫がよすぎるというものである。
取材・文/寺澤有