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◎「ジャワ支配はもう嫌だ」 選挙拒否ムードのアチェ
【バンダアチェ(インドネシア・スマトラ島)26日共同】「ジ
ャワによる植民地化はもういやだ」。6月7日投票のインドネシア
総選挙に向け各陣営の運動が本格化する中、スマトラ島北端のアチ
ェ特別区は総選挙拒否のムードを強めている。独立以来、中央政権
に虐げられてきたことへの反動がスハルト前政権の崩壊で一気に爆
発した形だ。住民に投票拒否を働き掛ける独立運動組織の存在も表
面化してきた。
「おれはあなたたちに招かれて来たんだぞ」。選挙戦が始まった
19日、州都バンダアチェのシャクアラ大学講堂。有力野党国民覚
せい党を率いるイスラム教指導者アブドゥルラーマン・ワヒド氏は
演説中、壇上で激怒した。
アチェ独立の意思を問う住民投票を求める多くの学生の前で「分
離独立を望む者など少数にすぎない」と発言し、やじと怒号を浴び
たからだ。同氏は追われるように退場、ジャワ島では尊敬されカリ
スマ性すらあるワヒド氏も形無しだった。
アチェはスカルノ初代大統領時代、同国の独立革命に貢献したに
もかかわらず州設置の約束をほごにされたことが発端となり反乱を
起こした。1959年に特別区となったが、スハルト前政権になっ
ても独立運動を理由に国軍の残酷な人権弾圧などを受け「インドネ
シアに裏切られ続けてきた」という思いがある。
全国の有権者登録が80%を超える中、アチェは58%。中でも
軍事作戦地域として国軍の弾圧を受けた特別区の3県は特に低く、
ピディ県はわずか13・6%だ。
道路、屋根、壁、木の幹から「住民投票」の垂れ幕や落書きが、
同県を訪れる者の目に迫ってくる。学生運動が総選挙拒否と住民投
票を目標に掲げた後の3月末ごろから激増した。総選挙のための政
党の旗は少ない。
投票しない理由はほかにもある。学生のイブラヒムさん(28)
は「トラウマ(精神的外傷)状態の住民もいる」と説明した。以前
は与党への投票を強制され、怠ると無償労働まで課せられた。よう
やく解放された今、住民は虚脱感に陥っているという。
また街頭では「独立運動組織からの脅しが怖い」という住民の声
を聞く。バンダアチェの総選挙委員会も「ピディ県では係員が銃を
持った独立運動組織に登録活動をやめるよう脅された」と証言。脅
しを恐れて委員を辞める人も出ている。
農村地帯の一画で、独立運動組織の幹部(66)が自動小銃を持
った護衛に守られながら取材に応じた。「総選挙はジャワ人がやっ
ていることで関係ない。アチェは既に独立しており、住民投票も必
要ない」。 (了)
[共同 5月26日] ( 1999-05-26-15:31 )