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『週刊文春』1999年5月20日号
オウム撲滅!!警告キャンペーン第2弾
国会議員11人が緊急提案
パソコンショップで莫大な収益を得たり、広大な土地を取得しようと
したり…。オウム真理教は着々と復活しつつある。このままでは、再
び「洗脳犯罪」や「マインドコントロール・テロ」が起きかねない。
彼らを徹底的に取り締まる方法を国会議員たちが緊急提言。
「妹は、今でも全身マヒで寝たきりです。重い言語障害が残り、事件当時の記
憶も一切失われたままなんです。それなのに、罪をまったく認めないオウムが
存在していること自体許せません」
地下鉄サリン事件被害者の家族が、声を震わせ言う。
「われわれ被害者には、オウムが目の前で復活していくのを見ながら、何の手
だてもないんです。なぜ国が、もっと毅然とした対応をとってくれないのか、
納得できません」
地下鉄サリン事件「被害者の会」代表世話人の、高橋シズヱさんも、悔しさを
ぷつける。しかし、その怒りをあざ笑うかのように、この三月には、オウム関
連会社が、高橋さんの住むマンションに入居してきた。
今、オウムは、一連の凶悪事件への反省を示そうとしないばかりか、逆に社会
への挑戦的姿勢を強めている。長野県・北御牧村、茨城県・三和町など各地で
住民とトラブルを起こしているのは、先週号でも触れた通りだ。
「ホームページに『東京が壊滅する』という、ハルマゲドンを強調した内容を
載せる予定だったり、現実社会の方が偽りであり、自分たちこそ真理であると
する思考パターンはまったく変わっていません。最初はオウムの名前を隠した
バンフを配って引き入れ、マインドコントロール的なやり方で出家へと導く布
教活動も、本格的に再開しつつある。パソコンショップの経営など資金源を確
保しており、〃教祖〃の直接的指示と人材さえ整えば、サリンやVXはいつで
も簡単に作ることができる。ですから、オウムが再び事件を起こす危険性は、
今のところ潜在的にですが、常にあると言えます」(ジャーナリスト・有田芳
生氏)
蘇りつつある悪夢を、座視したままでいいのか?
今回小誌は、「オウム復活阻止は待ったなし」という点では一致する、与野党
国会議員十一人に、緊急提言を寄せてもらった。
オウム事件を受けた、宗教法人法改正時に、所轄の文部大臣だった島村宜伸氏
(自民)は言う。「宗教法人としてのオウム真理教は九六年一月に解散命令が
確定、任意団体になったため、宗教法人法による規制は不可能です。だからこ
そ、破壊活動防止法の解散指定でダメ押しする必要があった。しかし、破防法
への観念的拒否反応や、〃将来にわたる明らかな暴力主義的破壊活動の危険
性〃という厳格な適用条件のため、結局は二年前に棄却されてしまった。今、
犯罪行為の反省もないまま、なしくずし的に活動を再開しているオウムの姿を
みると、あえて適用条件を改めてでも、早急に破防法を適用し、団体活動を禁
止する。ことを再検討すべきだと思います。個々の地方団体や、住民によるこ
れ以上の対応には限界があり、国による法的対応が不可欠です」
なぜ施設を強制捜査しない
与謝野馨通産大臣も、ほぼ同意見。
「自民党政調会長代理の時代、オウムに破防法を適用すべきことを主張しまし
た。しかし破防法を適用するためには、『将来の危険を立証』しなけれぱなら
ず、これは困難きわまる仕事で、結局は見送られることになったのは残念でし
た。現在は閣僚ですので、法の適用や立法についてコメントするのは適当でな
いと考えております」
慎重な言い回しだが、実際、政府内では、破防法による再度の解散指定請求が
真剣に検討されている。野中広務官房長官はすでに、破防法の適用要件から
「政治目的」を外し、当面の対象をオウムに絞り込む考えを示している。
中井治元法務大臣(自由)も、「破防法を連用すべきだった」との立場。
「最初に破防法通用が検討された時、『オウムはもう危険じゃない』とおっ
しゃった方々が、いったい今のオウムをどう見ているのか聞いてみたい。対処
すべき時に対処しないと、後で高くつく、ということを学んで欲しいと思いま
す。ただ今さらいくら『ほれ見たことか』と言っても始まらない。なにより私
が不可解なのは、出家信者の中には未成年者もおり、親御さんたちが捜索願い
を出しているはずなのに、なぜ(オウム施設を)強制捜査しないか、というこ
と。破防法の連用も含め、ありとあらゆる手段を講じていかないと、今度こそ
本当に手遅れになります」
「資産隠し」を暴き出せ
一方、警察庁出身の平沢勝栄氏(自民)は言う。「電話や雪子メールの傍受、
マネーロンダリング(犯罪収益の洗存)への処罰強化を可能にする、組織犯罪
対策三法案が、これから国会で審議されます。暴力団、テロ集団への欧米諸国
の厳しい姿勢に比べれば、むしろ遅きに失したとさえ言える。ところが、戦後
日本では、警察の権力乱用の恐れがあるくらいなら、犯人を取り逃がしてもい
い、といわんばかりの〃人権思想〃がまかり通ってきた。それゆえ破防法も適
用されず、ここまでオウムを野放しにしてしまったのではないか。オウム事件
の再発を未然に防ぐたには、法律的環境を整備し、警察の捜査機能を強化する
ことが必要だと思います」
弁議士出身、江田五月参院議員(民主)の案はこうだ。
「村山内閣当時、私も、オウムに対し破防法適用を検討すべきだと主張しまし
た。しかし、破防法は、暴力革命を指向する政治団体を想定して作られた、冷
戦時代の遺物であるのが泣きどころ。いっそのこと、破防法は廃止して、全て
の組織犯罪に対処できる新たな法律を作る方が、効果的だと思います。今度の
『組織犯罪対策三法』は、あくまで刑法の補完であり、末端信者の犯罪は取り
締まれても、オウム組織が存続すること自体は規制できない。オウムの場合
は、個々の信者が勝手に犯罪を行ったわけではなく、麻原彰晃の指示によって
組続ぐるみで犯罪を行った。それゆえ、もっと抜本的に、資金調達、拠点確保
等々の組織活動そのものを規制できるよう、法体系を変更していくべきだと思
います」
宗教法人法に基づく解散命令に伴い、オウム真理教の破産手続きが進められ
た。教団資産は、麻原が「一千億ある」と豪語し、捜査当局も二百億円前後と
見ていたはずだが、管財人が回収できたのは、約十億四千万円にとどまった。
「信者への土地・建物の名義書換えなど、大規模な『資産隠し』が行われたこ
とは疑いえません。国が債権を放棄したものの、地下鉄・松本両サリン事件を
はじめとする
被害者の損害賠償は、教団資産が底をついていたため、八割近く
が棒引きされてしまった。ところが、現在、オウムの関連会社は、パソコン
ショップの経営などによって、年間七十億もの売り上げがあると言われる。被
害者にとっては、やり切れない話です。こんな不条理を放置していては、法治
主義への信頼感を根本的に損ないます」(紀藤正樹・松本サリン事件被書対策
弁護団事務局長)
法務政務次官として、破産手続きにかかわった横内正明氏(自民)は、この点
に疑問を投げかける。
「関連会社の収益も回収すべきではないか、と阿部三郎管財人に申し上げまし
たが、『現行法の破産法では無理』との答えでした。被害者救済がきわめて不
十分なのは、否めません。何とか、現在のオウムに対しても、被害者が損害賠
債を請求できるような法解釈ができないか。あるいは、破防法によって強制的
に資産を取り上げていくしかないのかも知れません」
『オウム問題を考える国会議員の会』代表世話人、石井紘基氏(民主)の、ア
イデア。
「オウムがパソコンショップ経営等により資産を増やしているにもかかわわら
ず、被害者の補償に振り当てられていないのは、現行法では限界があるためで
す。この点に関して、新たな法律を作る心裏があると思います。本来、オウム
だけでなく、霊感商法などカルト的集団の反社会的活動を封じ込める、包括的
な立法が必要ですが、まず突破口として、『オウム対策特別立法』をぜひ実現
させたい。この問題のみは、これまでの法体系や常識から少々外れても、やら
なくてはならないことがある。1.オウム真理教および関連団体、企業の受入れ
を、各地方公共団体が拒否できる。2.現在でも病床に伏している被害者へのオ
ウムの補償責任を確立する。この二点を骨子とした法案を考えています」
元公安調査庁次長、佐庫道夫参院議員(二院クラブ)の意見。
「麻原逮捕直後から、オウムは各地で集会を開き、大きな施設を借り上げた。
破産で財産はなくなったはずなのに、あのお金はどこから出てきたのか。九五
年三月に上九一色村のサティアンに強制捜査に入った際、教団には十九億四千
万円の現金と預金があったはずだが、その大半が、差押え時には消えてしまっ
ていた。破産宣告に対し、財産隠しを図るのは、懲役十年以下の重い刑に処せ
られるなぜ幹部を罪に問わないのか。現在のパソコンショップは、隠し金がも
とになっている可能性が高い。その疑いだけで、管財人は差押えができるし、
被害者の損害賠償請求も可能。警察・管財人ともに、怠慢の誹りは免れえない
と思います。破防法の適用には、にわかには賛成できませんが、あれだけの犯
罪を起こした団体なのですから、警察・行政は、もっと踏み込んだ対応をして
いいと思う」
超党派の調査委員会結成を
弁護士出身の枝野幸男氏(民主)も、法令の厳格適用を訴える。
「オウムのパソコンショップなとは、表面上は書類を整えているかも知れない
が、実際は信者をただ同然で使い、最低賃金を守っていない可能性が高い。そ
の結果得た収益は、脱税にあたる。まず警察が監視態勢を強め、労働基準局、
税務署など関係の役所が連携して、『オウム対策特別プロジェクト』を作り、
少しでも法令違反があったら、即座に踏み込める体制を作るべきだ。その仕組
みを支える新たな法律が必要なら、ぜひ検討したい」
共産党法務部会長の木島日出夫氏も、対策を研究中。
「組織的犯罪対策法は、盗聴については絶対反対ですが、マネーロンダリング
の規制には賛成です。オウムについても、資金面をはじめ、活動の徹底的洗い
出しは必要でしょう。地域住民に迷惑をかけることも、やめさせなくてはなら
ない。違法建築等々どんな小さな違法行為でも見逃さず、危険の芽を摘み取る
ことです」弁護士出身の大脇雅子参院議員(社民)。「まず国会内に超党派の
オウムに対する調査委員会を設け、改めて現在のオウムの実態や今も病床にあ
る被害者の現状を調査する必要があるでしょう。その上で、新たな立法措置が
必要なら、取り組むべきだと思います」
被害者の救済がなおざりにされたまま、オウムは法を逆手にとってのさぱる。
一般市民の平和を脅かす集団にも、等しく〃基本的人権〃を保証する必要があ
るのか?疑問は否めない。
地下鉄サリン事件被書者弁護団長の宇都宮健児弁護士は言う。「
戦後のドイツ憲法(連邦共和国基本法)は、刑事法や憲法秩序に反する目的・
活動をもった団体を禁止している。市民秩序に挑戦する者には、集会・結社・
表現の自由はないとの考え方です。それを根拠に反ナチ法があり、公の場でナ
チを賛美したり、ネオナチ組織に献金しただけで逮捕される。同様に、犯罪組
織(マフィア)が公然と存在することも許されません。暴力団が堂々と看板を
掲げ、大手を振って歩き回れるような国は、日本だけです。オウムに対して
も、本来、反ナチ法的な姿勢が必要だと思います。少なくとも、宗教法人法で
解散命令が出たオウム真理教が、同じ名前を使って活動し続けることは、裁判
に訴えてでも止めさせないといけない」〃オウム根絶〃に、もはや一刻の猶予
も許されない。