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−ソビエト人が彼らの所謂“宇宙を飛んだ最初の女性”を讃える太鼓を叩き、世界中の通信社がその宣伝
的発表を素直に繰り返していた時、共産主義国の内外を通じ、多くの科学者達は“真実”を知っていた。
それは、宇宙を飛んだ最初の女性は遂に帰らなかったという事である。
一九六一年二月一七日の朝、アラル海に近いバイコヌール基地から、ソ連の巨大な運搬ロケットが発射
された。離陸後数分してソ連以外の追跡ステーションが、月に向かう衛星船の発進を探知し、追跡を始め
た。ここまではお定まり筋書通りというべきである。かねてからソ連の次の宇宙開発計画は、月に向かっ
て飛ぶ有人衛星船であろうという情報は前々から漏れており、当然この打ち上げが、その目的であったと
考えてもおかしくはない。
しかしそれは月を目指していたとしても、明らかに失敗だった。理由は地球の引力を脱出するだけの速
力が得られなかったからである。その為に衛星船は地球を廻る軌道を回る事になった。ソ連はこのカプセ
ルを軌道から地球に引き戻す事が出来なかった。そして人類史上初めての悲劇が起こった。
世界中の追跡ステーションは、この不幸なカプセルに乗っていた男女二人の声を録音した。この死の運
命を担った男女は、七昼夜の間正しい間隔をおいて、ソ連基地へ報告を送っていた。ソ連外の聴取者達は
この長期飛行及びこれに関する、ソ連側の奇妙な沈黙をいぶかった。その飛行はそれまでに達成された何
れの記録も破っていたが、ソ連は何も言わなかった。
何れは自分達の棺となるべき、カプセルにいる男女二人は、時々刻々昼夜を分かたず、謎の通信を地上
へ無線で送っていたのである。
「万事好調、我々は予定の高度を維持している」
この薄気味悪い冒険のクライマックスは、二四日の夕刻にやって来た。ウプサラ、ボシャム、チューリ
ン、ミュードンの各追跡ステーションは、この不幸な二人の宇宙飛行士の最後の声を録音した。
「コンディションは万事OK、カプセルは予定の高度を保っている」
いつもの通信の後、暫く言葉が切れた。やがて男の声で、
「我々はダイヤルを読む事はできるが、シグナルは明らかでなく、何も見えない」
それから五秒程沈黙が続き、女の声が不意に叫んだ。
「私はこのようにして、右手でしっかり支えていましょう! このようにして、私達は始めて平衡を保つ
事ができます。覗き窓を覗いてご覧なさい! 覗き窓を覗いてご覧なさい! 私は……」
数秒後に男の声が叫んだ。
「ここに! ここに何かがある! ここに何かがある! 難しい……」
数秒程言葉が途切れた後、彼は再び続けた。
「もし我々が脱出できなくても、世界はそれについて何も聞く事はあるまい。難しい……」
その時、ソビエトの放送局が割って入り、
「ただ今、モスクワ時間で午後八時です」
と伝えた。放送局が時報を伝え終わった時、カプセルからの通信は宇宙の沈黙の中に消え失せ、二度と再
びその声を聞く事ができなかった。
従ってテレシコワの前に、地球へ戻らなかった不幸な女性宇宙飛行士がいたのである。彼女と同僚の男
性に何が起こったのか、恐らく我々は何も知る事ができないだろう。ソ連自身何も知っていないかもしれ
ない。我々は彼らの運命がどのようなものであれ、その霊魂の安らかならん事を祈るものである−。
フランク・エドワーズは右のように述べた他、一九六二年六月までに、ソ連は少なくとも五名、恐らく
は七名の飛行士を失い、うち一名は女性であるといっている。(『世界の怪奇ミステリー』)
「メーソンが、エアロックの外側の扉を押し開けた時、見たものは、雄大ではあるが荒れ果てた眺めだっ
た。地平線に近く、強い光の太陽が輝き、ビロードのように真黒な空には星が煌めいていた。太陽と殆ど
正反対の地平線近くには、周りのあらゆるものと異なった、驚く程綺麗な天体−二人の飛び出してきた地
球−が、多色刷りの円板のように見えた」(フォン・ブラウン博士の空想科学小説『月への一番乗り』)
♪ベートーベン(メーソン)の第九終楽章で歌われるシラーの詞章「歓喜の歌」
−前略−
君(歓喜)の不思議な力が再び結び合わせる、この世の習わしが分裂させたものを。
人間は全て兄弟になる、君の広げた優しい翼のもとで。
−中略−
照り輝く天使の陽光のように快い、 それは天の素晴らしい計画による。
兄弟たちよ、君たちの道を歩め、 勝利を得た英雄のように喜べ。
百万の人々よ、抱き合え! 全世界からの口づけを受けよ!
兄弟たちよ! 星々の幕屋の上には愛すべき父が本当に住んでおられる。
百万の人々よ、君たちは跪いたか? 世界よ、創造主の存在を感じ取ったか?
星々の幕屋の上に神を探せ! 神は星々の上に必ず住んでおられるのだ。(訳:国本静三)
#第九ブーム…長野オリンピック、エヴァへの挿入、ラヴ&ピース…皆で唱おうGGGのG(誤爆)。
「今、我々の住んでいる世界は、実に奇妙な謎に満ちている」−フランク・エドワーズ
「我々は、何ものかに飼われているのだと思う」−チャールズ・フォート