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クリントン米大統領の弾劾裁判に幕が下り、1年余り不倫疑惑報
道のとりこになってきた米メディアは、新たなネタ探しに困窮して
いる。「この疑惑の前にどんなニュースを報じていたのかを思い出
せない」(ワシントンポスト紙ハワード・カーツ記者)ほど不倫疑
惑に明け暮れた記者たちは、大統領の無罪放免で肩すかしを食った
だけでなく、疑惑に飽きた国民との乖離(かいり)を批判され、重
い後遺症を引きずっている。
「セックスなしでは、もうニュースは大きな関心を呼ばない」と
タイム誌のマーガレット・タッカー記者。年金改革や減税、200
0年の大統領選挙と米国の課題は多い。だが不倫疑惑と比べると食
指は動かないと言う。
CNNテレビで解説役も務めるタッカー記者は「私の収入も減り
そう。テレビに頻繁に登場した憲法学者、元連邦検事たちは料理番
組でも持つのかしら」とテレビ・インタビューで笑った。
弾劾裁判終了後、週明けの米テレビは米軍のコソボ派遣、コロラ
ド州の美少女殺人事件などを取り上げ始めたが、主流はヒラリー大
統領夫人の上院選出馬問題や大統領の過去の女性問題など依然、不
倫疑惑の余波が続いている。
湾岸戦争やダイアナ元英皇太子妃の事故死など大ニュースの後は
24時間ニュース局の視聴率は必ず急落する。CNNやMSNBC、
CNBC、FOXの計4局がしのぎを削る24時間ニュース局は、
早くホットニュースを見つけないと経営に響く。
国民との乖離(かいり)も米メディアの苦悩材料。3日発表のニ
ューヨーク・タイムズ紙の世論調査では、弾劾裁判に深い関心があ
ると回答したのは、2割弱。「世紀の裁判」とのメディアの売り口
上に国民は乗らなかった。
公開された弾劾審議すべてを生中継したCNNのジュディ・ウッ
ドラフ記者は「国民が裁判に関心がないのは知っていたが、大統領
が憲法で裁かれているのに無視はできない」とジレンマを話す。
「匿名の情報源」によるニュースもはんらんした。シカゴ・トリ
ビューン紙のジム・ウォレン記者は「調査報道が少なかった」と振
り返る。特ダネと称された記事は、大半が大統領側か共和党側かが
意図的な世論捜査を狙って「記者に与えたネタ」という。
また露骨な性表現が活字にされ、テレビで流れるのに抵抗感がな
くなったのも不倫疑惑の産物だ。大統領の性関係を詳細に暴露した
特別検察官の捜査報告書を一早く入手したCNNのキャンディ・ク
ローリー記者は「初めはこんな内容はテレビで流せないと思ったが、
生リポートでは他のニュースと変わらないというのが実感だった。
後で母親から、こんなことのためにジャーナリズム大学院に行った
のかと言われたけど」と振り返った。(ワシントン共同)
(了)
[共同 2月16日] ( 1999-02-16-16:07 )