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アウシュヴィッツの犠牲者数の変遷
犠牲者四〇〇万人説の根拠
四〇〇万人説は強い影響を保ち統けたが、アウシュヴイッツのユダヤ人犠
牲者は約二五〇万人であったとの説が流布した結果、ナチスが一〇〇万人
以上のユダヤ人以外の人々をここで殺したとの誤解を生み、犠牲者全体に
対して占めるユダヤ人の比重を過小評価することになった。
一方、犠牲者数をめぐるその後の説を規定した今一つの要因は、一九四〇
年から四三年まで収容所の司令官を務めたルドルフ・ヘス(ナチ副総統ル
ドルフ・ヘスとは別人)の証言である。一九四六年四月一五日、ニュルン
ベルクの国際軍事法廷に証人として出廷したヘスは、アウシュヴィッツに
おいては二五〇万人がガス室で殺され、そのほか五〇万人が飢えと病気で
死亡したと証言した。ヘスのこの証言は、ニュルンベルク裁判の判決文で
も引用された。ヘスはその後ポーランドヘ送られ、ポーランドの裁判にか
けられて処刑されたが、ポーランドヘ送られた後、犠牲者の総数は一一三
万人であったと前の証言を訂正した。もっともその後、ヘスは再度証言を
訂正し、アウシユヴイッツでは数百万人が犠牲となったが、正確な数字は
確定できないと述べている。
ヘスのポーランドでの裁判にあたっては、「ポーランドにおけるドイツの
犯罪調査委員会」が一九四五年五月から四六年九月まで調査を行い、アウ
シュヴイッツの死体焼却炉の能力及ぴ稼働状況から、四〇〇万人以上がガ
ス室で殺され、死体焼却炉で焼かれたと結論し、その結果は証拠として提
出された。ヘスを裁いたポーランドの最高法廷は、犠牲者は二五〇万人を
下らないことは確実であり、その大部分はユダヤ人であるとの認定を行っ
ている。
その後の歴史家の評価は、約一〇〇万人から四〇〇万人の間で分かれるこ
とになった。それは、必ずしも多い方から少ない方へと時系列的に変化し
てきたわけではない。総じてソ連や東欧諸国では、ソ逆の調弁委員会の報
告に従って四○○万人という数字が引かれることが多かったのに対し、西
側では、ヘスの証言に近い一〇〇万人から二五〇万人という数字があげら
れることが多いといわれる。
(中略)
構牲者数の新たな提唱
このような状況の中で、最近、アウシュヴイッツの収容所博物館の一研究
者の論文によって新たな説が唱えられ、これに従って収容所の碑に刻まれ
た犠牲者の数字が今年中にも改められることになったことがわが国でも報
じられている(一九九四年五月一〇日朝日新聞、雪山伸一「歴史の真実・
アウシュヴィッツと南京」)。この説は、収容所博物館歴史部主任F・ピ
ペル博士により、一九九〇年七月に発表されたもので、現存する断片的な
資料を手掛りに、過去の諸説を再検討し、一九四〇年から四五年までの間
に少なくとも一三〇万人(うち一一〇万人がユダヤ人)がアウシュヴィッ
ツに送られ、一一〇万人が犠牲となったこと、犠牲者数は最大限に見積
もっても一五〇万人以下であること、犠牲者の約九割はユダヤ人であり、
残りはポーランド人、ジプシー、ソ連の戦争捕虜などであったことを結論
として導いている。この新説に従い、アウシュヴイッツの犠牲者数を四〇
〇万人とし、犠牲者の筆頭にユダヤ人ではなくポーランド人を記していた
記念碑のプレートはポーランド政府によってすでに撤去された。(筆者は
雪山氏の御厚意により、ピペル博士の著作"Auschwitz-How many perished
Jewes.Poles Gypsies"1992に接することができた。本稿の記述もこれに負
うところが大きい。)
アウシュヴイッツは、ナチスによる歴史上類を見ない大量殺戮が行われた
所であることに変わりはなく、犠牲析四〇〇万人が一〇〇万人になったと
ころで何の違いがあるかという見方も成り立ち得よう。しかし、アウシュ
ヴィッツにせよ南京にせよ虐殺の事実そのものを否定する見解すら述べら
れている現在、実質的な裏付けのない犠牲者数の推定は、批判の前に脆さ
を露呈するおそれすらなしとしないであろう。その意味からも、アウシュ
ヴイッツの犠牲者数をめぐる論議は注目に値すると思われる。
なお、アウシュヴイッツは、第三帝国において最大規模の絶滅収容所で
あったことからそこでの犠牲者の数にともすれぱ焦点が当てられがちで
あったが、右にみたような犠牲者数の下方修正が、ナチスに殺された五〇
〇万とも六〇〇万ともいわれるユダヤ人犠牲者の総数に直ちに影響するわ
けではないことも注意を要する点であろう。
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なお,「侵略の正確な実像をとらえるために」は金曜日の付けた見出しですが,
ほんとうは「虐殺の正確な実像をとらえるために」であるべきだろうと思います。
(収容所で殺された人は,ドイツ国内のユダヤ人やジプシーもたくさんいた)
この「書き間違い」は,ほんとうは南京虐殺の修正主義を批判したい金曜日編集
部の「フロイト的な誤謬」であろうと思われます(^^)。
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。