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ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−7

投稿者 名無しA 日時 2001 年 12 月 22 日 10:52:44:

YS/2001.12.18
      ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−7

■アメリカ・ブロードバンド戦争

 今回の同時多発テロを契機に日本でも軍備拡充か縮小かの議論
が巻き起こっている。議論の重要性は認めるものの、この種の議
論を好む方に共通するのは時代認識の欠如である。急速に時代が
変化する中で、安全保障上における情報通信分野での覇権確立が
最もホットなテーマとなっている。もとはと言えば、湾岸危機に
おける日本批判のトラウマも情報発信能力に致命的な問題があっ
たためである。この主戦場の最新動向を見ていきたい。ここでも
日本勢の姿は全く見えないことを最初にお知らせしておく。

 これまで見てきたとおりラザード・グループは、一貫して民主
党クリントン政権を支持し、資金的な援助も行ってきた。昨年ラ
ザードを去った元上級経営幹部スティーブン・ラトナーも民主党
ゴア候補の財政アドバイザーを務め、ゴア政権が誕生していれば
財務長官就任も噂された人物である。

 ラトナーは、1989年にモルガン・スタンレーからラザード
・フレールに転身し、メディア&コミュニケーショングループを
設立、以後ベルテルスマン(ドイツ)、ニューヨークタイムス、
パラマウント、AOL、タイム・ワーナーなど大手メディア企業
を相手に実績を残してきた。そしてそのひとつが、コムキャスト
である。

 今年1月10日、コムキャストはパリから戻ったばかりのフェ
リックス・ロハティンの社外取締役就任を発表する。これは、明
らかにM&A戦略強化のためである。

 1999年3月、コムキャストは、486.3億ドルで業界4
位のメディアワンを買収すると発表する。ところが、これに待っ
たをかけたのがアメリカ最大の総合通信事業者AT&Tであった。
「総合サービス・プロバイダー」をめざすAT&Tは、企業規模
にモノを言わせて540億ドルを提示し、買収合戦が繰り広げら
れるが、最終的にコムキャストは敗北することになる。

 CATVはAT&Tが独占するのではとの観測が流れたが、今
年に入って形勢が逆転する。AT&Tはマイケル・アームストロ
ング会長が就任した1997年以後、CATVの拡大路線をひた
走り、惜しげもなく買収に費やした金額は1000億ドルを超え
る。しかし、巨費を投じて手にした回線の多くは老朽化が進み新
たな投資が必要だった。加入世帯数1500万、シェア22%の
巨大勢力は規模の利益を出す前に債務が膨張し、株価低迷と過剰
負債に苦しみ、CATV事業の事業分離を決断せざるをえない状
況に追い込まれる。

 ここで再度登場するところが、フェリックス・ロハティンらし
い。

 今年7月、コムキャストは、AT&TのCATV事業を総額5
80億ドル(負債引き継ぎを含む)で買い取るという買収提案を
行う。AT&Tがこれまでに投じた金額のほぼ半額の買収提案額
に対してAT&T側は「安すぎる」といったんは拒否する。

 ここから巨大オークション状態に突入する。AT&Tのアーム
ストロング会長の威信をかけた価格つり上げ交渉の開始である。
この買収に第4位のコックス・コミュニケーションズとCATV
事業でも2位につけるAOL・タイムワーナーも名乗りをあげ、
さらにはAOL・タイムワーナーの独占許さずとマイクロソフト
も参戦する異常な事態となる。

 AOL・タイムワーナーの買収が実現すればCATVで40%
を握ることになる。AOLはすでにインターネット接続でほぼ独
り勝ちをおさめ、豊富なコンテンツを持っている。さらに一般家
庭につながる情報インフラまで握ってしまえば、一大メディア帝
国誕生となる。

 マイクロソフトも家庭分野に対して並々ならぬ情熱を注いでお
り、ゲーム機に参入したのも家庭との太いパイプの確保をめざし
たものだ。しかし、自社でCATVを運営するノウハウに乏しい
ため、コムキャストかコックスのいずれかが買収を決めた場合、
マイクロソフトも30〜50億ドルを出資し、共同買収の形にす
る戦略に出る。すでにマイクロソフトは、コムキャストに10億
ドル、AT&Tに50億ドルの出資して大株主となっており、コ
ムキャスト優勢のまま現在もその攻防が行われている。

 12月7日付けの日経産業新聞は、この買収劇を「マイクロソ
フト」対「AOL・タイムワーナー」の代理戦争と書いていたが、
ビベンディ・ユニバーサルの存在を忘れているようだ。

■ブロードバンド戦争とFCCとパウエル親子

 このAT&TのCATV事業売却をめぐり、米メディアも報じ
ない側面を紹介しよう。

 1934年の連邦通信法によって設立され、ラジオ、テレビ、
通信、衛星、ケーブルテレビを用いた州及び国際間の相互的なコ
ミュニケーションを管轄しているのが、FCC(連邦通信委員会)
であり、直接議会に対して責任を持つ政府から独立した連邦機関
となっている。

 今回の買収劇には、このFCCが大きく関係している。これま
で1社が所有する放送局の放送到達範囲は全視聴世帯の35%以
内としてきたが、今年3月に下された「CATV事業者の所有規
制は言論の自由に反する」という違憲判決により、この上限を引
き上げようとする動きも出ている。

 ブッシュ政権誕生後、通信分野でも相次いで規制緩和策が打ち
出されており、こうした動向が今回の買収劇を加速させる結果と
なっている。

 ブッシュ政権が任命したFCCの委員長はマイケル・パウエル
である。AOLの取締役であったパウエル国務長官の息子である。
AOLもブッシュ大統領に対して巨額の献金を行ってきた。この
ためこの買収劇もAOL・タイムワーナーが巻き返してくる可能
性を指摘するメディアもある。ところがこのマイケル・パウエル
は、父親同様不思議な存在である。

 マイケル・パウエルは、確かに共和党支持者であるが、FCC
の議長に任命されたのはクリントン政権時であり、民主党とも深
いおつき合いがあるようだ。出身はオメルベニー&マイヤーズ法
律事務所のワシントンオフィスである。

 ブッシュ・ゴア天下分け目の決戦となったフロリダ州開票作業。
ブッシュ陣営を率いたカーライル・グループの上級顧問ジェーム
ス・べーカー(財務長官、国務長官を歴任)もベーカー・ボッツ
法律事務所のシニア・パートナーである。

 対するゴア陣営を率いたのが、ウォーレン・クリストファーで
あった。ウォーレン・クリストファーは、クリントン政権の国務
長官(1993〜97)であり、マイケル・パウエルが在籍した
オメルヴニー&マイヤーズ法律事務所のシニア・パートナーであ
る。共に国務長官を経験した弁護士の一騎打ちとなっていたので
ある。

 オメルベニー&マイヤーズ法律事務所の拠点はロサンゼルスに
あり、もうひとりのシニア・パートナー、ウィリアム・コールマ
ン元運輸長官(フォード政権−1975〜77)もゴア候補を支
持した。

 ウォーレン・クリストファーは、かってはロッキードの取締役
を務め、一方ウィリアム・コールマンは、チェース・マンハッタ
ン・バンクの取締役を務めていた。そしてふたりともパン・アメ
リカン航空(パンナム−1991年操業停止)の取締役であった。
従ってロハティンとは長いつき合いのようだ。

 そしてもうひとりこの買収劇の鍵を握る人物がいる。

★メモ−−「日本版FCC」について

 政府のIT戦略本部(本部長・小泉純一郎首相)は12月6日
の会合で、米FCC(連邦通信委員会)のような独立競争監視機
関の設置の検討も含めた改革案の議論を行う。どうやら情報通信
分野の規制・監督機能強化を行いたいようだが、これは全く時代
に逆行するものである。

国際戦略コラム
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/




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