02/17 16:41 「アウシュビッツ」存続を 末期がんと闘い、館長訴 社会13
共同
ぼろぼろの囚人服をまとった骨と皮ばかりのユダヤ人たち。がれ
きのように積み重なった遺体の山。ナチスの迫害で、苦しみながら
この世を去った者の叫びが聞こえてくるような写真が、壁に並ぶ。
栃木県塩谷町の「アウシュビッツ平和博物館」。ポーランドにあ
るアウシュビッツ強制収容所の犠牲者の遺品などを展示する日本で
唯一のこの施設は三月末で閉鎖される。地権者が土地を売却するた
め、立ち退きを余儀なくされているからだ。
「アウシュビッツを通じて差別や人種問題を訴え続け、命の尊厳
を子どもたちに伝えるため何としても移転して存続させる」。博物
館の設立者で館長の青木進々さん(67)は末期がんに侵されなが
ら、施設の存続に残る人生のすべてをかけている。
グラフィックデザイナーとして欧州に滞在していた青木さんは四
十九歳の時、訪れたアウシュビッツ収容所跡で大量虐殺の舞台とな
ったガス室に入った途端、息苦しさを覚え室外に逃げ出した。
ナチス占領下で親族を殺される様子を淡々と描いた子どもの画集
をポーランドの本屋で見つけ、さらに打ちのめされた。「社会が一
つの民族を意図的に抹殺するという、ホロコーストの異常さに身震
いした」
アウシュビッツ研究にのめり込んだ青木さんは、この悲劇を日本
に伝えようと、画集の翻訳版を出版。ポーランドの国立アウシュビ
ッツ博物館から所蔵品の貸与を受け、日本全国で計百十回もの巡回
展を開催。ボランティアらと博物館建設を目指したが、候補地の周
辺住民の反対などで計画は進まず、一昨年四月、十九カ所目の候補
地でようやく開館にこぎ着けた。
しかし昨年六月、医師から「あと半年の命」とがんを告知され、
追い打ちをかけるように土地売却問題が浮上。博物館の趣旨に賛同
した主婦ら約六十人は、青木さんを救おうと募金活動を始め、窮状
を知った県内外の二十人が土地・建物の提供を申し出ている。
青木さんは入退院を繰り返しながら、存続に向けて関係先を走り
回り、講演も続けている。「移転後の新しい博物館を目にできない
のが頭にくるんだよね」。頭の中には、生まれ変わった博物館の姿
しかないようだ。
死は確実に迫っているが、顔に悲壮感はない。「平和づくりに死
ぬまでタッチできたという思いを持ちながら人生をゴールインでき
るのだから喜ばしいことだよ」
平和博物館は三月末まで特別に入場無料。募金の受け付けや問い
合わせは同館、電話0287(45)2811。
(了) 020217 1640
[2002-02-17-16:41]