2月8日にスペインのカセレスで開催されたEUの外相会議は、現在NATO軍が展開しているマケドニアの平和維持任務を新しく創設する『EU軍』部隊が引き継ぐことで前向きの合意をみた。
EU軍創設は、昨年12月14日に開催されたEU首脳会議で論議され、2003年発足というスケジュールも出ていたが、一気に、今年の夏までに実現することになったのである。
むろん、NATO加盟のトルコとギリシャの軋轢が障害にはなるが、キプロス問題が解決の方向に向かっていることから実現の可能性が高いだろう。
日本ではあまり報道されていないようだが、トルコは、自国がEUに加盟するための最後の切り札としてキプロス問題を使うようになった。
それは、キプロスのトルコ人支配地域を形式的に放棄して「単一国家キプロス」となり、「キプロス」がEUに加盟することで、トルコ人地域が存在する「キプロス」を盾に自国もEU加盟を果たそうという最後の賭けにも等しい外交政策である。
今回の年内EU軍創設も、このようなキプロス問題=トルコVSギリシャに解決の兆しが見えたことから現実のテーマになったと思われる。(トルコをEUに加盟させる可能性は低いと見ているので、“いい環境”のときにことを進めたいというEU主要の思惑があるのだろう)
[欧州の今後の軍事体制]
EU軍−−−−−−−
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米軍−−−−−−−−│━NATO
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ロシア軍−−−−−−
今週の多国間軍事体制はざっぱくにはこのように構図になり、NATOは調整機関的な役割になっていくものと思われる。これは、欧州における米軍の役割が大きく低下を意味する。(ブッシュ政権の“反イスラム戦争”に対して英国を除くEU諸国は、おこぼれは欲しいが距離を置く構えである。ブッシュ政権も、そこまでとても手を広げられないから欧州問題からは手を引くだろう)
ロシアは、既に、NATOのオブザーバー的な位置を占めているが、プーチン政権がEU加盟に意欲的なことから、加盟が実現(プーチン大統領はなんと2003年加盟を目指している)すればEU軍には部隊を派遣すると思われる。
プーチン政権は、EU加盟を実現するために、トルコと同じような手を使っている。
トルコとは違って主として国内を意識したプロパガンダだが、EU加盟に反対する国内勢力を抑え込むために、「カリーニングラード」問題を打ち出している。
一大資源国家であるロシアのEU加盟については、ドイツ・フランスなど主要EU加盟国はもろ手を上げて歓迎である。
「カリーニンググラード」は、ポーランドとリトアニア(2003年に加盟が確実されている)がEU加盟国になることで、EU圏にぽっかり存在するロシア領となってしまう。
プーチン大統領は、一部であれ自国領土がEU圏のまっただ中に浮かぶ島になってしまうことの危機を国民に訴えている。(「カリーニングラード」は放射能と化学物質の汚染が深刻な地域でもある)
ロシアのEU加盟で最大の障害になるには、歴史的な経緯からポーランドの対応であろう。このため、プーチン大統領は、ポーランド懐柔策を真摯に行っている。
1月中旬にポーランドを公式訪問した(フランスへの非公式訪問の後で)プーチン大統領は、ポーランド経済界向けに次のような演説を行った。
● ポーランドからロシアへの輸出は、90年代中頃に較べ1/4になり、ポーランド東部では建設資材などの業者が倒産している。このような状況を改善するために、クワシネスキー大統領と経済協力文書に調印した。近い将来、その効果が肌で感じられるようになるだろう。
● ロシア語の“宮殿”は、ポーランド語では“駅”だということを教えてもらった。それで、さすがポーランドは豊かだね。ロシアでは宮殿のような建物も、ポーランドでは駅なのか。(ポーランド側出席者の大拍手)我々の宮殿が駅と間違われないような立派な建物になるためにも、そして、駅がまるでお城だと言われるようになるためにも、ロシアとポーランドは一緒に働かなければならない。
(プーチン大統領はポーランドをそこそこ話せる)
● さらに、プーチン大統領は、第二次世界大戦でポーランドに侵攻したためにロンドンに設立された「亡命ポーランド政府」首相のものでロシアが保管していた文書をポーランドに返還し、「亡命ポーランド政府」部隊の慰霊碑にも献花した。
このように、ロシア政権は、過去の歴史も踏まえた外交政策でポーランド国民の“ロシア嫌い”をなんとか払拭し、EU加盟の障害を取り除こうとしている。
国内で反政権的TV局を“召し上げる”などのメディア規制に取り組んでいるのも、「反EU加盟」の論調を抑え込みたいという考えに基づくものだと思われる。
ヨーロッパ諸国は、『脱アメリカ合衆国』・『パックスアメリカーナ世界以後』をにらんだ外交展開を着々と行っている。
そして、日本だけ(本当に日本だけ)が、激変している世界の今後をまったく考えないまま、旧来の「対米追随外交」にどっぷり浸り、それが“真理”であるかのような顔をしているのである。