NOT SO FAST「もう少しゆっくりと」
ドネラ・メドウズ
http://www2.ocn.ne.jp/~ozeki/heal2.html
速度を落とすことが、世界を救うたったひとつのもっとも有効な行為かもしれない。
Slowing down could be the single most effective action to save the world.
(ドネラ・メドウズ(Donella Meadows)は、アメリカ、ダートマス・カレッジの環境学の教授です。)
環境破壊や、強奪を重ねる貪欲さ、朽ち果てていく道徳観、ドラッグ、犯罪、人種差別、その他諸々のことから世界の救済を必要としていると考えている私達の多くは、お気に入りの治療法を行使するための改革運動に忙しい。学校クーポン。炭素税。キャンペーン改革。絶滅の危機に瀕している種の保護法。より低い資本利得税。規制強化。規制緩和。わかりますよね。私達がそれでお互いの頭の上を殴りあうのを好む、あの相互に一貫しない聖杯の長いリストです。
けれども、この世界の様々な問題を解くひとつの解決法があります。熱狂的な運動家達が、それを提案するのはいままでに聞いたことはありませんけれど。
速度を落とすのです。
スピードをゆっくりしていくことが、私自身も没頭している一種特殊な、世界を救うための闘争、持続性のため、地球の限界と法則の範囲内で、調和し満足して生きるための闘争のただひとつの、一番有効な解決法かもしれません。
仮に、私達がこんなに急いでいなかったら。運転する代わりに歩く時間を、飛行機に乗る代わりに船で行く時間をとれるでしょう。私達の散らかしたものを、きれいに片付ける時間も作れるでしょう。ブルドーザーを送り込み、取り返しがつかない変化を作り出す前に、コミュニティ全体を通して私達の計画を話し合う時間も。残されている魚を誰よりも多く捕ろうと、船が競い合って出て行く前に、海が生み出す魚の数をちゃんと計算して明らかにする時間も。
もし、私達が、花の香りを楽しむためばかりでなく、私たち自身のからだを感じるためや、子供達と遊ぶため、日程や時間割なしで愛するものの顔をそのままに見つめるために充分にゆっくりのペースを守ったなら、また、ファースト・フードをぱくつくのを止め、注意深く育て、調理し、給仕され、食べられるスロー・フードを楽しみ始めたなら、また、毎日静かに座る時間をとるならば、
もし私達がそうしたなら、世界はあまり救済を必要としないだろうと、私は思うのです。
エネルギーや物質の消費を徹底的に切り詰めることも可能でしょう。そうすることによって私達は、使用するものから完全にいいところが得られるでしょう。時間を節約するために沢山物を買い込む必要はなくなるでしょう。(時間節約のための用品で節約した時間は実際どうなっているのかを、考えてみたことはありますか?)私達はそう多くの間違いは犯さずに済むでしょう。お互いにもっと耳を傾けて、傷つけあうことが減るでしょう。もしかしたら、それぞれの主張する解決法を議論しあって、試し、そしてそれらの実際の効果について学ぶ時間さえとれるかもしれません。
トラピスト修道院で時を過ごしたトーマス・マートンはこう言いました: 「行動主義と働きすぎという理想主義者がもっともたやすく屈服する、普及している形の現代的暴力がある。矛盾する多々の関心事に押し流されてしまうことを自分に許すこと、多過ぎる要求にこたえようと自分を引き渡してしまうこと、関わっている人々が多過ぎる状態、すべてのことにおいてみんなを助けたいと思うことは、暴力に負けているのだ。運動家の過激さは、その平和のための仕事を無効にする。その運動家の仕事の有益さを滅ぼしてしまうのである。その狂乱が、その仕事を実り多いものにする内なる知恵の根を枯らしてしまうからである。」
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インドにいる友人が、彼の国においての西洋広告業の猛襲は、文化的強襲だと話してくれました。広告のメッセージのせいというよりは、そのペースのためであり、テレビプログラム、特にコマーシャルの呆然とさせるほどの刺激の連続は、何千年もの瞑想の伝統とは正反対だというのです。私にも想像できます。インドで物事が運ぶペースは眠気を誘うほどで、私は気がおかしくなりそうになったことがあります。この人々は、時は金なりということを知らないのかと。
実は彼らが知っているのは、時は人生であるということで、ものすごい勢いで走りながらそれを通り過ぎていくのは、生きることを逃しているということなのです。
ペースを落としましょう。まず、それをやってください。それから、静かに、注意深く、ほかに何か必要なことがあるかについて考えてください。
この治療法の唯一の問題点は、私には、ほかの人々には処方ができないということです。なぜなら、この処方を実践するのに、私自身とても骨が折れているからです。世界の猛烈な速度で進んでいるペースに飲み込まれてしまうのは、いとも簡単なことです。他の世界救済者達の大半のように、私は、健康的な食生活をするにも、静かに座るにも、休暇をとるにも、また時には、考える時間さえままならないほど、忙しすぎるのです。
環境保護主義の偉大なる意地悪じいさんであるエドワード・アビ―は、もっとよくわかっていました。「土地のために戦うだけでは十分じゃない。 それを楽しむことがはるかに、より重要なのだ。そうできるうちは。まだそれがここにある間は。さあ、外へ出て行って狩りをし、魚を釣り、友人達と一緒にほっつき歩きなさい、向こうへ散歩していって森を探検しなさい、山に昇りなさい、川を走りなさい、まだ甘く透明な空気を深く呼吸しなさい、しばらく静かに座ってそのかけがえのない静けさ、あの愛すべき神秘的な荘厳な空間を瞑想しなさい。楽しみなさい、脳を頭のなかにとどめて、その頭はしっかりとからだにつけておきなさい、からだは活動的に生き生きとしているように、そうしたらあなたにこれだけは保証しよう。 私はあなたに、このひとつの甘い勝利を約束する。心を貸し金庫に預け、目は机上の計算機によって催眠にかけられた、あの机に束縛されている人々に対しての勝利だ。私は保証する。あなたはやつらより長く生きながらえるだろう。」
いいアドバイスですね。私にはこれを実践する暇がなくて残念です。世界を救いに行かなくてはなりませんから。