日本の主要メディアは、アフガニスタンの戦争は基本的に終わり、米軍が残務整理的な戦闘をちょこちょこやっている程度であり、「暫定行政機構」と国際協力で復興が今にも始まるかのような報道を続けている。
しかし、これは、ブッシュ政権の報道管制とメディア記者の無思考がもたらしている夢想でしかなく、「アフガニスタン戦争」は、カンダハル明け渡し後の米軍地上部隊侵攻から米軍とアフガン愛国勢力の本格的な戦いが始まったのである。
むろん、戦闘機がドッグファイトを交わすという華々しい近代戦ではなく、近代化された米軍にとっては、誰が敵で誰が味方かさえ判然としないなか、不慣れで困難な地形という条件で、信念に支えられた巧妙なゲリラ戦に対抗しなければならないという厳しい戦いである。
これまでも、「ブッシュ政権はアフガニスタンで勝利できない」という趣旨の書き込みを続けてきたが、その根拠を簡単に書き込みたい。
■ アフガニスタン諸勢力の今後
米国のメディアが流している報道内容やせいぜいその価値観に基づいて原稿を書いている日本の報道内容では、「アフガニスタン人は文明的に遅れておりお金で簡単に動く」という偏見が生じるのはやむを得ないことだろう。
しかし、苛酷な対ソ連戦を10年間も戦い抜いてソ連軍部隊を撤退させ、“チェルノブイリ”とともにソ連を崩壊させるほどの大きな一撃を与えた人たちである。
イスラム諸国や米国から支援があったとしても、前線で命をかけて戦ったのは、イスラム信仰に支えられたアフガニスタン人でありムスリム義勇部隊である。
それは、決してお金のための戦いではなく、外国兵力を国土から追い出すためであり、ムスリムの信仰を守るための戦いである。
愛国主義や信仰という精神的側面だけではなく、アフガニスタン諸勢力の政治的軍事的巧妙さは、タリバン勢力の「ほぼ無傷の撤退」という現実を顧みればわかることである。
北部同盟も、無駄な殺戮はあまりしなかった。
愚かな負け戦をしたり意味のない虐殺をするような勢力は、アフガニスタンではとっくに淘汰されている。
これまでの戦況を見る限り、アフガニスタン諸勢力の大半が、ブッシュ政権よりは思考力が上なのである。
ブッシュ政権が「アフガニスタン復興会議」の早期開催に走ったのは、アフガニスタン国民の生活復興を意図したものではなく、北部同盟にお金を渡すことでなんとか反米=愛国的な勢力の増大を抑え込みたい思いからである。(一方で空爆や地上攻撃を継続しながら、復興を叫ぶ欺瞞性を指摘すれば十分だろう)
これは、日本が米国より多い5億ドル(約665億円)の供出を決めた支援金が、全額アフガニスタンの復興のために使われるのではなく、アフガニスタンの親米勢力拡大資金として使われる可能性が高いことを意味する。
これを裏付けるかのように、U.N.報道官マリエ・オカベさんは、U.N.本部における記者会見で、日本での復興会議を評価した上で、「支援金がすべて具体的な事業に回るとは限らない」と語っている。(「NHKBSニュース50」)
北部同盟諸司令官は、兵士への給与支払いさえできない状態にあり、米軍の作戦に協力して“勝利させてやった功”に対する見返りを今か今かと待っている。その期待があるからこそ、現在のようなレベルの対立で収まっていると言えるだろう。
ヘクマティアル元首相のみならず北部同盟のサヤフ司令官といった非タリバン勢力が、「暫定行政機構」を傀儡政権と見なし、タリバン勢力とともに反米=愛国闘争に立ち上がっている。
一方で、米軍は、誤爆なのか意図的な空爆なのかわからないが、“味方勢力”を攻撃して殺戮するといった愚かな戦術を採っている。これは、たとえ賠償金を支払ったとしても、反米勢力を自ら拡大させているに等しい軍事行動である。
北部同盟諸勢力が、“復興資金”からそれなりのお金を受け取ったからといっても、親米であり親「暫定行政機構」であり続けるという保証はない。受け取るお金は、あくまでも、昨年10月から12月の米軍作戦で前面に立って戦ってやった報酬でしかないからである。(政権をもらえなかったのだから、要求額は大きくなる)
北部同盟諸勢力がお金を受け取ったときが一つの大きな分岐点であり、その後の政治状況をにらみながら、反米に動く勢力、反「暫定行政機構」に動く勢力、同盟内の勢力争いに走るものと大きな変化が起こるだろう。
反米ではなくても、ほとんどの武装勢力が、資金待ちでくっついているだけの「暫定行政機構」からは次の政治的チャンスをにらんで離反しようとするだろう。
カルザイ議長は、そのような事態を避けるため、資金を自分が管理して自分が指揮する「国軍」の創設に動こうとするだろうが、“報奨金”の分まで握りしめてそれを行おうとすれば、猛反発を受けることになる。そのため、ブッシュ政権は、支援金のなかから「国軍」創設費用を優先的にカルザイ議長に渡さざるを得ない。
「国軍」創設と言っても、政治状況が混沌としているなかで、武力とそれを支える資金こそが力の源泉と考えている諸司令官が、そうやすやすと武装放棄に応じて「国軍」に参加することはない。無理に武装解除しようとしたら、その時点で戦乱が始まるだろう。「国軍」に参加する勢力は、勢力争いに敗れた部隊になるという可能性が高い。
諸国家からの“支援金”の使途という視点で見れば、「国軍」が装備する武器・弾薬にも使われることになる。それは、当然のように、米国を中心とした軍需企業製のものであろう。それが、アフガニスタンの平和に寄与するかどうかは売る方にとっては関係ないことで、まったくと言っていいほど政治状況が安定していない状況では、それら武器の争奪戦さえ起こる可能性がある。
東京の復興会議で決まった“拠出金”の多くが、北部同盟への“報奨金”と軍需産業を潤す「国軍」創設に向けられてしまう可能性が高いのである。(そのような会議を日本が主催し仕切ったのである)
米国を中心とする「文明諸国」(日本も含む)は、反米勢力だけではなく、「暫定行政機構」(心から忠誠を誓っているのは無力なカルザイ派だけで唯一の明白なる親米派)を維持するために、非米勢力間の争いにまで対応しなければならなくなる。
そのためにこそ、英国指揮下の「多国籍治安部隊」をアフガニスタンに派遣しているのである。
90%以上のタリバン政権支配地域と10%未満の北部同盟支配地域という構図で平和が保たれてきたアフガニスタンは、今や、誰が敵で誰が味方かわからないような奇妙きてれつな戦乱状態に突入しかねない危うい状況にあるのだ。
そのような戦乱状態になれば、反米勢力の優位性が高まっていくことになる。
欧州諸国中心の「多国籍治安部隊」は、犠牲者が増えていけば、国内世論のたかまりのなかで撤退に追い込まれることも十分に考えられるからである。
そして、戦況の推移により、非米勢力が少しずつでも反米勢力に合流していくことになるだろう。
しかし、反米勢力が、非米勢力になったり、親「暫定行政機構」になることはないのである。
■ アフガニスタン駐留米軍兵士の精神的荒廃
こちらのほうが、ブッシュ政権にとっては、アフガニスタン諸勢力の動き以上に大きな問題になるかも知れない。
アフガニスタン派遣に割り当てられた米軍将兵は、“パールハーバー”後の将兵と同じように、9・11空爆テロの“敵討ち”という愛国主義的正義感に燃えていたはずだ。
インド洋の艦船から飛び立って空爆を加えている兵士は、直接目に見えない相手だから、今なおそのような気持ちを抱き続けているかもしれない。
しかし、海兵隊や陸軍などの地上部隊兵士は、アフガニスタン人そして敵であったり味方だったりの武装諸勢力を目の当たりにしながら2ヶ月ほど経過した今、どういう意識になっているだろうか。
『マザリシャリフの捕虜大虐殺』・『戦士者の指切り落とし』・『拘束者に対する恥辱の扱い』などをその目で間近に見てきた将兵のなかで、ベトナム戦争当時と同じように、「自分はなんのために戦っているのか?」、「これが本当に言われているような正義の戦いなのか?」という疑念を生じさせている割合が少なくないのではないかと考えている。
そう思って、ビデオに収録している海外ニュースを見直してみると、“薬漬け”で心身ともにボロボロにされた捕虜は当然のこととして、米軍兵士にも精気が感じられないのである。
何度見直しても、カンダハル空港基地・グアンタモナ基地ともに、画面に映し出されている兵士たちは、上官から命令されているので嫌々ながらやっているという感じなのである。
このような意識変化は、「イスラエル軍予備役将校に兵役拒否の動き」という書き込みを参照してもらえれば、少しはリアルティがあるのではないかと思っている。
【 http://www.asyura.com/sora/war8/msg/512.html 】
さらに、60年前から4年間近く日本が米国と戦った「太平洋戦争」でも、面白いデータがある。
「太平洋戦争」の米軍兵士も、日本の“騙し討ち”に対する愛国的正義の戦いと信じて戦地に赴いたはずである。
[米軍将兵の対日敵意の意識調査](プリンストン大学調査)
日本人を一掃せよ もっと苦しめろ 指導者を罰せよ
A.欧州部隊 将校 44%(15) 16%(18) 37%(64)
兵士 61%(25) 9%( 6) 26%(65)
B.太平洋部隊将校 35%(13) 19%(20) 43%(63)
兵士 42%(22) 9%( 8) 47%(68)
C.本土将兵 67%(29) 8%( 4) 23%(65)
[調査期間]1944年3〜4月 [調査対象]太平洋部隊3個師団・欧州部隊2個師団・本土部隊3個師団 [()内の値]対ドイツの意識調査結果
[原典]『The American Soldier:Combat and Its Aftermath』(Samuel A.Stouffer & Others:Princeton,Princeton University Press,1949)
[引用元]『日米開戦とポツダム宣言の真実』(杉原誠四郎著 亜紀書房)
上記調査データでわかるのは、太平洋・欧州とも、前線に赴いた将兵のほうが、本土にとどまっている将兵よりも敵(日本人将兵)に対する憎悪が低いということである。
さらに、日本軍と直接対峙し日本人に殺されるかも知れない太平洋部隊のほうが、欧州部隊よりも憎悪が低いということもわかる。
これは、日本海軍が、撃沈した米軍艦船から海に投げ出された将兵を必死に救助したり、陸上部隊が命がけの戦闘を挑んできたことから、「彼らは言われているような卑怯者ではなく立派な戦士じゃないか」、「彼らにも正当な言い分があって戦争を始めたのではないか」などと感じたからだろう。
先日このボードにアップされていた記事で、現代フランスの哲学者ベルナールアンリ・レビ氏は、「現代のイスラム、ヒンズー教などの自爆テロとは別物だと思う。神風特攻隊は軍隊の兵士だった。そして読書によって知ったところでは、彼らの多くは殉教の陶酔によってではなく、強制されて死んだ。遺書を残し、『お母さん、お母さん』と叫びながら死んだのだと理解している」と述べているようだ。
しかし、特攻隊員の多くは、「自分の命を犠牲にすることで、父・母・兄弟姉妹そして思い浮かぶ幾多の知人(恋人も)の命と国が救われるのならば...」という思いで敵艦船に突っ込んでいったと理解している。
『お母さん』と叫んだのは、母と子の断ちがたい絆の発露であり、ある種の回帰と再生の願いだとも考えられるだろう。
合理的に「こんなことでは戦争に勝てない」と考えた特効隊員も、「ともに訓練に励んだ仲間が死んでいくなかで、自分だけが生き残ってどうする。ひょっとしたら、自分の一撃が戦況を変えるかも知れない」と気持ちを切り換えたかも知れない。もちろん、逃げるに逃げられない環境のために嫌々ながら突っ込んでいった人もいたかも知れないが、最後の最後は、覚悟して必死に操縦桿を握っただろう。(整備不良や事故を装って不時着することもできたんだからね)
[参照] http://www.asyura.com/sora/bd16/msg/548.html
話は少しずれたが、『十字軍』遠征兵士が東方世界と出会うなかで真の超越神信仰が何であるかに目覚めたように、アフガニスタンの米軍将兵が、敬虔なムスリムたちとのふれあいやぶつかり合いのなかで何かに目覚めないってことはないだろう。
(戦友である米軍戦死者に対する上層部の取り扱いも反感を買っているかもしれない。戦死者を少なく見せるために、安全に回収できない遺体を何らかの方法で処分している可能性があるからである。最終的には、行方不明者として処理するのだろうが)
現在の米軍は高級職業軍人と志願兵(傭兵)から構成されているが、けっこうな生活が保証されているうえに後方に控えている高級職業軍人を別にすれば、この2ヶ月間アフガニスタンの地で戦ってきた将兵に、「この戦いは本当に正義なのか?」という疑念が生じているのは間違いないと考えている。
初めから、国家公認で人殺しができるから軍隊に入ったという悪徳愛好家は別だが、合衆国や家族を守るという愛国心や利他心そして正義感が軍隊を選択した理由であれば、正義ではないと結論づけるかどうかは別として、そういう疑念は持つだろう。武器が好きだったりお金を稼ぐために入隊した人でもそうだろうし、信仰心が篤い人であればなおさらそうなるだろう。
そして、「本当に正義なのか?」という自問に「正義じゃない」と答える将兵は、今後、増えることはあっても減ることはないと思っている。これは、9・11空爆テロの犯人が誰なのかという問題を別にしてである。
ブッシュ政権が反ムスリム意識を丸出しにして常軌を逸した命令を出せば出すほど、その比率は高くなるだろう。
「この戦争は正義ではない」という思いを秘めた将兵たちがアフガニスタン及びグアンタモナ基地での兵役を終え帰国すれば、その思いがじわじわと本土の人たちに伝わっていくことになる。
戦場に派遣した将兵たちが、その正当性に疑念を持ちながら戦闘に出向けば、戦意(戦闘力)は衰えていく。そして、長くても1年と思われる前線勤務を終えて帰国した将兵が、鬱積したその思いを人にぶちまけることもあるだろう。
そうなれば、「ベトナム戦争」と同じように、「アフガニスタン戦争」が政治問題化していく。
このようなことから、ブッシュ政権は、アフガニスタンで勝利できないと思うし、今回の『十字軍』の主戦場と考えられる中東地域にはなかなか戦域を移せないと考えている。
サウジアラビアかイランのどちらかでも攻撃すれば、とてつもなく長いイスラム世界との全面戦争(但しゲリラ戦)になるだろう。
「ベトナム戦争」でもわかるように、空爆を永遠に続けたとしても、厖大な犠牲者が出るが勝利できるわけではない。勝利するためには、どうしても地上部隊を派遣せざるを得ないのである。(艦船や米本土からしか爆撃機が飛べない状況になれば、空爆すら効果的に行えなくなる)
9・11空爆テロほど正義感や愛国心を鼓舞しない対イスラム世界戦争に、高い戦意に支えられた地上部隊を派遣できるだろうか。(だからといって、また同じ手を使うなよな)
アホなブッシュ政権でも、対イスラム全面戦争の行く末がどうなるかくらいは理解しているだろう。
アフガニスタンを片づけないまま他のイスラム国家に攻撃を仕掛けるという愚挙はやらないと考えている。
ブッシュ政権がそれでもサウジアラビアやイランに攻撃を仕掛けるとしたら、戦局打開のためなら核兵器を使うことも辞さない覚悟をしていることになる。
(これは“敬虔なムスリム皆殺し”を企図していることを意味する)
“悪魔崇拝者”であればやりかねない暴挙だが、それを実行に移せば、ブッシュ政権は崩壊し、「アメリカ合衆国の時代」も終焉を迎えることは間違いない。
核攻撃を本気で口に出した時点で、ブッシュ政権は崩壊すると思っている。