(回答先: 【世界は「大宗教戦争」のまっただ中にある】 『十字軍』と『魔女裁判』は今なお進行している現実のものである 〈その2〉 投稿者 あっしら 日時 2002 年 2 月 07 日 20:23:10)
■ 『魔女狩り』は18世紀で消えたのか
西欧世界の『魔女狩り』は、17世紀に入ると下火になり、18世紀中頃には終わったと見られている。
(終結年が明確になっていないのも笑える。各国の最後の「魔女裁判」は、イングランド1717年、スコットランド1722年、フランス1745年、ドイツ1775年、スペイン1781年、スイス1782年、ポーランド1793年、イタリア1791年という説がある。北米では1692年の「セーレムの魔女事件」である)
終結時期が明確でないと言うことは、『魔女狩り』を行ったどの宗派も、はっきりとした“魔女裁判終結宣言”を出していないと言うことになる。
『魔女狩り』は、明確な自己批判を通じてではなく、なんとなくだらだらと終息したのである。
しかし、組織的な人為活動であり明確な目的があった『魔女狩り』が、自然に止んだとは思えない。
西欧キリスト教世界の『魔女狩り』は、終結したのではなく、西欧世界から別の場所に移っただけなのである。
『魔女狩り』の最大の動機は経済権益である。
1492年のコロンブス艦隊による“アメリカ発見”(爆笑)を端緒とした「新大陸侵攻」の拡大とそれを端緒とする経済的発展が、西欧世界から『魔女狩り』を減少させていったのである。
所詮狭い地域である西欧世界で財産没収を行ってでも底が見えてくる。
コロンブス艦隊がアメリカに到達した1492年は、スペインでイスラム支配にあったグラナダが陥落し、スペインがほぼカソリック支配となった時期でもある。
これを通じて、西欧世界は、スペインのイスラム世界が保有していた造船技術と航海術を利用できるようになり、大西洋を超えて“インド”を目指すことができるようになったのである。
(西回りでインドを目指さなければならなかったのは、東方に強大なイスラム帝国オスマンが存在していたからである。海路では可能だったがアフリカ南端を回ることになる)
スペインやポルトガルは、国内で経済権益を求めるよりも、新大陸で富を強奪する道に走った。スペインやポルトガルは、宣教師を伴いながら軍事侵攻し、先住民を奴隷以下の扱いで酷使して金・銀を強奪した。
まさに、『魔女狩り』そのものである。宗教を旗印にし、資産を強奪し、その強奪過程をも“異端者”に負担させるというまったく同じ構図なのである。
(奴隷は命がけの戦いの戦利品か高価な商品であり、手に入れたらそれなりにケアしなければ割が合わないが、鉱山などで働かせた先住民は酷使して死んだとしても周囲に代わりがいるからである)
「タタールのくびき」と語り継がれているトルコ系騎馬民族の支配が長く続いたロシアでも、正教会は存続し、文化も継承された。
しかし、南北アメリカ大陸は、インカ・マヤをはじめ、すべての共同体的文明と文化が崩壊させられたのである。北アメリカ先住民は、自分たちの共同体性を求めるのなら、保護区と称する場所に閉じこもるしかない状況に置かれている。
3千万人という説もあるが、南北アメリカ大陸で歴史を継承しながら営々と生活してきた多くの人が、西欧キリスト教世界の侵攻を受けたことで数多く殺され、共同体と生活様式を打ち壊されたのである。
南北アメリカに対しては、英国・オランダ・フランスなども経済権益を追い求めることになる。西欧世界が、国家単位にはなったが、十字軍のように南北アメリカへと進撃していったのである。
西欧世界は、南北アメリカを基軸とした富の強奪と覇権争いを進めるなかで軍事力を強化し、いよいよ文明先進地域であったインドをめざした。
そこはイスラムのムガール帝国が中心であり、東方世界は、現在の世界宗教地図を見てもわかるように、西アジアからインドネシアまでがほぼイスラム勢力にあった。
イスラム商人と競合しながら、南北アメリカから強奪した金・銀を支払って、貴重な物資を手に入れて持ち帰り、厖大な金銀(これも南北アメリカから強奪したものがほとんど)を西欧世界で手に入れた。
西欧世界は、東南アジア(香辛料など)や中国(茶・陶器など)とも交易を行うようになった。
インドや中国などとの交易を行うなかで生じた問題は“輸入超過”である。
交易船は、往きは金・銀を積み、帰りは貴重な物資を積むといういびつな状況だった。
このような状況が続けば、西欧世界は、金・銀が流出して金欠病に陥ってしまう。
そのため、英国などは、インドを武力で支配する行動に出た。1858年に英国はインドを直接統治することになるが、それ以前からインドの経済システムをボロボロにしていった。
その目的は、交易船の往きにも目的地で売れる物資を運ぶためである。
インドから輸入する主要商品として綿織物があった。上質のものは更紗で西欧世界でも珍重された。
上質のものはともかく、インドで厖大な需要がある綿織物を英国が供給することで“往復の儲け”ができると考えたのである。綿花は英国では採取できないので、インドのものを英国に持ち帰り、それを織物にしてインドやその他の地域に売りつけるという構図である。
それを実現するために、英国の侵略者は、インドの織物工の腕まで切り落としたという。なぜなら、共同体社会は構成員の生活維持を優先するため、英国が持ち込む織物を買おうとしなかったからである。
(インドや中国でも、生産活動の機械化ということが試されたが、共同体的生活様式を壊しかねないということであまり採り入れられなかった。不足している状況を改善するためならいいが、余剰を生み出すことを好まなかったのである)
このようにして、インドは、綿織物の一大輸入国となり、綿花の一大輸出国となっていったのである。
(インドを根っからの貧困国だと思っている人もいるようだが、西欧世界に侵略されるまでのインドは、中国と並ぶ文明先進地域であり実に豊かだったのである)
「産業革命」の端緒とされる自動紡織機は、インドから持ち帰った紡織機を自動化したものであり、産業革命の実働部隊としては、ドイツの職人が4千名も英国にやってきて貢献した。
大きな“輸入超過”交易相手の中国に対しては、なんとアヘンを輸出することで、金・銀流出問題を解決しようとした。そのあげくに、戦争まで起こして香港を奪い取り、以降の対中国軍事行動の拠点にした。
近代資本制社会とは、このように、南北アメリカからの強奪を“原始的蓄積”として準備され、インドを巨大な市場とすることで形成されていったものである。
近代的工業や近代的技術も、西欧世界の進んだ文明や科学に拠るものではなく、このような他の共同体からの強奪と他の共同体への“押し売り”を基礎として成立したものである。
どんなに高度な生産システムを構築しようとも、その産出物である商品を売りさばく市場がなければ、無用の長物になってしまう。
西欧世界は、1492年以降、南北アメリカ・インド・アジア・アフリカ・太平洋地域でこのような「資本主義」的経済活動を続けていくなかで世界での覇を確立したのである。
(アフリカも、南北アメリカと同じように歴史をずたずたにされた。ナイジェリア北部だといわれているイスラム国家マリ王国などは世界から忘却された。アフリカは、地図を見てわかるように、西欧の植民地支配のためにそれまでの共同体区分を無視した経度緯度で区切ったような国境線が引かれてしまった。これが、換金作物の押しつけによる経済的疲弊とともに内戦の一つの要因でもある)
このようなことから、西欧世界における『魔女狩り』は、西欧世界の外での『魔女狩り』活動が盛んになるにつれ終息したと考えている。
『魔女狩り』は、西欧世界から地球世界の広大な地域へと拡散していったのである。
■ 強欲者にとって世界が狭くなってしまったなかでの『十字軍』と『魔女狩り』
今回ブッシュ政権が中心として行っている『十字軍』は、おそらく最後の十字軍になるだろうと考えている。
これまでの『十字軍』でアフリカや中南米はボロボロにされ、『十字軍』が標的とできる地域が限られてしまっているからである。
(我が日本も、『十字軍』に敗北したあと、つかの間の経済的成長を遂げ、今まさにボロボロになろうとしている。この問題は別の書き込みでアップするつもり)
残る主要地域は、中国・ロシア・インド・中央アジアであろう。
中東地域はないのに、じゃあ、なぜ、イスラムが標的なのかという疑問を提起されるだろう。確かに、中東地域の石油埋蔵国家は、サウジアラビアも含めて実質的な支配下においている。
イスラム世界が狙われている理由は、『十字軍』のもう一つの名目であった宗教に関わるものである。
● 超越神信仰のなかで現在のイスラムほど信仰者が多い宗教はない
● イスラムは“利子の取得(高利貸し)”を禁止している
● イスラムは信仰を拠り所とした精神的共同体性を維持している
これまでの中東政策は、石油さえ安定的に持ち出すことができればいいというものだった。
しかし、これからは、2番目の「イスラムは“利子の取得(高利貸し)”を禁止している」ことが、強欲者にとって、経済権益拡大の大きな障害なのである。
ご存じのように、80年以降の資本制経済は「金融全盛」の時代に突入した。
これは、物を生産してそれを販売して儲けるという迂回的なことには飽きたらない強欲者たちが、短時間で効率よく儲けられる金融業に大きく依存するようになったことを意味する。
(このような価値観の蔓延が、雪印のような堕落した製造業を生み出した一つの要因だと考えている。日本にそのような価値観が広がる素地を作ったのが、82年に成立した中曽根政権である)
“高利貸し”を認めない「イスラム法」で統治されている国家は、強欲者にとって“敵”なのである。そして、“敵”の度合いは、より強固なイスラム法で支配されている国家のほうが高くなる。それが、サウジアラビアであり、イランである。
強欲者たちは、まずもって、世界中を“高利貸し”が自由にできる状態にしたいのである。
中国は、WTOにも加盟し、産業に続いて金融業も徐々に開放されていくだろう。だから、強欲者は、それが実現されるなら中国を敵とはしない。
共産主義という近代思想を信仰しているかどうかは、敵か味方かの基準としてまったく関係ないことである。自由に交易ができるのか、自由に産業資本を持ち込めるのか、自由に金融活動ができるのかが問題なのである。
中国は、強欲者にとっても熾烈な競争相手になるだろうし、それが将来的な衝突につながらないとは言えない。
ロシアも、中国と同じような対応をするのなら敵にする必要はない。ただ、厖大な資源を抱えているロシアがそれを囲い込もうとすれば衝突する可能性はあるだろう。
ロシアのプーチン政権は、この難局をEUに加盟することで避けようとしているようだ。それは、短期では無理だろうが、中期的には現実性が十分にあると考えている。
「超越神信仰のなかで現在のイスラムほど信仰者が多い宗教はない」ことは、信仰者のふりをしながら実はその正反対のものを信仰している強欲者たちにとって、これほど目障りなものはないだろう。
(これは、強欲者も超越神信仰をもっているという彼らの最大の弱みだと思っているけどね)
「イスラムは信仰を拠り所とした精神的共同体性を維持している」ことも、個々人を共同体的な結びつきから切り離したいという政策を続けてきた近代国家のこれまでの歴史過程を見れば理解できる障害である。
人を、家族からも共同体からも切り離し、国家(世界政府も含む)という抽象的な枠に帰属させたいからである。
(日本で家族の絆を叫んでいる政治家が、単身赴任や長時間労働という反家族的な状況を改善しようとしてきたかどうか、女性の“社会進出”(家庭にいても社会的存在)を推奨し続けていることを考えればわかるだろう。(女性が外に出て働くことに反対ではない)共同体については、都市の現状を見れば一目瞭然である)
このようなことから、今回の『十字軍』はイスラム世界を標的にしたものであり、今回の『魔女狩り』は敬虔なムスリムを魔女として虐殺するものだと考えている。
最後に、イスラム世界及びムスリムがこのような危機的な状況に一致団結して立ち上がらないわけを考えてみる。
軍事的に対抗することはできないが、一致団結して敢然と非難の声を上げ、世界に強欲者の非を訴えることはできる。
結論的に言えば、「信仰者は悪魔崇拝者を見破れない」のである。
まず、強欲者=悪魔崇拝者が大きな顔をして国家や世界を支配しているとはとうてい考えられないのである。
強欲者=悪魔崇拝者は、口先では、信仰・平等・平和・貧困撲滅・自由・民主などの耳ざわりのいい言葉を吐き出している。
信仰者は、信仰者であるが故に、それが、強奪や隷属といった真の狙いを覆い隠す言葉でしかないことに気づかないのである。
信仰者にとっては、悪魔崇拝者の考えていることを同じように考えることはあるとしても、それを現実化したり、さらには、国家や世界を支配するに至るまで大きくできるとは思えないのだろう。
さらに言えば、イスラム世界でそれなりの地位にある人たちのなかで、きっかけや理由は様々だろうが、強欲者たちに信仰=魂を売ってしまった人や自己の信仰を形骸化させた人が少なからずいることが大きな障害になっていると考えている。
アフガニスタンの旧タリバン勢力=信仰者が、『十字軍』(米軍)をどれだけアフガニスタンに釘付けできるかが、イスラム世界の危機をどれだけ引き延ばせるかの鍵を握っていると考えている。
強欲者たちは、すべてのイスラム国家がトルコのようになり、ムスリムが近代ムスリム(マハティール氏のような)になることを目指していると思われる。
そして、このような妄想が、これからの世界は、数百年ひょっとしたら2千年に一度あるかないかの大激動期を迎えるのではないかと考える根拠でもある。