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戦時下の米国メディア:CUGIジャーナル

投稿者 dembo 日時 2001 年 12 月 29 日 21:45:31:

戦時下の米国メディア:CUGIジャーナル:宮崎 さゆり(日米環境活動支援センター代表)

主要メディア(コーポレイト・メディア)
vs.
オルタナティブ・メディア(独立自由メディア)


 2001年10月末に国防省のリサーチ担当部門である国防科学委員会(DSB:Defense Science Board)は、商業放送メディアと独自の手段を使って、米軍の心理的影響力(PSYOPS:Psychological Operations)をどのように増加させるべきかについて、その勧告を主とした全般的な研究を発表した。その内の二つの勧告は、1)民間と軍関係による合同メディア・グループが設置されなければならない、2)軍にさらなるチャンネル(通信伝達経路)を与えなければならない、というものであったという。

 PSYOPSの最終ゴールは、武力行使の最中にメディアと世論に影響を与え、宣伝戦に勝つことであり、前述の国防科学委員会の報告書は、米国政府と米軍が彼らのPSYOPSを拡張する方法を探っている証拠と考えられている。その報告書が勧告した「民間と軍による合同メディア・グループの設置」は、すでにその一端が明らかに認められており、11月11日には米国内の主な映画とテレビ会社の代表者達がホワイト・ハウスのアドバイザーと会って、今回のテロとの戦争への協力・支援を約束したと報道されている。

 このように、戦時下において主要メディア会社がブッシュ政権と親しい関係を築き上げているという事実、そしてテロとの戦争への支持を国民から得るために、ブッシュ政権と米軍が報道機関のコントロールを強力に推進している事実は、主要メディアでない、いわゆるオルタナティブ・メディア側においてその存在を際立たせる根拠となっているのである。

 もちろんオルタナティブ・メディアが存在できるのは、米国憲法で言論の自由が認められているからであるが、またその一方で、戦時下での言論の自由を守るためにもオルタナティブ・メディアが存在していると言わざるを得ない状況も否定できない。

 それでは最初に、米国における戦時下の言論の自由について考えさせられた典型的な出来事をここで紹介しておきたいと思う。

 国家の非常時における言論の自由

 2001年9月17日、米国三大ネット局の一つであるABCテレビ局の深夜番組「Politically Incorrect」のホストでコメディアンのビル・マー氏が、同番組で米軍を批判したことによって抗議の声が起こり、その番組のスポンサーから複数の会社が降り、さらに同氏はABCのオフィシャル・サイトに謝罪声明を発表した。これについて既にご存知の方も多いと思うが、日本の新聞はこの事件を「『舌禍』でキャスターが番組を降ろされるなど、報復に向けての気運一色に染まっていっている」という内容で報道したという。

 米国では大企業に所有されている主要テレビ局(米三大ネット局)を「コーポレイト・メディア」(Corporate Media)と呼んでいる。例えばABCはディズニーに、NBCはGE(ジェネラル・エレクトリック)社に所有されている。さらに主要テレビ局の重役会には大手石油企業の代表が名を連ねており、またそれらの石油企業の元取締役には、ブッシュ政権を支える政府高官の名前も上がっているのである。

 ブッシュ政権がテロ撲滅戦争を理由にアフガニスタンへの侵攻にこだわったのは、米国系石油資本によるアフガニスタン北部地域の石油利権を守るためと見られていることから、主要テレビ局と大手石油企業の結びつきは、明らかにこれらのテレビ局が反戦活動と結びつく発言を抑圧し、戦争ムードを積極的に応援する役目を担っていることを暗示している。

 結局、コーポレイト・メディアは経済的な後ろ盾となっている大企業やスポンサーの意向に添う番組を作らざるを得ないので、今回のような国家の非常時において、偏りのない公平な言論の自由を主要テレビ局に期待できないだろう。(筆者注1)

 しかし、連邦政府がその言論の自由を制限するとなるとこれは大問題となる。前述のビル・マー氏の米軍批判の発言を指して、フライシャー大統領報道官は「言葉に気をつけるべきだ。そういう発言をする時ではない」と発言したという。報道官の発言を英語でそのまま書くと次のようになる。"The reminder is to all Americans, that they need to watch what they say, watch what they do, and this is not a good time for remarks like that."(ホワイト・ハウスの公式記録からは"watch what they say"が削除されているということである。)

 たいへん問題のある発言と考えられたのは、公式記録からそれが削除されたことからも明白である。戦争という名の下で、臨時に大幅な権力が与えられた大統領の報道官を勤めている者が、米国憲法で認められている言論の自由を制限する発言をしたことは、ブッシュ政権の危さを暴露しているのではないだろうか。

 フライシャー大統領報道官の発言に対して、すぐに批判の声を大新聞に載せたのはニューヨーク・タイムズ紙の代表的なコラムニストで、1999年にピューリッツアー賞を受賞(批評部門)しているモーリン・ダウド女史である。彼女は9月30日付の同紙のコラム(タイトル:"We Love the Liberties They Hate")で、大統領報道官の発言を激しく批判し「私たちの国が攻撃目標になり、誰かがホワイト・ハウスに異議を申し立てる勇気を持っている時に、フライシャー氏は私たちに攻撃的で懲罰的な影響を及ぼしている。特に私たちが標的になっている時こそ思想の対立を抑圧してはならない。コラムニストとコメディアンの職が意見の相異によって危うくなる風潮こそ恐れるべきである」と書いている。

 主要テレビ局の番組ホストのコメディアンが米軍を批判して、スポンサーがその番組から降りる。そして大統領報道官が言論の自由を制限する発言をするが、その問題の発言が公式記録から削除される。さらに、それと同時にコラムニストが言論の自由を制限することへの批判記事を書き、それが大新聞に掲載される。この一連の出来事のつながりが、私にはこの国の非常時における言論の自由とその限界をよく表わしているように思われるのである。

 米国での独立自由メディアの活躍

 国家の非常時に、政府と軍が報道機関をコントロールしているという状況にも拘らず、民主主義社会に住んでいると自覚できるのは、新聞のコラムニストが政府に対する批判の記事を書いていることや、政府の政策に対する賛否両論のさまざまな声を伝える別のメディアが、まだしっかりと機能しているからである。

 国民の中の「異論」や「疑問」を報道しようとしない日本の主要メディアに不満を抱いている人々にとって、戦時下といった特別な状況の中で、抹殺されやすい少数意見や反対運動であっても、それを取り上げるオルタナティブ・メディアが機能している米国の状況は、うらやましいかもしれない。しかし、この米国の状況も当然として上から与えられたものではなく、市民の要求に応じて努力して勝ち取られたものであると言わなくてはならない。

 米国内でも大手メディアの片寄った報道に不満を持っている人は多いが、その人達は不満を解決するために、自分達で自主的にメディアを組織し情報を発信し続けているのである。またそのようにして創設された独立自由メディア団体は、彼らの崇高な使命感と非営利の方針がある故に、その情報ソースは信頼できるものと考えられ、主要メディアに見切りをつけた市民によって支持されている。そしてあの9月11日以降、ますますそのようなメディアが重要視されて来ているのである。

 例えば、日ごろから大企業に所有されているメディア報道に強い不満を感じている米国市民にとって、より民主的な報道機関と考えられるケーブル・テレビ局、独立ラジオ局、さらにインターネット上の独立メディアは信頼できる情報ソースとなっている。また情報を得るだけでなく、自ら進んでそれらの報道機関に話題や意見を提供するという情報の相互交流が盛んに行われており、さらに議論の場としての役割を果たしている場合もある。

 そのような報道機関として有名なのが「C-SPAN」という非営利の公共ケーブル・テレビ局(ラジオ番組もある)である。「C-SPAN」は1979年にケーブル・テレビ事業によって創設されており、主にケーブル・テレビの視聴料で運営されている。いつも議会が開催されている時にはライブでそれを放送しているが、9月29日のワシントンD.C.での反戦デモの時には、集会場となったフリーダム広場にパラボラ・アンテナの大型車両を横づけして、反戦・反人種差別の集会でのスピーチをすべて放送した。現在はその三時間分のビデオがC-SPANのウェブ・サイトを通して見ることができる。

 また、1999年のシアトルでのWTO会議を決裂させた「シアトルの闘い」の時に、草の根市民による報道組織として活躍した「インデペンデント・メディア・センター」(IMC: Independent Media Center)も、インターネットを通してかなり充実した情報発信源となっている。民主的な報道を欲している市民がIMCのサイトにアクセスすると、ボランタリーの情報提供者による写真、ビデオ、音声、活字などから、現在のホットな情報が得られ、さらにコメント等をIMCのサイトに掲載することが出来るのである。さらにIMCは世界各地45ヶ所以上の地元のIMCとリンクしているので、世界各地の社会、経済、政治、環境問題で活動している人々がここから自分達の声を外へと発信することができるのである。それはまさに社会活動をする世界市民による世界市民のための全く新しい民主的メディアと呼ぶにふさわしいものと考えられる。

 さらに、民主的な報道機関として一般的に親しまれているのは、FMナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)と考えられる。司会者が各界の専門家の話を聞いて、それについて電話で市民の意見や質問を聞く番組などは、かなり興味のある自由で多角的な意見を聞くことができる情報源となっている。インターネットと違って、ラジオは台所に立っていても、ソファに横になっていても話しを聞いて情報を得ることができるので、私はもっと活用したいと思っている。

 おわりに

 以上、戦時下での言論・報道の自由を守るために活動している米国の独立自由メディアを紹介したが、これはほんの一部にすぎない。特に、インターネットが発達している米国では、それを使った情報発信がさかんにおこなわれており、例えば100人いたら100の多様な声があるように、100の情報発信手段がインターネットによって形成されつつある。

 9月11日以降、好戦的なブッシュ政権に反対して反戦平和を願う市民の味方はこのインターネットである。主要メディアの戦争路線の報道に危機感を感じた人やこの現状を変えたいと思っている人が広いアメリカ大陸内のあちこちに住んでいて、その同じ思いを持った人達を新しい通信技術で急速につなぐことに成功している。

 主要メディアだけから情報を得ている米国人が大多数ではあるが、人々が受動的な情報の受け手であることを止めて、独立自由メディアに情報を求め、さらに自らの声を発信するという能動的な行動を起こすならば、米国政府と米軍が商業放送メディアを使って、米国民に心理的影響力を及ぼそうとする試みを阻止することが出来ると思う。

 戦時下のメディアをめぐる米国政府と米軍の戦略を考えると、鳥肌が立つほど恐ろしくなるのは私だけではないだろう。しかしながら、いったい何人の米国人が騒々しいテレビを消して、真実を静かに見つめ、真実に耳を傾けることができるのであろうか? 何の疑問もなくソファーに座ってテレビを見続けていた米国民は、このまま見えない餌によって飼い慣らされていくのか? それとも真実の報道と言論の自由を守るために、断固として立ち上がるのか? 超大国の軍事を維持するために実施されているメディア操作の下で、米国民は今、大変な選択に迫られているのではないかと私は考える。

 それは米国民だけではなく、日本においても同じことが言えるのではないだろうか。日本では、9月24日におこなわれた報復戦争に反対する「超党派の議員集会」や9月28日の日比谷野外音楽堂で開催された4000人規模の「報復戦争反対」集会を、主要メディアが全く報道しなかったということである。詳しくは、「日本ジャーナリスト会議」(JCJ:Japan Congress of Journalists)のサイトを見ていただきたいが、このような報道の不公平が堂々とまかり通っている現状を憂えて、私は日本でも市民による独立自由メディア(ケーブル・テレビ局やラジオ局等)が大規模に組織される必要があると考える。議論の場を形成するためにも、多様な意見を情報として日本国内はもとより全世界へ送り出す必要があると思う。特に日本憲法改悪の足音が聞こえて来ている現状では、この努力は急務であると感じる。

◆ 参考サイト:
・ C-SPAN http://www.c-span.org
・ Independent Media Center http://www.indymedia.org/
主要メディアの戦争路線の報道についての記事「The Media Goes War」
http://www.nyc.indymedia.org/front.php3?article_id=10031&group=webcast
大メディアと石油大企業の関連についての記事「Big Media/Big Oil Links」
http://nyc.indymedia.org/front.php3?article_id=10650&group=webcast
国防科学委員会の報告書に関する記事「Media During Wartime」
http://dc.indymedia.org/front.php3?article_id=15953&group=webcast
・ FAIR(Fairness & Accuracy In Reporting:メディア・ウオッチ団体) http://www.fair.org/
・ Institute For Public Accuracy(メディアへの情報提供団体) http://www.accuracy.org/
・ 日本ジャーナリスト会議「視覚」 http://www.jcj.gr.jp/view.html/

◆(筆者注1)
 米国のテレビ局による同時テロ事件の報道が日本でそのまま放送されていたという状況は、つまり、日本市民には選択の余地なく報復戦争を積極的に支持する片寄った報道だけが与えられていたということになる。

http://i-cis.com/cugi_journal/j-3/1.htm




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