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「無限の正義」の算術:アルンダティ・ロイ

投稿者 dembo 日時 2001 年 12 月 27 日 19:00:44:

「無限の正義」の算術
(アルンダティ・ロイ:インドの作家:)
ガーディアン. 2001.9.27(アフガン攻撃が始まる前に書かれたもの)


 九月一一日にペンタゴンと世界貿易センターに非道な自爆攻撃が行われた直後
のことだ。アメリカのテレビ局のニュースキャスターはこう語った−−「この火
曜日ほど、善と悪がくっきりとあらわになったのはめずらしいことです。わたし
たちの知らない人々が、わたしたちの知っている人々を虐殺しました。侮蔑する
かのように、大喜びしながら殺したのです」。そして彼は取り乱し、嗚咽した。

 要するにこういうことだ。アメリカ人は知らない相手に戦争をしかけているが、
知らないのは、相手がテレビに出てこないからだ。アメリカ政府は敵がだれかはっ
きりする前から、敵の性格を理解しようともせず、気恥ずかしいレトリックを駆
使して宣伝を始めた。そして「テロと戦う国際的な同盟」とかをでっちあげ、陸
軍、空軍、海軍、そしてメディアを動員し、戦闘に入らせた。

 問題なのは、アメリカは戦争を始めると、実際に戦闘をするまでは、帰国しな
いということだ。戦う相手がみつからなければ、怒りにくるった兵士たちを帰国
させるためには、敵をでっちあげなければならなくなる。そしてひとたび戦争が
始まるとはずみがついて、かってな理屈と根拠が作りあげられる。そもそもなぜ
戦争を始めたのかを、見失ってしまうのだ。

 わたしたちがいま目撃しているのは、世界最強の国が、怒りにくるって考えも
なく、昔ながらの本能にしたがって、新しい種類の戦争を始めようとしている光
景だ。今回のテロが明らかにしたのは、自国を防衛するには、アメリカのモダン
な軍艦も、巡航ミサイルも、F16戦闘機も時代遅れのがらくたのようにみえて
くるということだ。攻撃を抑止するはずの多量の核兵器も、スクラップの重さの
価値しかなくなってしまった。二一世紀の戦争を戦うための武器は、大型のカッ
ター、ペンナイフ、そして冷たく燃えさかる怒りなのである。とくに重要な武器
は怒りだ。空港の検問でも調べようはない。荷物検査をしてもみつかるわけもな>
いのだ。

 アメリカはだれと戦おうとするのか。FBIは九月二〇日に、数人のハイジャッ
ク犯人の身元にはまだ疑問が残ると発表した。ブッシュ大統領は同じ日に、「だ
れか犯人なのか、どの国の政府が犯人を支援しているのか、はっきりとわかって
いる」と語っている。まるでFBIもアメリカの国民も知らないことを、大統領
は知っているように聞こえる。

 九月二〇日の議会スピーチで、ブッシュはアメリカの敵は「自由の敵」だと呼
んだ。そして「アメリカ国民は、なぜ敵はアメリカを憎むのか不思議に思ってい
ます。敵は、アメリカの自由を憎んでいるのです。信仰の自由、言論の自由、投
票し、集まり、意見を対立させる自由を憎んでいるのです」と続けた。ここで国
民は、次の二つのことを根拠もなしに信じさせられているわけである。第一に、
敵というのが、アメリカ政府が名指す相手であること。第二に、敵の攻
撃の動機は、アメリカ政府が主張するとおりのものだということ。しかしこのど
ちらにも、いかなる証拠もないのである。

 戦略的、軍事的、経済的な理由からは、アメリカ政府はなんとしても、アメリ
カの自由と民主主義と、アメリカの生活スタイルが攻撃されていると、国民に信
じさせる必要がある。現在のように悲嘆と憤慨と怒りに満ちた雰囲気では、これ
はたやすいことだ。しかしこれが真実だとしても、アメリカの経済的な支配のシ
ンボルである世界貿易センターと、軍事的な支配のシンボルであるペンタゴンが、
攻撃のターゲットになったのは不思議ではないか。なぜ自由の女神を攻撃しない
のだろう。

 攻撃をもたらした陰鬱な怒りの根本的な原因は、アメリカの自由と民主主義で
はなく、アメリカ政府がこれまで長い間、それと正反対のものに力をいれ、支援
してきたことにあるのではないか。アメリカは国外では、軍事および経済的なテ
ロ、暴動、軍事独裁政権、頑迷な宗教、想像もできないほどの大量殺人を支援し
てきたのである。

 家族や友人の命を奪われたばかりのふつうのアメリカ人が、涙のまだ乾かぬ眼
を世界に向けて、海外ではアメリカに無関心だという事実に直面するのは辛いこ
とだろう。しかしこれは無関心ではなく、今回の出来事の兆のようなもの、起き
て当然という感情なのだ。「蒔いた種を刈り取る」という昔からの諺どおりだ。
これほど憎まれているのはアメリカ国民ではなく、アメリカ政府の政策であると
いうことを、国民は認識すべなのだ。

 アメリカ国民そのものや、アメリカの傑出したミュージシャン、作家、俳優、
すばらしい技を披露するスポーツマン、ハリウッド映画が、世界中で歓迎されて
いることは、アメリカの国民も疑問に感じないだろう。そして攻撃の後で、消防
士、救急隊員、ふつうの会社員たちが示した勇気と礼儀には、わたしたちのだれ
もが感銘を受けたのである。

今回の事件の後に、アメリカが大きな悲嘆に包まれていることは、よく知られ
ている。アメリカ人にこの苦悩を抑制し、調整するよう求めるのは、ばかげたこ
とかもしれない。しかしこの機会を捉えて、九月一一日の出来事が起きた理由を
理解しようとするのではなく、自分たちの悲嘆を晴らし、復讐するために、世界
から寄せられた追悼の念を利用するとしたら、とても残念なことだ。そうなると、
アメリカ以外の国がアメリカに厳しい問いを投げ掛け、アメリカに厳しい意見を
言わなければならなくなる。そして辛いことだが、間の悪い意見を口にするわた
したちは嫌われ、無視され、いずれは口を封じられるかもしれない。

 ハイジャク犯たちが、航空機をあれらの建物に激突させた動機は、最後までわ
からないままかもしれない。名前を残すために死んだわけではないし、遺書も、
政治的なメッセージも残さなかった。攻撃を実行したと宣言した組織もない。わ
たしたちにわかっているのは、生き延びようとする人間の自然な本能を捨ててま
でも、名前を残したいという欲望を捨ててまでも、実行しようとする強い信念が
あったということだけだ。

 怒りがあまりにも強かったので、もっと小規模な犯行では我慢できなかったかの
ようである。そして彼らの行為は、わたしたちがこれまで知っていた世界に風穴
を開けた。情報がないままに、政治家、政治評論家、そしてわたしのような物書
きは、自分たちの政治的な信念や解釈に従って、この行為について語るだろう。
こうした推測や、攻撃が起きた政治状況についての分析は、せいぜい思いつきの
域を超えるものではない。

 しかし戦争が近づいている。言っておくべきことは、手遅れにならないうちに
言わねばならない。やがてアメリカが「テロと戦う国際同盟」の頂点に立ち、ま
るで神をきどるかのように「無限の正義」と名づけたこの作戦に、世界のさまざ
まな国を招き、あるいは参加を強要する前に、いくつかのことを解明しておくの
は、意味のあることだろう−−ところでこの「無限の正義」という作戦名は、無
限の正義を実行できるのはアラーだけだと考えるイスラム教徒を侮辱すると批判
されて、「不朽の自由」作戦と改名されたのだった。

 まずこの作戦は、だれにとっての無限の正義であり、不朽の自由なのだろうか。
このアメリカの戦争は、アメリカ国内のテロとの戦いなのか、それともすべての
テロと戦うのか。正確にはなにに復讐するのか。七千人ちかい人々の悲劇的な死、
マンハッタンの五百万平方フィートのオフィス・スペースの崩落、ペンタゴンの
建物の一部の損壊、失われた数十万人の雇用、いくつかの航空会社の倒産、ニ
ューヨークの株式相場の低落に報復するのだろうか。それとももっと別のものに
復讐するのだろうか。

 一九九六年のこと、当時アメリカの国務長官だったマドレーン・オルブライト
は、米国の経済制裁で五〇万人のイラクの子供たちが死亡したことをどう思うか
と、全国ネットワークのテレビで質問された。オルブライトは「とても難しい選
択でした」と語りながら、すべての点を考慮にいれると、「この代価にみあう価
値はありました」と答えたのである。そしてこの発言で職を失うこともなく
米国政府の見解と意向を代表しながら、世界中を訪問し続けたのである。それど
ころではない。今もイラクへの制裁は続いている。そして子供たちは死に続けて
いるのだ。

 こういうことだ。文明と野蛮の区別、「無辜の人々の虐殺」、「文明の衝突」
あるいは「空爆による巻き添えの死」の区別は言い逃れだ。これは無限の正義の
口やかましい算術の詭弁なのだ。世界をよりよくするために、そもそも何人のイ
ラク人が死ななければならないのか。一人のアメリカ人の死を償うために、何人
のアフガニスタン人の死が必要なのか。男一人の死のために、何人の女性や子
供が死ななければならないのか。一人の投資銀行の銀行員の死のために、何人の
ムジャヒディン戦士たちが死なねばならないのか。

 わたしたちが麻痺したように見守る中で、「不朽の自由」作戦は世界中のテレ
ビで放映され続けている。世界の超大国が手を取り合って、世界でもっとも貧し
く、戦争で破壊され尽くした国の一つであるアフガニスタンに迫っている。ア
フガニスタンを支配するタリバンが、九月一一日の攻撃の責任者とされたオサマ
・ビンラディンをかくまっているからだ。>


 アフガニスタンから確実に取り立てることのできるものがあるとしたら、それ
は一般市民の命だろう(そのうちの五〇万人は、負傷した孤児たちだ。遠く、人
里離れた村に義足が投下されると、足の不自由な人が殺到したと報道されている)。
アフガニスタンの経済は悲惨な状態にある。実際にアフガニスタンに侵攻した部
隊は、軍の地図で確認できるような伝統的な標識や目標がないの困惑する。大都
市も、高速道路も、工業団地も、浄水場もないのだ。農場は巨大墓地と化してい
る山間には地雷も埋まっている。最近の推定では一千万個もあるという。部は地雷が埋まっている。最近の
アメリカ軍は、兵士を侵攻させるために、まず地雷を除去して、道路を建設しな
ければならないだろう。

 アメリカの攻撃を恐れて、百万人の国民が自宅を捨てて、パキスタン国境ちか 
くに逃げている。国連では、緊急に援助が必要なアフガニスタン国民の数を八百
万人と推定しるいる。食料や緊急援助を与える組織は国外退去を求められている
ので、援助がとまろうとしている。BBCでは、人道的に世界で最悪の災厄が始
まると報じている。これが新しい世紀の「無限の正義」の姿なのだ。市民は飢え
死にしながら、殺されるのを待っているのである。

 アメリカでは「アフガニスタンが石器時代にもどるまで爆撃する」という乱暴
なことが言われている。どなたか、アフガニスタンはもう石器時代にもどってい
ると、お伝えいただけないだろうか。そして慰めになるかどうかはわからないが、
アフガニスタンがこうになるには、アメリカが大きな役割を果たしたのだと。ア
メリカ市民はアフガニスタンの正確な現状には詳しくないかもしれないが(ア
フガニスタンの地図が飛ぶように売れていると報じられている)、米国政府とア
フガニスタンは、じつは昔からの友人なのである。

 一九七九年にソ連がアフガニスタンに侵攻した後、CIAとパキスタンの諜報
機関ISIは、CIAの歴史でも最大規模の秘密作戦を開始した。この作戦の目
的は、ソ連に抵抗するアフガン勢力を束ねて、抵抗活動をイスラムの聖戦ジハー
ドに拡大すること、そしてソ連内部のイスラム諸国を立ち上がらせ、ソ連の共催
主義体制に抵抗させて、共産主義を弱体化することにあった。この作戦が開始さ
れた際には、アフガン戦争をソ連にとってのベトナム戦争にすることが目標とさ
れていた。しかしことはそれでは終わらなかったのである。

 CIAは長年のあいだ、ISIを通じて、四〇か国のイスラム諸国から、一〇
万人もの過激なムジャヒディン戦士たちを、アメリカの代理戦争を担う兵士とし
て集めてきた。ムジャヒディンの下級兵士たちは、自分たちの聖戦は実際はア
メリカのために戦われていることを知らなかった(皮肉なことに、アメリカもい
ずれ自国を標的とした戦争のための資金を提供していたことを知らなかったのだが)。

 ソ連は、一〇年間の過酷で血なまぐさい戦争の後、アフガニスタンの文明社会
を瓦礫にして、一九八九年に撤兵した。そしてアフガニスタンでは内乱が猖獗を
極めた。聖戦はチェチェンとコソボに拡大し、いずれはカシミールにも拡がっ
た。CIAは資金と兵器を注入し続けたが、経費は巨額になり、ますます多額の
資金が必要になった。

 そこでムジャヒデンは「革命税」として、アフガンの農民にアヘンの栽培を命
じた。ISIはアフガニスタンの全土に、数百のヘロイン工場を設立した。CI
Aが介入していから二年以内に、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯は、
世界最大ののヘロイン産地となり、アメリカの路上で売られるヘロインの最大の
供給源となった。そして千億から二千億ドルもの年間収益は、兵士の訓練と軍備の
ために利用された。

 一九九五年には、当時はまだ危険な強硬派の原理主義の末端的なセクトだった
タリバンが、アフガニスタンで権力を掌握した。CIAの昔からの同僚であるI
SIから資金の提供をうけ、パキスタンの多くの政党から支援されていたタリバ
ンは、恐怖政治を始めた。最初に犠牲になったのはアフガニスタンの国民、とく
に女性である。女子校を閉鎖し、政府の女性職員を解雇した。そしてシャリーア
を施行したが、このイスラム法のもとでは「不道徳」とみなされた女性は石打の
刑で死刑にされ、姦通の罪を犯した未亡人は生き埋めにされるのだった。タリバ
ンがこうして人権を無視してきたことを考えると、戦争が始まるという見込み
だけで、あるいは市民の命が奪われるという危険性だけで、怖じ気づいたり、目
的の遂行をあきらめたりすることはないだろう。

 これまで起きたことのうちで、ロシアとアメリカが結託して、アフガニスタン
をふたたび破壊することほど、皮肉な事態を想像できるだろうか。問題なのは、
破壊し尽くされたものをもういちど破壊できるだろうかということだ。アフガ
ニスタンにこれ以上の爆弾を投下しても、瓦礫の山をかきまわし、昔からある墓
を崩して、死者の眠りを妨げるだけではないのか。

 アフガニスタンの荒涼たる風景は、ソ連の共産主義の墓場となり、アメリカの
世界一極支配の発祥の地となった。さらにアメリカが支配する新資本主義と、
企業のグローバリゼーションのための空間を創設した。そしていまアフガニスタ
ンは、アメリカのためにこの戦争を戦って勝利を収めた兵士たちの墓場となろう
としている。

 それではアメリカが信頼している同盟国はどうなったか。パキスタンも深刻な
被害をこうむっている。アメリカ政府は、パキスタンに民主主義を根づかせる試
みを阻止した軍事独裁を、臆面もなく援助している。CIAが介入する以前には、
パキスタンの農村にはごく小規模なアヘン市場しかなかった。しかし一九七九年
から一九八五年にかけてこれまでいなかったヘロイン中毒者が百五〇万人に
も膨れ上がった。九月一一日のテロ以前にも、三百万人のアフガン難民が、国境
沿いの難民キャンプでテント暮らしをしていた。

 パキスタンの経済は崩壊状態にあり、派閥争いによる暴力、グローバリゼーシ
ョンによる構造改革計画、「ドラッグ長者」で、国は引き裂かれている。ソ連と
戦うために設立されたテロリスト訓練センターと宗教教育施設マドラサは、大地
に撒かれて兵士たちを地中から生んだテーバイのドラゴンの歯のように、パキス
タンの全土に撒かれ、原理主義者たちを生み出した。この原理主義者たちはパキ
スタン国内で、巨大な人気を集めているのである。

 パキスタン政府が長年にわたって支援し、資金を提供し、支えてきたタリバン
は、パキスタンの政党と戦略的に重要な連携を行っている。そしていまや米国政
府は、長いあいだパキスタンが手塩にかけてきたペットの首を締めるように求
めているのである(しかしほんとうに求めているのだろうか)。米国への支援を
約束しムシャラフ大統領は、やがて内乱をもてあますことになるだろう。

 インドは幸運なことに、地理的な有利さと、以前の指導者たちのビジョンのや
おかげて、これまではこのビッグゲームからは距離をおいている。もしもインド
がこのゲームに巻き込まれた場合には、わが国の民主主義は今のままでは往き残
れないだろう。そしてわたしたちが恐怖の思いで見守るうちに、インド政府はい
ま米国に、パキスタンではなく、インド国内に基地を設立するよう哀願している。

 パキスタンの悲惨な運命をすぐ近くで見守りながら、インドがこのようなこと
を哀願するとは、奇妙なだけでなく、考えられないことである。経済が脆弱で、
社会的な基盤が複雑な第三世界の国なら、アメリカのような超大国を国内に引き
入れるのがどんなに危険なのか、いまではよく理解できたはずなのだ。通過す
るだけにせよ、滞在するにせよ、アメリカを国内に引き込むことは、窓ガラスの
向こうにあるレンガを、ガラスを割って部屋に招きいれるのと同じことなのである。

 「不朽の自由」作戦は、アメリカの生活スタイルを守るために戦われているの
だという。しかしこの作戦はいずれこれを完全に破壊してしまうにちがいない。
世界中にさらに激しい怒りとテロを蔓延させることになるだろう。アメリカの
ふつうの市民は、やりきれないほどの不安のうちに暮らすことになるだろう。


 わたしの子供は学校で無事だろうか。地下鉄で神経ガスが散布されないだろう
か。映画館で爆弾が破裂するのではないか。愛する夫は今夜、無事に帰宅できる
だろうか。生物兵器の使用も噂されている。天然痘、腺ペスト、炭疽菌などを無
害な農薬散布飛行機に搭載して散布すれば、死に神の使いとなるだろう。わずか
な被害が長く続くことは、核兵器で一挙に死滅するよりも、ひどいものになるか
もしれないのである。<

 米国政府も、もちろん世界中の他の国の政府も、戦争の雰囲気を利用して、市
民の自由を削減し、言論の自由を否定し、労働者をレイオフし、少数民族や宗教
的な少数派にいやがらせを行い、公共予算を削減し、巨大な資金を国防産業に投
入口実にするだろう。それは何のためか。ブッシュ大統領が、「悪者の世界をな
くす」ことなどはできないのは、世界を聖人であふれさせることができないのと
同じくらいたしかなことだ。

 米国政府が、みずから暴力と抑圧を進めながら、テロを撲滅するという考え方
をもてあそぶのは理不尽なことだ。テロリズムは疾患そのものではなく、その症
状なのだ。テロリズムに国境はない。コカコーラ、ペプシ、ナイキのような国際
的な企業と同じように、テロは国境を越えて広がる。なにかトラブルが起きそう
だと感づいたら、テロリストたちはすぐに店を畳んで、もっとうまい話を探して
「工場」をよその国に移す。多国籍企業とまったく同じなのだ。

 現象としてのテロがなくなることはないだろう。しかテロを少しでも抑えよう
とするなら、アメリカはまず他の諸国とともに地球をわかちあっていることを認
めることだ。たとえテレビで放映されなくても、地球には同じように愛し、悲嘆
にくれ、物語を作り、歌い、悲しんでいる人々が、そしてなによりも人権をもっ
た人々が生きているのだ。ドナルド・ラムズフェルド国防長官は、このアメリカ
の新しい戦争へ、どうなれば勝利を収めたことになるのかと尋ねられて、アメリ
カ人が自分の生活スタイルを維持できる権利を世界に認めさせたら、それが勝利
を収めたということだと答えている。

 九月一一日の攻撃は、恐ろしいほどに破綻した世界からのおそるべき招待状で
ある。この招待状のメッセージはビンラディンが書いたのかもしれないし(だれ
にわかるだろう)、その密使が運んだのもしれない。しかしこの招待状の署名者
は、アメリカがこれまで遂行してきた戦争の被害者の幽霊たちかもしれないのだ。
朝鮮、ベトナム、カンボジアで殺された数百万の死者、一九八二年にイスラエル
が米国の支援のもとでレバノンに侵略した際に殺された一万七千五百名の死者、
「砂漠の嵐」作戦で殺された二〇万人のイラク人、西岸を占領したイスラエルと
戦って死んだ数千人のパレスチナ人たちの幽霊たち。ユーゴスラビアで、ソマリ
アで、ハイチで、チリで、ニカラグアで、エルサルバドルで、ドミニカ共和国で、
パナマで、アメリカ政府が支援し、訓練資金を提供し、兵器を供給したすべての
テロリスト、独裁者、大量虐殺者たちの手にかかって死んだ数百万の人々の幽霊
たち。そしてこれでリストが終わりというわけではないのだ。

 アメリカがこれほどの戦争と紛争に関与してきたにもかかわらず、アメリカの
国民は極端なほど幸運に恵まれてきた。過去一世紀のうちで、アメリカの領土に
攻撃が加えられたのは、九月一一日の攻撃以外には、真珠湾攻撃しかない。この
攻撃への反撃は、長い迂回路をたどった末に、広島と長崎で終わった。今回の攻
撃がどのような結末となるか、世界は恐怖に息をひそめている。

 オサマ・ビンラディンがいなかったなら、アメリカは彼を発明する必要があっ
ただろうという意見を聞いたことがある。しかしじつのところ、彼を発明したの
はアメリカなのである。一九七九年にCIAがアフガニスタンで作成を開始した
際に、ビンラディンは聖戦の戦士の一人だった。ビンラディンは、CIAが生み
出し、FBIが懸賞をかけているという珍しい人物である。わずか2週間のうち
に、ビンラディンはただの容疑者から主要な容疑者に格上げされ、まったく証拠
はないにもかかわらず、「生死を問わず」つかまえるべき人物になったのである。

 ビンラディンが九月一一日の襲撃と関連している証拠を、裁判所の厳しい審問
で、証拠として認められるような証拠をみつけるのは、どうみても不可能なよう
である。これまでのところ、もっとも有力な証拠は、ビンラディンが事件を非難
していないという事実にすぎないのである。ビンラディンがどこでどのように暮
らしているかを考えると、この攻撃を彼がみずから計画して、実行したのではな
いということも、十分に考えられる。彼はインスピレーションの源となる人物、
「持株会社の最高経営責任者」のような存在かもしれないのである。

 ビンラディンを引き渡すように求めた米国にたいして、タリバンの回答は、タ
リバンらしからぬほど妥当なものだった−−証拠をみせろ、証拠があれば引き渡
すというものだったのである。ブッシュ大統領はこの要求を、「交渉できない」
と拒んだのだ。 ところで責任者の引き渡し交渉が続いているついでに、インド
は米国にウォレン・アンダーソンの引き渡しを要求できないものだろうか。彼は
一九八四年に一万六千人の死者を出したポーパルのガス漏れ事故を起こしたユニ
オン・カーバイド社の責任者なのである。インドはすべての必要な証拠を揃えた。
お願いだから、引き渡してもらないだろうか。

 しかしオサマ・ビンラディンとはそもそも誰なのだろうか。ビンラディンはア
メリカの外聞をはばかる家庭の秘密なのである。アメリカの大統領の暗いドッペ
ルゲンガー(分身)なのだ。美と文明にかかわるすべての事柄にかかわる野蛮な
双子なのである。

 ビンラディンは、アメリカの砲艦外交、核兵器、「全領域支配」と野卑な言葉
で表現された政策、アメリカ以外の国民の生命への冷淡な無関心、野蛮な軍事介
入、専制的で独裁的な体制の支援、貧しい国々の経済をイナゴのように食い荒ら
す冷酷な経済政策など、アメリカの外交政策のためにやせ衰えた世界の肋骨から
生まれた秘密の双子なのだ。

 わたしたちに襲いかかって、わたしたちが呼吸する大気、わたしたちが立つ大
地、わたしたちが飲む水、わたしたちが抱く思考を奪い去ってしまうアメリカの
多国籍企業。そしていまや家庭の秘密が暴かれたので、この双子の境界があい
まいになり、たがいに取り替えることができる存在となってきた。しばらく前か
らこの双子の銃、爆弾、資金、麻薬が、輪を描くように循環し始めている。

 米国のヘリコプターを迎撃するスティンガー・ミサイルは、CIAが提供した
ものだ。アメリカの麻薬常用者が使うヘロインは、アフガニスタンから密輸され
たものだ。ブッシュ政権は最近、「麻薬との戦い」への助成金として、アフガニ
スタンに四三〇〇万ドルを供与したばかりである。

 いまやブッシュとビンラディンは、たがいのレトリックを真似し始めた。たが
いに相手を「蛇の頭」と呼んでいる。どちらも神の名をもちだし、千年王国論者
好みの善と悪というあいまいな概念を駆使する。どちらも疑いようのない政治的
な犯罪に手を染めている。どちらも危険な武器を手にしている。ブッシュはいか
がわしいほどに強力な核兵器を保有している。一方ビンラディンは、完全に絶望
した者だけがもつ破壊力を発揮している。火の球とアイスピック、棍棒と斧で武
装しているようなものだ。しかしわたしたちには、どちらも受け入れられる選択
ではないことだけは、忘れないようにしよう。

 ブッシュ大統領が世界の人びとに突き付けた最終宣告「味方でない者は敵だ」
は、不遜なほどに傲慢な言葉だ。どちらにつくか、世界の人々は選択したくもな
い。選択の必要もないし、選択を迫られることもあってはならないのである。

http://nakayama.org/polylogos/chronique/234.html




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