投稿者 asahi 日時 2001 年 11 月 21 日 09:21:46:
■《天声人語》 11月21日
「どうしたらいいのかまったくわからない」というせりふを大統領から聞かされたらどうだろうか。しかも戦
争を指揮している大統領からである。それこそ「どうしたらいいかわからない」
ベトナム戦争時のジョンソン米大統領が夫人に語った言葉である。秘密テープをもとにジョンソン時代を研究
している歴史家M・ベシュロス氏が以前、著書で暴露した。氏が今月その続編を出版した。
きのうの本紙に、その新著で明らかになったトンキン湾事件をめぐる会話などが紹介された。その記事や米紙
の紹介記事などを読んでいると、いまさらながら暗い気分に陥る。
「勝利へのプランがない。軍事的にも外交的にも」と大統領。国防長官や国務長官への不満をもらす。「ただ
祈り、あえいでモンスーンを持ちこたえる。そうすれば敵は屈服するのではないかと言うばかりだ」「私は彼ら
が屈服するなんて信じられない」
ジョンソン大統領はこうまで言う。「ベトナム情勢は日々悪くなっている。大きな犠牲を覚悟して一歩踏み込
むか、あるいは不名誉の撤退か。まるで飛行機に乗っていて、飛行機を破壊するか、飛び降りるかの選択を迫ら
れているようだ。私にはパラシュートはないのに」
著者は、国論が統一され、国民の安全のために戦っている今の対テロ戦争とはまったく違うことを強調する。
その通りだろう。しかし教訓はある。ずるずる進む事態を食い止めるのはいかに難しいか。戦争をやめるのはい
かに難しいか。指導者はいかにしばしば表の顔と裏の顔とを使い分けるか。