投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 09 日 11:00:17:
大手新聞社各社の悩みのタネである夕刊の発行を、ついに全国紙では初めて産経新聞社が廃止を決定した。東京本社発行分に限ったこととはいえ、大手紙の特に経営面からみた「夕刊」は“必要悪”の存在になりつつあっただけに、他社でも追随する動きが出てきそうだ。インターネットでのニュース配信が本格化している現在、朝夕2回の新聞事業そのものが存亡の危機を迎えており、電子メディアを含めたメディアのあり方が問われる時代となった。今回の産経の事例はまさにその象徴だ。
●苦悩からの決断〜聖域に踏み込む
産経は首都圏および静岡県の一部でおよそ25万部の夕刊を発行しているが、同社では5年以上前から夕刊廃止を検討してきたという。「読者は(テレビと違い)新聞に速報性を求めていない。分析や深い解説こそが必要」(清原武彦社長)との判断から夕刊廃止の決定を下した。しかし産経の場合、廃止の大きな理由はそれだけではなさそうだ。関係者によると経営面からの判断が大きく働いているという。
減少する部数に歯止めをかけようと、同社はこの9月、駅売りなどの即売価格を1部110円から100円に値下げする荒療治に出た。清原社長によると、この効果で「前年比で160%以上の販売増」というが、もともと少ない部数だっただけに、経営を改善する効果は薄い。
一部関係者によれば先週、産経では清原社長の号令の下、全国の局長級幹部が東京本社に集められた。そこで清原社長が「非常事態宣言」を発したという。そして新聞社にとっては最後の聖域ともいわれる夕刊廃止に踏み切ったわけだ。
●バブルの落し子
現在の夕刊体制は、まさにバブル経済の落し子といえる。もちろん夕刊はそれ以前から発行されてきたが、バブル経済時、巨額な広告出稿の受け皿として各社夕刊の増ページに着手、16ページ前後のスタイルとなった。記者の増員をはじめ、最新鋭の輪転機導入などインフラ投資が過熱したものの、バブル経済崩壊で広告収入が激減。今では夕刊そのものが経営の足を引っ張るケースが目立っている。ただでさえ利幅が薄い新聞事業だけに、過剰な投資が重荷になっている現状は打破できていない。新聞業界の苦悩はまさにここにある。
●激化するメディア戦争〜紙であるがゆえの限界?
新聞業界を取り巻く環境の悪化は今でも続いている。昨年からNHKがインターネットでニュース配信を開始したほか、日本テレビ放送網<9404>、東京放送(TBS)<9401>、フジテレビジョン<4676>など民放各社も一斉にCS(通信衛星)やBS(放送衛星)、ネットでのニュースに注力している。新聞業界の一部ではインターネットによる新聞配信を検討する動きもあるが、二律背反性を含めた紙媒体であるがゆえの“限界”に危機感は強まり、電子メディアとの差別化を模索せざるを得ない状況を迎えている。
●需給バランス崩れて淘汰(とうた)の時代へ
マスコミ業界は淘汰の時代にある。ニュースという情報の送り手であるメディアが急増する半面、受け手側はそれに追い着いていけず、膨大な情報の洪水におぼれている。しかしまた一方で、情報を得るための選択肢は大きく広がり、必ずしも特定のメディアを意識せずにニュースが得られる時代となった。
まさに需要と供給のバランスが崩れているのが今。どの業界でも需給悪化が淘汰につながるのは自然な流れだ。すでに読売新聞社による地方紙へのニュース配信事業も定着し、通称「共同通信潰し」が進んでいるという。これに対し、共同通信社は動乱さなかのパキスタンに2人の記者を送り込んで、“通信社ならでは”の存在感を誇示している、といわれている。
新聞、テレビ、通信社、雑誌、インターネット―。各種メディアの生き残りをかけた本当の戦いが幕を開けた。産経新聞社の夕刊廃止は時代を象徴する一例ではあっても、特異なケースとはならないかもしれない。
(井原一樹 市川徹)