投稿者 Foulier 日時 2001 年 10 月 14 日 00:37:21:
転載の転載です
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『週刊現代』10月20日号
アメリカ『日本政策研究所』所長チャルマーズ・ジョンソン教授
「小泉はブッシュの奴隷なのか」
「あなたの予測したブローバック(報復)が現実となった」ある新聞記者が、興奮した声でこのような電話をしてきた。この電話で、私はあのテロ事件を知った。 私は、米国に対するこうした報復が二十一世紀における世界的な潮流になると予測していた。なぜならこのテロは、米国が推し進めてきた帝国主義的な政策に対して当然起こるべき“揺り戻し”(ブローバック)、すなわち報復だから。米国自身が、これまでの政策を改めない限り、報復はまだ果てしなく続くだろう。軍事力で抑えつけられるという性格のものではない。
にもかかわらず、日本の小泉純一郎首相はさっそくワシントンに飛んできて、自衛隊による後方支援を約束した。これには私も驚き、失望している。ブッシュ大統領に対する小泉首相の振舞いは、まるで召し使いか奴隷のようだ。小泉首相を見て、私は中国の作家・魯迅が書いた『阿Q正伝』の主人公・阿Qを思い出した。ひたすら主人におべっかを使う阿Qと、ブッシュを喜ばすために振る舞う小泉は、どこに違いがあるのか。
今回のテロでは、米国民も米議会も、そろってテロリストおよびテロ国家に対する徹底報復を支持している。大統領にもっと権限を与えるという議案に対しては、議会の95%が賛成に回った。こんなことは前例がない。しかし、不幸なのは、米国民が、なぜ米国が同時テロで襲撃されねばならないような事態に陥ったかを知らされていないことだ。
原因は米国の帝国主義・覇権主義にある。東西冷戦時代には、旧ソ連の軍事力の脅威は存在した。だから私も、米国の外交政策を支持してきた。しかし、冷戦が終わり、ソ連の脅威が消滅したあとも、米国はそれまでの世界戦略を修正せず、東アジアを中心に大量の兵力を配備する「前方展開戦略」を強化し続けてきた。
この戦略を正当化するものは何ひとつない。にもかかわらず、米軍は改革・開放政策をとる中国を根拠なく危険視し、時代遅れのミサイルしかない北朝鮮の脅威を必要以上に強調して、むやみに日本国民の恐怖心をあおるなどの政策をとってきた。そうして、いまも軍事的覇権を拡大する政策を追及している。
これが帝国主義でなくて、なんと呼べるのだろう。ところが米軍・政府は、極度の秘密主義によって、米国がこうした帝国主義的な政策を推進してきたことを国民の目から隠してきた。
米軍が諸外国でどんな野蛮な行為をし、CIAが諜報活動の名目でどれほど非人道的な非合法活動を行い、人権を侵害してきたかを、米国民は知らされていない。たとえば米海軍の原潜は、ハワイ沖で日本の「えひめ丸」を沈めた。イタリアではスキー場上空を軍機が低空飛行してスキー客数十人を殺している。米軍兵士によるレイプ事件は、世界中で起きている。
CIAの野蛮な活動も、またしかりだ。CIAは情報機関などではない。これは非合法の秘密工作員の巣窟であり、外国政府や外国政府要人を傷つける国家的テロリストたちの巣窟なのだ。ところが、そうした情報や事件の背後にある事実が、米国民にはほとんど知らされていない。だから米国民には、こうした秘密主義が今回のテロにつながったのだということが、理解できない。けれども、イスラムやラテン系の人々なら理解できる。なぜなら彼らは、これまで罪もないのに米帝国主義の攻撃を受けてきたからだ。
今回のテロで、退役将軍らは嬉々としてテレビに出演し、「これは米国民への攻撃だ」と主張して、米軍事力の増強を訴えている。しかし、攻撃されたのは米国民ではなく、米国の外交政策だということを、われわれは知る必要がある。米国民は、今回のテロで犠牲となった7000人近い人々の死について、自分たちにも部分的に責任があると考えるべきなのだ。われわれは反省しなければならないのである。
米国が唱えているグローバリゼーションも、世界を支配しようとする米帝国主義の経済的な側面だと私は考えている。グローバリゼーションの実体は、米経済の基準である極端な市場開放と規制緩和を軸とした経済政策を世界に強要し、力ずくで従わせることにある。
それで最も大きな被害を受けたのはアジアだ。グローバル・スタンダードという名のアメリカン・スタンダードを受け入れて大幅な規制緩和を行ったアジア諸国に、ヘッジファンドやウォールストリートの資金が大量に流れ込み、突然、引き上げられた。その結果、アジアは97年の金融危機に見舞われた。
米国がこれまで行ってきたこれらの帝国主義的な政策がブローバック(米国への報復)を二十一世紀における世界的な潮流にしているのだ。
この帝国主義的な政策を動かしているのは、政府ではない。実質的な権力を握り、政策を動かしているのは、テロでも狙われたペンタゴン(米国防省)だ。 旧ソ連は過度の帝国主義・覇権主義により自滅し崩壊した。にもかかわらず、米国はいまだにその帝国主義的な政策を続けている。米政府がいまの外交政策を変えないなら、今回の戦争は旧ソ連と同じ道にたどりつくまで終わらないだろう。ビンラディンは今日におけるテロリストのシンボルだが、彼が明日死んでも、彼に続くテロリストは次々と出てくるからだ。
そもそも、今回の犯行の黒幕と呼ばれるビンラディンにしろ、イラクのフセイン大統領にしろ、ともにCIAが冷戦時代の協力者としてきたパートナーだ。本来の意味のブローバックとは、かつての協力者による報復行為といっても間違っていない。
米国は、ブローバックという潮流を変えることができるのだろうか。結論から言えば、ブッシュ大統領のもとでは、それは期待できないだろう。
ブッシュはまるでジョン・ウェインが演じたテキサス・カウボーイのように単純な男だ。過去に前例のない馬鹿げた愛国主義者といってもいい。
父親のブッシュ元大統領は、フォード時代のCIA長官だった。私はCIAのコンサルタントを務めていたから、冷戦時代、敵を殺し政権を転覆させるために、CIAがいかに暗躍し、どれほど米国民の税金を大量に使ってきたのかよく知っている。現在のCIAは「父親ブッシュのCIA」と呼ばれるほど、ブッシュ元大統領の影響力が強い。そのCIAは、今回のテロでさらに権限が強化された。
息子のブッシュの取り巻きにも、軍産複合体の利益を代表するラムズフェルド国防長官など、危険な人物がたくさんいる。こうした環境のなかで、単純で馬鹿げた愛国主義者のブッシュは、ひたすら彼の愛国主義を世界に押し付けようとしている。
京都会議で行われた地球環境を守るための議決を、ブッシュは拒否した。南アフリカでの世界人種差別撤廃会議にも欠席した。米国が過去に奴隷制度をもっていたにもかかわらずだ。これらは米国の傲慢さを物語るエピソードだ。
そんなブッシュのもとに、召し使いのように通っているのが、日本の小泉だ。
フランスの政治評論家レイモン・アーロンは、スターリン時代、モスクワに忠誠を誓い、モスクワ詣でを欠かさなかった東欧諸国における傀儡政権指導者のことを「恥知らずの凡人たち」と表現した。田中角栄から現在の小泉に至る日本の指導者は、東欧の指導者同様、すべてこの「恥知らずの凡人たち」だと、私は言いたい。
小泉は、日本国内では高い支持率を得ているが、諸外国では日に日に信頼を失いつつあることに気づいていない。彼は、自分が言いたいことことより、相手が聞きたいだろうという言葉をリップサービスしているにすぎない。
だから就任直後、キャンプ・デイビットでブッシュと会ったときも、京都議定書の問題で議長国日本の意見を主張するでもなく、ただブッシュの意見を十分聞いて、「反対する西欧諸国に伝える」と言った。そのくせ、その足でヨーロッパに行き、フランスのシラク大統領やイギリスのブレア首相と会ったときには、「よくわかった。ブッシュに伝える」と答えて帰ってきた。 このように行く先々で相手が喜ぶことをしゃべるだけでは、外交とは言えない。発言が一貫していないからバカにされるだけでなく、信頼されることがないのだ。
現在まで、小泉は日本のために何をしてきたのか。やったのはパフォーマンスだけだ。大相撲の表彰式では「感動した」などと言って観衆を喜ばせ、靖国神社問題でもお芝居をし、今回の同時多発テロでもうまく立ち回ってブッシュと堅い握手をし、片言の英語で記者会見に応じた。
ファッションも歴代首相よりはるかにあか抜けているし、離婚歴があるというのもユニークだ。けれども、これらは、別に首相の仕事とは関係がない。小泉のパフォーマンスは、日本国内でなら通じるかもしれないが、世界では通用しない。彼は「政治」ではなく、「お芝居」をしているだけの、ただのクレバーな役者としか、私には見えないのだ。小泉は、さかんにブッシュとの良好な関係をアピールしているが、単純なブッシュですら、小泉の動きには懐疑的だ。
もちろん例外はいる。アーミテージ米国務副長官やウォルフォビッツ米国防副長官といった煽動家は、日本が軍事的にさらに力をもってほしいと望んでいる。もちろん、米国に刃向うほどの軍事力ではない。あくまで、米国の衛星国として戦える程度の軍事力をもってほしいと望んでいるのだ。
彼らだけではない。米国はいま、日本に再軍備をしてほしいと願っており、新ガイドラインで日本に米国製の軍事製品を買えと圧力をかけている。世界一の武器セールスマンであるペンタゴンにとって、日本ほど無邪気でお人よしな上客はない。駐日米大使館はペンタゴンによる武器輸出活動の拠点であり、歴代大使は、武器輸出オフィスの責任者という色合いのものなのだ。
けれども日本は、これ以上の軍事力増強はまったく必要ではない。憲法改正も論外だ。私は小泉がブッシュと会って自衛隊による後方支援の約束をしたとき、非常に驚いた。後方支援発言は時と場所をわきまえない内容であり、役に立たないことを小泉はわかっていない。
彼は、日本国民の目から何かを隠すために、あえて後方支援発言をした疑いもある。なぜなら、米政府もブッシュ政権も、実際のところは日本の軍事的支援など要求していないからだ。
あるいは小泉は、湾岸戦争のときに日本が130億ドルもの支援をしたにもかかわらず、多国籍軍から感謝もされなかったという苦い過去を思い出し、ここで日本が何かしないと世界の中で孤立するという危機感を覚えて、アメリカが要求する前に、自分から後方支援を言い出したのかもしれない。
いずれにせよ、小泉は自ら進んでブッシュの奴隷になり、日本全土を「第二の沖縄」のように植民地にしようとしているのだ。日本が、また小泉が、なぜ米国に対して、こんなに媚びへつらうのか、私には理解ができない。日本には、外交上の長期的な展望といったものが感じられない。先にも言ったとおり、米国がいま、日本に対して切実に望んでいることは、自衛隊の派遣でも後方支援でもない。日本が、そして小泉が、即刻やらねばならないのは、日本国内の経済回復と構造改革であり、それこそが米国の切望していることなのである。そして、このことこそが、小泉首相が日本国民に隠したいことなのではないだろうか。