投稿者 東京新聞 日時 2001 年 7 月 25 日 20:38:19:
田中外相 最近の会談メモから
「ユーゴというとチトーの国」
「軽口」のつもりが…
田中真紀子外相の人気は歯に衣(きぬ)着せぬ発言にある。就任当初は米国のミサイル防衛構想に異議をはさむなど持ち味を発揮していたが、最近はタンカが消え、各国への配慮が目立つ。ただ、本人は「外交辞令」のつもりの話術が、思わぬ反感を買っている場合も多い。最近の会談メモから外相の“迷言”を拾った。
今月十七日のコシュトニツァ・ユーゴスラビア大統領との会談では、バルカン半島の複雑な民族情勢に触れ「日本は単一民族ということもあり、民族問題を理解するのは難しい」と発言したことが明らかとなり物議を醸した。ただ、相手側をカチンとさせたのはこれではなく冒頭のあいさつで放った軽い一言だ。
「ユーゴというと中学校の時の授業でチトーの国として習ったが…」
チトーとはいうまでもなく、冷戦時代、民族のモザイクである旧ユーゴスラビアを強権で束ねてきたカリスマ的大統領だ。しかし、自身はクロアチア人。旧ユーゴ崩壊後、クロアチアと戦火を交えてきたセルビア人とモンテネグロ人で構成される現在のユーゴの指導者にすれば「チトーの国」とは言われたくない。
コシュトニツァ大統領の反応は「チトーの国であるというのは遠い昔の話。チトーの共産主義はもうどこにもない」だった。
先月六日のイワノフ・ロシア外相との初の電話会談では、田中外相が領土問題で対ロ強硬姿勢を示していることから、イワノフ外相が真意を探ろうとこれまでの日ロ問題の経緯を懸命に説明した。これに対し「私からも発言させてほしい。まず言いたいのは貴大臣の声が素晴らしいということ。思わず聞きほれてしまったということだ」「一体この素晴らしい声の主はどんな顔をしているのかと今から想像している」。
イワノフ外相自身は笑って「ありがとう」と答えたが、ロシア側事務方は交渉の腰を折られたと激怒。以来、田中外相とは「外交辞令」以外交わさない姿勢を取っている。
先月行われたパウエル米国務長官との初会談については、最近になって、外相が憲法九条改正に前向きな発言をしていたことが一部報道で暴露されたが、パウエル長官をあきれさせたのはこんな問いかけだ。
「自分は科学技術庁長官の経験があり、(ミサイル防衛)研究は一キロ先の蚊の目玉を撃つようなものと考えるが、どの程度の技術なのか教えてほしい。核融合と同じようなものか」
これに対し、長官は「ミサイルは蚊と異なり、蚊の例は適当と思えない。ミサイルは蚊と違い熱を発し、われわれはその熱をとらえることができる。ミサイルをとらえたら、次にそれを撃墜することが可能なのかどうかの問題になる…」。
この質問はご愛きょうにしても、ミサイル構想については、外相の発言が転々とする「軽さ」も問題となっている。五月のディーニ・イタリア外相会談などでは反対の意思を示し、六月のパウエル長官との会談では「理解」に。さらに今月のチェコ国営テレビのインタビューには「世界には核兵器を拡散させる恐れのある国家が四十一もある。それゆえに日本は米国の計画を支持する」と明言。米国寄りに一八〇度転換した。
こうした外交テーブルでの外相発言の「軽さ」について、外務省に近い政府筋はこう解説する。
■ブレーンなく官僚とも対立
「機密費問題などで対立している外務省官僚のレクチャーを受けたくないという思いが基本にある。だったら省内外に信頼できる独自の外交ブレーンをつくればいいが、それもしない。だから行き当たりばったりの発言になる。一方で、小泉純一郎首相が対米重視を鮮明にしており、それに従い省内の『アメリカン・スクール』の説明はきちっと聞くようになった。それで結局、対米関係については外務省の言いなりになっている」