地上波デジタル放送に突っ込む「日本的意志決定」

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投稿者 ____ 日時 2001 年 8 月 30 日 12:30:23:

池田信夫の「ドット・コミュニズム」
Dot-Communism

第9回 リメンバー・パールハーバー
──地上波デジタル放送に突っ込む「日本的意思決定」

text: 池田信夫

●勝ち目のない戦いに突入する論理

 毎年、夏になると戦争や歴史をめぐる話題が出てくるが、今年は特に小泉首相の靖国神社参拝や「新しい歴史
教科書をつくる会」の教科書問題で「日本の夏」はひときわ盛り上がりを見せ、日米開戦60周年ということで真
珠湾についての映画や本もたくさん出た。しかし夏が終わってみると、いつもと同じ年中行事がくり返されただ
けという印象が強い。

 特に「つくる会」の教科書をめぐる騒ぎは常軌を逸していた。他国の教科書を書き換えろという「近隣諸国」
の要求も尋常ではないが、日本の新聞まで「検定強化」を主張するのにはあきれた。朝日新聞は、かつて「家永
裁判」のとき教科書検定は違憲だと主張したのではないのか。

 「左翼」的な歴史観を弾圧する検定は悪いが、「保守反動」は排除しろというのはご都合主義にすぎない。戦
争をこんな古いイデオロギーで論じている限り、その本質を理解することはできない。そして現代でも、無謀な
戦争を招いた「日本的意思決定」の失敗はくり返されているのである。

 その典型が「地上波デジタル放送」である。総務省はデジタル化のための周波数変換(アナアナ変換)を告示
し、今年の秋には周波数を割り当てる予定だ。今や民放連の氏家斉一郎会長まで「地上波デジタルは事業として
成り立たない」と公言しているのに、総務省は3年前に決めた方針を変えないで勝ち目のない戦いに突入しようと
している。

 真珠湾の前夜にも、陸軍省整備局の報告では、日米の戦力や補給力に大きな差があり、2年以上は戦えないとさ
れていたが、東条内閣は企画院に生産力を誇大に見積もった報告を出させて御前会議を強行突破した。このよう
に客観的な事実を無視して「大和魂があれば何とかなる」とする主観主義が日本軍の特徴で、「士気にかかわ
る」ような情報は偽造するのが当たり前だった。

 BSデジタル放送でも、総務省は受像機が「1000日で1000万世帯」に普及するという目標を立てたが、実際に
は月産1万〜2万台だ。ところが今年の6月に「BSデジタル放送推進協議会」が行った「放送普及予測調査」によ
れば、2002年3月までに受信機は260万台も売れることになっている。月産2万台の商品があと9ヶ月で200万台
も売れるというのはどういう計算だろうか。また「ケーブルテレビ経由」で140万世帯が見るそうだが、今年4月
現在でデジタル・セットトップボックスは累計でわずか9300台だ。「大本営発表」の主観主義は、戦後半世紀以
上たった今も健在なのである。

 太平洋戦争の教訓を「アジアの反発」や「憲法第9条」のレベルでしか理解していないと、同じような過ちをく
り返すだろう。経営再建の見込みのない銀行に「健全だ」というお墨付きを「学識経験者」に出させて資本注入
を強行する。吉野川の河口堰を作るといったん決めると、住民投票で反対されても当初の方針どおり決行しよう
とし、都合の悪い調査結果が出ると隠す・・・

 こういう問題を特定の政治家や官僚の私利私欲によるものと考えると、問題の本質を見誤る。真珠湾について
も、いまだに昭和天皇の「戦争責任」をめぐる議論が多いが、法的には戦争の総指揮者としての責任を負うとし
ても、実際に天皇個人が戦争を防げたとは思えない。当時もっとも過激な対米開戦論を掲げたのは、マスメディ
アだった。今回も新聞はデジタル放送について「翼賛記事」をくり返しているが、デジタル放送が失敗に終わっ
たとき、メディアは「戦争責任」を取るのだろうか。




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