戦争責任:西ドイツの東方政策について

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投稿者 Willy Brandt 日時 2001 年 8 月 25 日 13:55:12:

「この跪拝は<計画的>なものではなかった。…ドイツの現代史の重荷を背負って、私は言葉が無効であるときに人間が取る行動に従ったのだ…私を理解してくれようという気のある人には、分かってもらえた。私の率いる代表団の中でも何人もが泣いていた…ドイツ民族とその犠牲者との間に橋を架けようという試みだった」
――ウィリー・ブラント元西ドイツ首相


「1970年12月、ポーランドとの国交正常化の基礎に関する条約に調印するため、同国を訪れた西ドイツのブラント首相は、かつてナチス・ドイツが残虐の限りを尽くしたワルシャワ・ゲットー跡に建つユダヤ人の記念碑に追悼の花輪を捧げました。

ナチスの犠牲になったユダヤ人は数百万人といわれ、イスラエルの人口に倍します。凶器のような殺戮の場の一つであるワルシャワ・ゲットー跡に立ったブラント首相は花輪を捧げた後、二歩三歩と退くと、突然崩れるように跪き、改めて死者への祈りをあげたのでした。

プロテスタントの慣習ではないこの跪拝――ブラント首相はプロテスタントです――は、まったくのハプニングでした。ナチスの手を逃れて亡命生活を過ごさなくてはならなかったブラント首相は、祖国が犯した過去の過ちの犠牲者の一人であり、だからこそ人一倍歴史の反省にも厳しいのでしょう。この反省が亡くては起こらなかったはずのハプニングです。

西ドイツに初の社会民主党政権が成立してから一年そこそこの間に、西ドイツの対東ヨーロッパ外交はめざましい動きを見せました。ソ連との武力不行使宣言でヨーロッパの現状を承認し、ポーランドとの条約ではオーデル、ナイセの二つの川の東側の旧ドイツ領を放棄し、東ドイツの存在を認める態度を示していること――これらはいずれも以前のキリスト教民主同盟の三代の首相が否定し続けてきたことです。西ドイツといえば、常に復習主義者という冠詞をつけ続けてきた東ヨーロッパ諸国の間に、「平和のパートナー」としての西ドイツのイメージの変化が起こりつつあるのはブラント外交の成果です。

オーデル・ナイセ以東の失地回復を叫び、東ドイツは国家として認めず、詰まるところ西ドイツに吸収していこうという政策からの転換――それはそれなりに意義深いことですが、これを単に外交技術上、あるいは経済適用性からの問題と捕らえるのはいささか皮相に過ぎるでしょう。第二次大戦の結果の全面的承認の背後にある、道徳的な責任を率直に受け入れる態度――これこそブラント内閣のオスト・ポリティーク(東方政策)の根本というべきでしょう。この真摯な反省こそ、異例な跪拝の動機だったのです。四分の一世紀にわたって第二次大戦の結果を否定してきた虚構の裏には、歴史への反省の欠如があったのでした。

虚構と無反省への告別こそ、ブラント外交の本質です。ことに大戦への道徳的反省という点については、日本政府の中国政策、より基本的には日本人一般の中国観と比較するとき、日本人の一人として複雑な感情にとらわれざるを得ません。…」

(中略)

政治というのが、可能性の芸術であるとすれば、ブラント首相の方針は、ヨーロッパの不安定要因であることが多かったドイツを文字通り東西の架け橋で荒らせようという可能性を探求している、といって過言ではないと思います。この事業が生やさしいものではないことは、条約調印の後のポーランドに暴動、ストライキが起こり、東側のタカ派のいう「西への接近は危険」という議論が勢いづいているかに見える一事を持ってしても明らかです。…」
(『西ドイツ』永井清彦 p3−5)



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