投稿者 逝ってよし! 日時 2001 年 3 月 05 日 19:39:35:
特報・機密費:外務省から官邸へ年20億 上納システムが判明
首相官邸が、外務省の外交機密費から資金を吸い上げる「上納システム」の全容が4
日、明らかになった。外務省内では年度初めに四半期ごとの上納計画が立てられ、官邸側
の要請に基づいて毎月1、2回ずつ額面合計1億円程度の政府小切手を旧総理府(現内閣
府)職員に手渡していた。上納総額は年間約20億円に達し、官邸は正規の官房機密費
(年間16億2400万円)を上回る公金を別枠で自由に使える仕組みになっていた。政
府は上納を全面否定しているが、国家機密を隠れミノにした虚偽であることが初めて具体
的に裏付けられた。
上納の実態は、毎日新聞の取材に対し複数の外務、財務両省関係者が証言した。外務省
に計上された機密費の一部を首相官邸が活用し始めたのは、日韓条約交渉のため多額の工
作資金を必要とした1960年代初めから。その後、官房機密費の見かけ上の額を少なく
抑えるために上納が制度化されていったという。外務、財務両省の予算担当者らは上納分
を外交機密費への「埋め込み」「もぐり込ませ」などと呼んでいた。
証言によると、92年以降毎年55億6600万円が計上されている外交機密費のう
ち、予算編成段階で官邸への上納分と残りの実質的な外務省分の内訳が決まり、外務省で
は年度初めに四半期ごとに均等割りした支出計画を作っていた。上納総額は年間20億円
でほぼ固定化され、年度によって数億円の増減があったという。
この枠組みに従い、月に1、2回、総理府会計課の担当者が機密費を専門に扱う外務省
会計課審査室に電話を入れ、同課出納室が政府小切手を発行、再び審査室を通じて総理府
会計課職員に小切手を渡す、という流れで上納手続きが行われていた。その際、外務省で
作る支出決議書の「債主(支出先)」欄には「内閣官房長官」と記されていた。
外交機密費は外務本省分19億1600万円と在外公館分36億5000万円に分かれ
ているが、外務省側は両方からバランス良く出すために通常2枚の小切手を切り、合計で
要請に見合う額にしていた。1枚当たりの小切手の額面は5000万円が中心だった。ま
た同省内では上納のたびに審査室長→会計課長→官房長→事務次官の順で決裁書が回って
いた。
一方、小切手の現金化は(1)外務省から連絡を受けた財務省会計センターが日銀に国
庫金振替を通知する(2)日銀が東京・虎ノ門にある都銀支店に現金を振り込む(3)内
閣府会計課職員が都銀に小切手を持ち込み現金を受け取る――というルートで行われる。
こうして官邸に流れ込んだ巨額の上納金は、予算書には一切登場しない「裏の官房機密
費」として与党の選挙資金などに充当されていた可能性がある。
◇
6日朝刊から、3面で連載「国家のウソ――機密費疑惑」を掲載します。
<解説>
外務省から首相官邸への「機密費上納」の生々しい実態が初めて判明した。1960年
代初頭を起点とした上納は、いったん裏金のうまみを知った政治権力によって常態化さ
れ、40年近くにわたって抜き差しならない「国家のウソ」になっていた。表の機密費す
ら使途を隠し通す首相官邸が、それを上回る規模で裏の機密費を保有していたことは、省
庁をまたいだ予算の「移用」を制限した財政法に違反するばかりでなく、機密費制度の信
頼性を根本から揺るがすものとなる。
上納問題は、外務省の松尾克俊・元要人外国訪問支援室長による機密費横領疑惑が発覚
したのを機に改めて国会で議論された。共産党は「官房長官が取り扱う報償費は予算上、
内閣官房と外務省に計上されており、形式的には外務省計上分を内閣官房に交付する形を
とっている」と記載された書類を提示し、政府内で引き継ぎ用に作成された文書に違いな
いと追及した。それでも福田康夫官房長官は「出所不明の文書にコメントできない」との
立場を貫いた。
複数の政府関係者は、上納手続きについて毎日新聞に具体的かつ詳細に証言した。会計
検査院が上納について「知らぬ存ぜぬ」を通していることに対しては「検査院の職員は毎
年、外務省に乗り込んできて、官房長官あてに機密費を出した証拠書類を見ている。検査
院は上納に伴う会計操作のすべてを熟知している」との証言もあった。もはや政府の上納
否定は、どこから見ても説得力がない。
予算書上の官房機密費は、75年度時点から現在までの25年間で約2億4500万円
しか増えていないことになっている。一方、外交機密費は同じ期間に約18億円増えてい
る。政治性が強く野党から攻撃されやすい官房機密費の増額を表向き抑制し、外交機密費
の伸び分を官邸が裏で吸い上げていたとみられる。松尾元室長に対し、官邸が官僚の宿泊
費補てん分として気前良く9億6500万円も渡していたのは、上納させられた者に対す
る慰めのようでもある。
機密費をめぐる国会の論議は、途中から「首相降ろし」の政局で後退し、来年度予算案
は原案通りに衆院を通過した。将来、不安の元凶である巨額の財政赤字を抱え、わずかな
税金の無駄遣いも許されない時に、いびつな機密費の構造を放置し続けるというのは、モ
ラルの問題を通り越して犯罪的ですらある。
6日からは参院に舞台を移して再び予算審議が始まる。外交機密費から官房機密費への
組織的上納が、これだけ具体的に明らかになった以上、参院はその存在意義をかけて「国
家のウソ」に向き合う責任がある。