こーゆーのも [Re: 少し「古い」ですが・・・朝日新聞の「論壇」にボツにされた、卓越したインテリジェンス

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投稿者 ごーぐらー 日時 2001 年 2 月 26 日 11:03:19:

回答先: 少し「古い」ですが・・・朝日新聞の「論壇」にボツにされた、卓越したインテリジェンス 投稿者 くま 日時 2001 年 2 月 25 日 20:32:39:

   「テポドン」に思う

                                  98.11.1
                          小野英男 技術士(航空・宇宙)

 1998年8月31日に北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国が大型ロケット「テポドン」を
打ち上げたことに関して私見を述べたい。

1.直感−−−衛星打ち上げである
 このニュースを聞いたとき、私は以下の理由から衛星打ち上げであると直感した。
先ず社会情勢的視点から次の様に考えた。
・国家的慶事を祝う大型花火である。1995年5月、偉大な領袖金日成前主席の遺徳を偲
 び新しい指導者金正日総書記の誕生を祝う「平壌国際スポーツ文化祭典」が開催された。
 3週間に限りビザ無しで外国人が受け入れられ名古屋から平壌に直行便が飛んだ。今年、
 建国50周年と総書記の国家最高指導者就任を機に、9月9日を中心に盛大な祝典と外国
 旅行客受け入れが報じられていた。衛星打ち上げは絶好なタイミングのイベントであった。
・ミサイル発射の意図は考え難い。原子炉、食糧不足、子女拉致疑惑、潜水艇越境など多く
 の国際問題を抱えた時期に北朝鮮が日本に挑発的行動をとることはあり得ない。もともと
 北朝鮮では日本は解放されるべき被征服国であると考えられており対日感情は悪くない。
次に技術的視点から次の様に考えた。
・ロケットを敢えて日本上空を通る真東近くに向けて発射したことは衛星を狙った最も確か
 な証拠である。非力なロケットで衛星速度約7.9 km/s を得るためには地球自転速度約
 0.4 km は有効である。「スプートニク」「エクスプローラ」「おおすみ」「中国1号」
 など初期の衛星はいずれも東向きに打ち上げられ軌道傾斜角は打上基地の緯度を背負って
 いた。それでも今回は日本中央部を外して津軽海峡寄りに且つロシア領には入らないパス
 を狙ったことが窺われる。ミサイル実験ならば日本海に北寄りに打つはずである。
・衛星打ち上げは今や多くの国で可能である。V2から半世紀以上、スプートニクから40
 年余りを経て、今やロケットは特別に高級な技術ではなくなった。ピンポイントを狙う誘
 導と再突入時の耐熱が問題となるミサイルに比べ、軌道や寿命も問わずとにかく衛星を実
 現させるだけならば推薬を多めに積んで打ち上げれば良いだけのことである。

2.その後の動き−−−ミサイルから衛星へ
 9月4日に北朝鮮は初めて「衛星を打上げ、周波数27MHz帯で電波を発射中」と発表
した。翌日の新聞写真で私は「典型的・教科書的な多段ロケット」であると感じた。1段目
と2段目は石油系燃料、3段目は固体燃料のロケットで、直径1.5m程度、長さ30m以
内、能力はせいぜいN−1程度であるが充分に衛星は打ち上げられると見た。そして、3段
目はノーズコーン内に衛星と共に搭載されていると推定した。
 しかし、最近の進歩した構造材料を用い信頼性は勿論としてコストまで考えた少段・ズン
グリ型ロケットを見慣れた若い世代には2段ロケットにしか見えなかった様で、衛星打ち上
げをロケットの能力から疑問視する論評が多く見られた。また、防衛庁の秋山次官は「国威
発揚を狙った宣伝工作」と衛星打ち上げを否定する見解を述べた。
 4日、NHKからの速報が日本アマチュア無線連盟(JARL)に入った時、丁度居合わせ
た私は衛星打ち上げ計画を肯定する意見を述べた。スプートニク以来衛星電波に関心を持た
れアマチュア衛星3機の実現に尽力された原JARL会長から、その後問い合わせがあった
ので「衛星打ち上げと考えると辻褄が合う」と返事した。同会長は「国会アマチュア無線ク
ラブ」会長の小渕首相に「ミサイル説に傾倒し過ぎないよう」助言された由である。
 私にも疑念が無かったわけではない。受信機を枕元に置き24時間体制でワッチしてもア
マチュア無線仲間の情報を集めても衛星の電波は確認できなかったし、頼りのNORADも
沈黙していた。しかし、衛星の電源や熱設計の問題で電波が出なくなる可能性、NORAD
が小さな衛星の標定に手間取ったり追跡能力の明確化を避けて発表を意識的に遅らせる可能
性などを考えると、やはり衛星打ち上げであるとしか結論付けられなかった。
 10日になり北朝鮮は数ヶ月の練習を必要とする「光明星1号打上げ祝賀マスゲーム」を
報道、12日にNASAと米国政府が衛星打上げ見解を発表、13日に韓国政府高官が「衛
星打上げを試み失敗」と発言、17日に米国はアラスカ沖までの飛行物体を公表、韓国国家
安全保障会議は「3段ロケットで小型衛星打上げを計画し失敗」と結論、朝鮮中央通信は
「13日に地球100周、10月上旬肉眼確認可能なはず」と報道した。22日には米国に
よる「メインロケットはテポドン1号、3段目固体ロケットが最終段階で爆発、衛星化は失
敗」の全容報道、24日には軌道解析の詳報があり衛星計画が明確となった。
 しかし、我が国の政府筋はミサイル説に固まっている。防衛庁の秋山次官は17日に至っ
ても記者会見で「米国務省の結論は疑問、人工衛星の可能性と意図が納得できない」と述べ、
額賀防衛庁長官は22日の新聞で衛星計画に疑問を示し、10月30日の閣僚懇談会にも
「弾道ミサイルの可能性が大きく、米国や韓国の人工衛星失敗説には同調しない」と報告し
た。

3.考察と意見−−−余り色眼鏡で見るべきでない
 その後この話題はマスメディアに登場しなくなってしまったが私は次の様に考える。
・北朝鮮は国家的慶事祝賀と民心統一の目的で衛星を打ち上げた。ミサイル実験ではない。
・衛星はバスケットボール大程度以下、10kg程度以下で、革命歌のプレーヤーと若干の
 衛星状態計測機器と数ワット以下の送信機と1次電池を搭載した単純なものであろう。
・ロケットは、1段目と2段目に石油系燃料、3段目に固体燃料を用い、最大直径1.5m
 からせいぜい2m程度、長さ30m以内の平凡なものである。
・衛星と3段目ロケットとは一体の可能性がある。初期の衛星で良く行われるし、朝鮮中央
 通信の「10月上旬に肉眼で確認できるはず」の報道は、光学的反射率が大きく直径1m
 程度あれば軌道・時間条件が良いとき肉眼で見えるから、これを裏付けている。
・衛星化は失敗した。電波も聞こえず見えたとの情報も一切無い。大きな加速を配分された
 3段目固体ロケットが推薬のクラックによる異常燃焼かシェルの構造強度不足で燃焼末期
 に爆発し、3段目と衛星は数cm以下の多数の砕片となり宇宙空間に放出された。既に数
 千個浮遊しているこの程度のデブリ中からの識別・標 定にNORADは時間を要し発表が
 遅れた。なおNORADの意識的な発表遅延の憶測も捨てきれない。
・北朝鮮は衛星化の失敗を知ったが体面上、計画値を発表した。或いはこの国特有の情報伝
 達の遅さから修正されない情報が流れてしまった。
・ロケットは日本の初期の衛星打上げロケットよりも慣性誘導システムがあるだけ進んでい
 るがミサイルとしては即戦性を欠き僅かな通常火薬を搭載できる程度である。また、私が
 1995年に北朝鮮で見て来た一般工業製品の品質水準から推察すると技術の裾は広がっ
 て居らず、北朝鮮のミサイルを実戦的な脅威として危機感を煽るのは正しくない。
・事前非通告が非難されているが、国家のために身命を賭する北朝鮮の意識では「ロケット
 の残骸が落下する程度のことは国民として喜んで耐えるべき事で、日本人もそう考えてい
 るだろう」と云うだけのことである。特に体面を重んじる国民性からは失敗確率の大きい
 計画は黙って進める筈である。前大戦までの日本人の意識で考えれば納得できる。
・日本が今般の件につき「衛星成功は疑問」と評したり「事前通告無く我が国上空へのロケ
 ット発射は遺憾」と抗議するのは良いとして、自国は立派にミサイルとなり得るロケット
 を打ち上げながら、宇宙飛行体探索や宇宙査察の確証手段が無いままで「ミサイル実験」
 と決めつけたり「非難、開発停止要求」することは失笑と逆非難を買うだけである。
・それよりも平和利用のための提携の道を進むべきである。或るところまで開発が進めば米
 ソ間の様な和解・協力に到達するはずである。衛星打ち上げの祝電を小渕総理が打つくら
 いの度量が日本にあって然るべきではなかったかと思う。
・外務省の対応は素早かったし、国連を動かせたことも評価できる。
・防衛庁はこの計画は8月中旬に把握し、イージス艦「みょうこう」、護衛艦「みねゆき」、
 電波情報収集機EP−3、早期警戒機EC−2などが米軍のミサイル追跡艦「オブザべー
 ション・アイランド」、電子偵察機RC−135Sと共に行動して満足なデータを取得し
 たと云う。
 しかしノドンミサイルとの思い込みと頼りのアメリカ情報の遅れから情勢分析を誤った。
 私でさえ直感した様なマクロな情勢分析を行えなかったのであろうか。
・防衛庁首脳の「予想していた技術レベルをはるかに越えていた」との談話は今までの過小
 評価から過大評価への一足飛びであるし、「脅威である」と云うのも開発と実用との大き
 な違いをわきまえない話である。もっと技術を正視して欲しいものである。
・また防衛庁はなぜミサイル説に固執するのであろうか。予算要求のためならば「衛星を打
 ち上げられるロケットは当然ICBMになる、単段ミサイルよりも怖い」「米国も韓国も
 衛星打ち上げだと云っている」と説明した方が理解され易いのでないか。
・新聞報道によると、内閣安全保障・危機管理室(安保室)には北朝鮮のミサイル発射準備
 の情報は届いておらず、「三陸沖着弾」の連絡も当日の21時になって届いたと云う。国
 の安全を握る部署がこの有様では日本の安全が憂慮される。
・北朝鮮もピョンヤン放送などで予告や経過など実体を率直に報じた方が余計なカングリを
 受けずに済むと思われる。トバッチリを受ける在日朝鮮人が気の毒である。
・いろいろなことを考えさせてくれた今回の事件をプラス方向に生かしたい。
                                       以上


(参考) ロケット発射以降の経緯の概要
8/31 ・12時07分、ロケット発射。
   ・12時15分、官邸ほかに防衛庁から「ミサイル発射」の米軍早期警戒情報。
   ・12時50分、首相ほか閣僚に伝達。
   ・14時、ミサイル日本列島飛び越しの情報。
   ・15時、外務省、高橋KEDO担当大使に軽水炉支援署名見合わせを訓令。
        外務省、北京経由及び国連経由で北朝鮮に抗議。
   ・16時、額賀防衛庁長官、秋山事務次官など三陸沖着弾の情報を把握。
   ・18時、韓国では既に詳報をTV放送開始。
   ・20時、小渕首相に三陸沖着弾が正式報告。
9/ 1 ・17時、関係閣僚会議。国連への働きかけ決議。
9/ 4 ・北朝鮮、「衛星を打上げた。周波数27MHz帯で電波を発射中。」と初めて報道。
   ・秋山次官、「国威発揚を狙った宣伝工作」と衛星打ち上げを否定。
9/ 5 ・朝鮮アジア大平洋平和委員会書記長、北京で韓国代表団に「日本は米国情報に頼り間
    違えた、制裁などロにするから笑い者になる、自主外交が必要」と批判。
9/ 6 ・米国国防総省スポークスマン、人工衛星の可能性を表明の報道。
   ・ロシア宇宙飛行追跡局、衛星であることを確認の報道。
9/10 ・北朝鮮建国50年慶祝式典(9日、平壌)で衛星「光明星1号」打上げ祝賀との報道。
9/12 ・新聞朝刊、衛星打上げとのNASA見解を報道。夕刊、米国政府の同様見解を報道。
9/13 ・韓国政府高官、「衛星打上げを試み失敗」と発言。
9/17 ・米国、アラスカ沖まで飛んだ物体の存在を公表。3段ロケットでの衛星計画確実化。
   ・韓国国家安全保障会議、「3段ロケットで小型衛星打ち上げを計画し失敗」と結論。
   ・朝鮮中央通信、「13日に地球100周、10月上旬肉眼確認可能なはず」と報道。
   ・秋山防衛庁次官、記者会見発言「米国務省結論は疑問、衛星の可能性と意図不可解」。
9/22 ・新聞、全貌報道「メインはテポドン1号、3段目固体ロケット爆発、衛星化は失敗」。
   ・額賀防衛庁長官、「衛星計画は疑問」と表明。
9/24 ・米国、軌道解析を詳報。
10/ 2 ・防衛庁首脳、「テポドンの技術は予想以上」と表明。
   ・北朝鮮、「主権国家であるから衛星打ち上げは続ける」と表明。
10/ 4 ・北朝鮮宇宙技術委員会学者、日本人学者に表明「1年以内の静止衛星打上げ準備中」
10/23 ・額賀防衛庁長官、「今年春、日本越えミサイルの情報を得ていた」と表明。
10/30 ・防衛庁、閣僚懇談会に「弾道ミサイルの可能性が大きく、米国や韓国の人工衛星失敗
    説には同調しない」と報告。
10/31 ・政府、「情報衛星」開発素案を決定。予算要求へ。
                                        以上


[宇宙先端 第14巻第6号(1998年11月号)収録]





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