主張・解説:新中期防衛力整備計画 TMD開発意図ちらり(朝日)

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投稿者 日本は米国の鴨であり続ける。 日時 2001 年 2 月 24 日 16:41:18:

新中期防衛力整備計画 TMD開発意図ちらり

 昨年末策定された新中期防衛力整備計画(2001〜05年度)には、日米共同研究段階にある戦域弾道ミサイル(TMD)を開発段階に進める意図が見え隠れしている。また、「軍事の革命」(RMA)による先端兵器の買い物に熱心な一方で、冷戦後薄れてしまった脅威にもこだわり、在来型の兵器や部隊編成にもカネを注ぎ込もうとしている。そのため計画総額は財政構造改革法で抑制されたとき以前の水準に逆戻りした。これほどの問題があるのに政治の場では、近隣外交におよぼす影響や財政危機との関連についてほとんど議論されていない。

総額増 水準逆戻り

■水面下の動き
 新中期防策定に当たっては、空中給油機の導入が自衛隊戦闘機の航続距離をのばし、近隣諸国の基地を攻撃する能力につながる問題がクローズアップされ、その影でTMDは表立った議論にならなかった。だが水面下の動きはあった。
 ブッシュ大統領就任式を前にした一月十六日。ポトマック河に近いアーミテージ氏(その後ブッシュ政権の国務副長官に指名)の事務所を山崎拓・元防衛庁長官が訪ねた。日米両国の安全保障政策に影響力をもつ旧知の二人は、こんな会話を交わした。
 アーミテージ氏「新政権は国家ミサイル防衛(NMD)を強力に推進する。対ロ交渉を開始し、中国や韓国にも十分説明したい」
 山崎氏「防衛庁は戦域ミサイル防衛(TMD)の日米共同研究で技術的な実現可能性が確認できれば、新中期防で開発段階に進める態勢をとっている」
 山崎氏が携えていたのは防衛庁作成の説明資料。そこには、新中期防の閣議決定文にある「弾道ミサイル防衛(BMD)については、技術的な実現可能性等について検討の上、必要な措置を講ずる」という短い記述がかみくだいた解説が書いてあった−−。
 「早ければ新中期防期間中にも、海上配備型上層システム(NTWD)に関する日米共同技術研究が終了する見込みであることなどを踏まえ、我が国としてBMDの開発段階への移行などについて判断を行う可能性があり得る」
 TMD日米共同技術研究の九九年度開始に先立って日本政府は「開発段階、配備段階への移行については別途判断する」(官房長官談話)と決めた。財務省も防衛庁も公式には、今も研究段階の認識のままだと言う。だが山崎氏は「新中期防の予備費的な千五百億円の枠内にTMD開発段階に移行する場合の経費が積んである」と言い切る。

■先端兵器購入
 新中期防策定にかかわった財務省筋はこう言った。
 「新中期防はRMA(軍事の革命)をこなしきれていない。もしTMD開発の方向に進むなら本当に大変な政治判断。ミサイル防衛を織り込んで防衛構想を見直し、在来型の部隊や兵器を縮減しなければ、RMAに大金をかける防衛予算は組めない」
 RMAは米国が九〇年代初頭の湾岸戦争をきっかけに本格的に取り組み、情報通信技術(IT)や精密誘導兵器システムなどの急速な発達で戦場イメージを一変させた。ミサイル攻撃から米本土を守ろうとするNMD、前方展開の米軍や同盟軍などを守ろうとするTMDも、RMAの流れのなかに位置づけられる。
 新中期防にもRMAが色濃くにじむ。
 代表格は、防衛情報通信基盤の整備。陸海空三幕僚監部、調達実施本部など各機関ごとのコンピューターネットワークを集約する。また、P3C後継の哨戒機に、船影を画像としてとらえる逆合成開口レーダーを搭載する。機上センサーから水上目標の画像を送り、地上データベースと照合して何ものなのかを識別するシステムである。

軍拡競争の引き金懸念

■在来型も温存
 新中期防には在来型の防衛観に立った兵器の買い物リストも並んでいる。
 <陸上自衛隊> 新戦車を開発。性能は「IT革命に対応した指揮統制通信機能。重量四十四トン」。
 防衛計画大綱(九五年策定)別表に掲げる戦車約九百両という保有水準が新戦車開発の論拠の一つ。重すぎて一般の道路や橋りょうでは運用困難という現有の戦車(五十トン)への批判を気にし小型軽量化をうたうが、大して軽くならない。
 <海上自衛隊> 軽空母の実験艦と見られるヘリ四機搭載大型護衛艦二隻を建造。固定翼哨戒機の大綱水準八十機を十〇年度以降も維持するためP3C哨戒機の後継機の開発も計画。
 <航空自衛隊> 対地攻撃用のF2支援戦闘機を四十七機購入。大綱別表に示される航空自衛隊の戦闘機保有水準は約三百機。これを維持するため、F2大量調達とあわせ現有のF15戦闘機の近代化改修を行う。

              ◇

 これらの兵器体系は、着上陸侵攻の阻止や大がかりな対潜水艦戦といった在来型の防衛戦略を思い描いている。しかし極東ロシア軍の変化によって日本本土に着上陸する能力をもつ脅威は見当たらず、冷戦後は日本近海で行動する潜水艦も激減した。そんな時代に重戦車や大口径砲、軽空母と見違えるような大型艦はいらないだろう。
 大綱の骨格をなす基盤的防衛力構想は冷戦時代、ソ連脅威対抗論に立つ大幅な軍事力増強を抑え込み、必要最小限の防衛力にとどめる理論的な支柱だった。だが冷戦後、防衛力の数量水準を定める大綱別表がかえって、在来型兵器を温存する論拠となっている。
 財政は火の車。「あれもこれも」の買い物リストには優先順位をつけ、削減しなければならない。そのための防衛戦略の基本は冷戦発想からの脱却。米中両国をはじめ近隣諸国との協調を大事にし、巨額の防衛費がいらない安全保障戦略を選択するべきだ。その際、TMD開発段階への踏み込みには慎重でありたい。台湾海峡や朝鮮半島の情勢を波立たせ、軍拡エスカレーションの引き金になる懸念があるからだ。


新しい中期防衛力整備計画 昨年12月の安保会議と閣議で決定した2001〜2005年度の5カ年計画。期間中の防衛関係費総額の上限は約25兆1600億円。このうち各年度の予算は約25兆100億円の枠内で決める。ほかに、予見しにくいことに対応する予備費的な1500億円程度の枠も。財政構造改革のかけ声で97年に見直された現中期防(1996〜2000年度)の約24兆2300億円に比べて3.8%増。「合理化・効率化・コンパクト化」を掲げているのに、以前の水準に逆戻りしている。日本は米国に次ぐ世界2、3位の軍事費大国であり続ける。




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