投稿者 SP' 日時 2001 年 2 月 12 日 08:55:55:
回答先: 悪の世の写し鏡 投稿者 SP' 日時 2001 年 1 月 18 日 09:23:50:
30's NEWS CHAT
最初は悪い冗談だと思った。
四月九日の衆院予算委員会で、元オウム真理教顧問弁護士・青山吉伸が、「強制捜査前日(三月二十一日)東京総本部で緊急記者会見を行なった際、あるフリーのジャーナリストから翌日、強制捜査が入ると教えられた」と供述していることが取り上げられた。このジャーナリストが誰かはとりあえず問題ではないので、仮にS・M氏としておこう。
その翌々日、十一日の午後、『日刊ゲンダイ』から電話があった。
「報道ではフリーのジャーナリストとなっているが、実際にはもう一人、雑誌の編集者からも捜査情報を聞いたと青山が供述している。その編集者というのは、おたくのH氏らしいが本当か」という取材だった。もちろんまったく身に覚えのないことではあるが、正直ビビッた。
幸いなことに、当時の取材記録がノンフィクション・ライター大泉実成氏の『麻原彰晃を信じた人々』(洋泉社)の中に収められているので、それを元に事実関係を調べてみると、問題の記者会見は大泉氏一人が出席し、H編集者は同席していないことが確認できた。その場にいないのだから、捜査情報を教えられるはずもない(第一、本誌はその時点で翌日の強制捜査を知らなかった)。『日刊ゲンダイ』にはまったくの事実無根と説明し、その話は一件落着した。
その後で、なぜこんな途方もない話になったのか調べてみると、どうやら青山と検事との面談調書(検面調書)に、S・M氏と並んでH編集者の名前が出ているらしい。そこから、「S・M氏とH編集者が捜査情報を教えている」と、話がねじ曲がっていったのだ。
H編集者は昨年一月、本誌が島田裕巳氏に依頼した第7サティアンの取材に同行しており、また三月十六日、大泉実成氏とともに、「假谷清志さん拉致事件」について青山にインタビューしてもいる。そんなところから彼の記憶に残っていて、検事との話の中で名前が出たのだろう。
だが、たまたま問題の記者会見に出ていなかったからよかったものの、そうでなければH編集者の“冤罪”を証明するのは難しい。レッテルを貼られてしまってからでは、取り返しはつかない。つくづく、マスコミというのは怖いところだと思い知った。
TBSと大塚万吉
次は、悪い冗談では済まなかった。
四月二十一日夜、どうやって調べたのか、H編集者の自宅にTBSの政治部記者から電話がかかってきた。「オウム報道を検証する番組をつくるために取材をしているが、青山の供述にあなたの名前が出ているようなので事情を聞きたい」と言う。それもご丁寧に、「会社に電話したのでは迷惑がかかると思い、自宅に電話した」と言い添えたという。
なるほどね。TBSがやっている「オウム報道の検証」っていうのは、結局、こういうことなのか。
先月号のこの欄でも書いたが、TBSは今、致命的な爆弾を抱えている。三月十六日前後に強制捜査の日程をオウムに教え、それが地下鉄サリン事件を誘発させたのではないか、という疑惑だ。
「だから今、TBSは捜査情報を教えていたのはウチだけじゃないという材料を集めるのに躍起になっている」と、ある関係者は言う。
いったい、この頽廃をどう表現したらいいのだろう。
TBSのオウム報道を検証していくと、現在、競売妨害容疑で逮捕拘禁中の、大塚万吉という不思議な人物に行き当たる。マスコミの間では「裏社会の広報担当」として名高い人物だ。
この大塚万吉をオウムが頼り、一時期、上祐や青山など幹部のテレビ出演のほとんどを仕切っていたことは、一般にはあまり知られていない。だが、オウムの東京総本部を家宅捜索した捜査関係者は、各テレビ局から送られてくる出演依頼書の紹介者欄のほとんどに大塚万吉の名前が書かれているのを見て、仰天したという。
「TBSの元プロデューサーである吉永春子(報道番組の制作プロダクション『現代センター』社長)は大塚万吉と親しく、そのルートやロシア取材での接触などを通じて、TBSは地下鉄サリン事件以前から早川紀代秀などオウム幹部と交渉があった。そこから、村井刺殺事件の時の徐裕行の追跡撮影や逮捕直前の早川独占インタビュー、オウム裏部隊の潜入取材など、他のメディアがまったく手の出なかった“スクープ”が生まれた」
TBS問題を取材する関係者が一様に口にする疑惑だ。それが報じられないのは、どこもオウム幹部の出演依頼のために大塚事務所に日参しており、その過去が暴かれると困るからだという(これはこれで、ずいぶんヒドイ話だ)。だとすればTBSは、大塚万吉との関係をこそ、自ら「検証」すべきではないのか。おそらくここに、TBSのもっとも深い闇があるのだから。
僕たちの好きな陰謀
もちろん、オウム報道でTBSだけが悪いわけではない。こんなヒドイ話は、残念ながらこの世界にいくらでも転がっている。
例えば、『新潮45』で連載が再開された謎のルポライター一橋文哉の「オウム帝国の正体・完結編」。この中で使われている「ロシア内務省が作成した『オウム教団活動関連調査報告書』」というのは、月刊『現代』四月号掲載の田嶋信「オウム『毒ガス人体実験』を追う」からのパクリじゃないのか(この記事で公表された部分以外、使われていないのはなぜだ?)。
それ以外にも、この連載には、フィクションとしか思えない部分が多すぎる。第一、それ以前の連載で、「坂本弁護士一家を殺害したのはオウムに依頼された暴力団員だ」と力説していた件はどうなったのか。坂本事件に関わった岡崎一明や中川智正の法廷での供述は、すべてデタラメだというのか。
結局、こうやっていつも、新たな陰謀史観が生まれてくる。われわれの暮らす大衆社会が、エンタテイメントとして、そうした陰謀論を必要としているからだ。
ベルリンの壁が崩壊し、その余波を受けて戦後日本を形づくってきた五五年体制が溶解し、世界を解釈する枠組みが消滅してしまった現在、事実と妄想の境界は限りなくゼロに近づいている。やがて到来する二一世紀は、インターネットを経由して、事実と噂と妄想と陰謀史観が等価に飛び交う、巨大な情報のワンダーランドになるだろう。
そしてそれこそが、オウムという奇形を豊かに育んだ土壌なのだ。