投稿者 1/22 sankei 日時 2001 年 1 月 22 日 11:34:03:
ブッシュ政権発足 対等な日米同盟強調 一国平和主義“脱皮”促す
20日、無事就任式を終え、クリントン氏(後方)が見守る中、父親のブッシ
ュ元大統領(左)と抱き合うブッシュ新大統領(AP)
【ワシントン21日=古森義久】米国のブッシュ新政権の登場は日本
に対し対米関係の再構築、とくに日米同盟の新たな定義づけのための
戦後でも最重要な機会を生むこととなった。ブッシュ新政権のアジア
政策担当者たちは日本が対外自主性や自国アイデンティティーを強化
することをも歓迎するとし、日本にとっては期せずして戦後の特殊国
家のカラを破るかどうかの試練まで迫られるという展望も明確となっ
てきた。
ブッシュ新政権の対外政策主要メンバーはすでに米国の対外戦略で
同盟関係を最優先の基盤とし、アジアについては「戦略的パートナ
ー」という対中認識を放棄して、対日同盟を最大の柱にするという方
針を明示してきた。新政権の国防副長官に指名されるポール・ウォル
フォウィッツ氏が十八日に米国と日本との「民主主義の均質性」をあ
げ、日米安保関係の重要性を強調したように、ブッシュ政権の対日関
係重視、とくに安保のきずなの重視姿勢は鮮明となっている。
新政権のこの姿勢は九三年に登場したクリントン政権の対日姿勢と
は対照的だといえる。日本に対し「経済」だけを政策標語に掲げ、管
理貿易の旗印の下に市場開放を迫ってきたクリントン政権は「米国経
済の回復が優先課題であり、国際情勢も安全保障への関心を弱める材
料が多かったとはいえ、日本に対しては安保がらみの重要な課題を軽
視しすぎた」(マイク・モチヅキ・ジョージワシントン大学教授)とさ
れる。
ブッシュ新政権はこれに対し人材の登用からみても冒頭から日本重
視の構えを打ち出した。新政権のこれまでのアジア政策関連の任命で
は日本専門家や知日派がずらりと並び、「対日関連の人事としては歴
代政権でも最強の布陣」(ビル・ブリアー戦略国際研究センター日本部
長)と評される。一方、従来の新政権では必ず当初から出る中国専門家
の名がまだまったく出ず、新政権の中国離れの傾向を早くも暗示して
いる。
ブッシュ政権の日本重視はもちろんそのスタンスが米国の国益に合
致するという政治計算からだが、その背後にはリチャード・アーミテ
ージ元国防次官補を中心とする米側安保専門家が対日政策提言書(アー
ミテージ報告)で明記したように、アジアがまだ潜在的に非常に危険な
状態にあり、その安定や抑止には安保上の同盟に基づく日米二国間関
係の強化が最重要だとする認識が存在する。
しかしそのための日米同盟の強化では新政権は日本側が戦後の安保
面での固有の規制を超えることを期待するという方針を明確にしてい
る。アーミテージ報告は日本に集団的自衛権の行使を促し、新政権が
「日本の集団的自衛権禁止がこれからの日米安保協力では阻害要因に
なるとの見解を持つことも確実」(ジム・アワー元国防総省日本部長)
とされる。
米国政府が日本に対し安保政策の一環として日本の集団的自衛権行
使や憲法改正までも歓迎するという姿勢を示したことは戦後の日米関
係史でも例がない。クリントン政権も含めて従来の政権はむしろ日本
のこうした動きを日本側の超ナショナリズムや復古主義と関連づけ、
警戒する向きがほとんどだった。
ブッシュ新政権はこの点、歴史的ともいえる政策転換をするわけだ
が、その根拠としては日本に対し「成熟した民主主義国家として、よ
り対等な同盟関係を再構築する」(アーミテージ報告)という対日信頼
を力説することとなる。この「信頼」のあかしとしては日本が対米協
調の基本を保つ限り、対外的に自主性を高め、国家や民族へのアイデ
ンティティーを強めても米側に支障はない、という新規範が表明され
ている。
アワー氏は新政権のこの政策を「対日同盟を対英同盟のように強化
し、日本をアジアでの真の戦略的パートナーにする意向」と説明す
る。こうした政策の提示は日本にとって対米同盟の再構築、ひいては
対外的な安全保障政策全般の再構築のための戦後でも最重要な機会と
なるわけである。だが日本がこの機会に前向きに対応するには、同盟
の最大前提となる基本的な価値観の共有の再確認とともに、国内政治
で障壁の高い軍事関連の新政策までが必要となってくる。
ブッシュ新政権の安保政策の特徴の一つは「経済や環境という要因
を含めた総合的安保という概念を遠のけ、純粋な軍事による平和保持
の効果を再重視すること」(ブルース・ワインロッド元国防次官補代
理)だとされ、アジアでは日米共同の地域的ミサイル防衛の構築を優先
課題とする。アーミテージ報告は日本が日米共同の軍事関連の情報収
集を強化することを促す。
日本が米国新政権のこうした期待にどう応じるかは米側では「日本
にとって戦後の極端な軍事忌避の一国平和主義のカラを破れるか否か
という安保政策での歴史的な分岐点」(アワー氏)として注視されてい
る。