投稿者 東京新聞 日時 2001 年 1 月 13 日 11:19:07:
21世紀は軍事・宇宙開発で3極化進む 米国防省報告書
「平和利用」を強調 中国 軍事転用の可能性も
米国防総省が十日に発表した「大量破壊兵器拡散の脅威と対応」の中で、
中国の弾道ミサイルの増強や核の多弾頭化に警戒感を表明するとともに、
ロシアに対しては、戦術核への依存度が増大していると懸念を示した。中
国は十日に有人衛星の打ち上げも可能となるロケット実験に成功、宇宙開
発でも米ロと並びつつある。二十一世紀は軍事・宇宙開発面で、米ロ中の
三極化が一段と進みそうだ。
【北京11日長坂誠】中国外務省の朱邦造報道局長は十一日、記者会見で、
米国防総省が、中国を大量破壊兵器やミサイル関連技術を拡散させている
などと非難した点について「全く根拠がなく、無責任だ」と反論。さらに
「世界最大の武器商人がだれであるかはみんな知っている」と皮肉った。
しかし拡散問題はともかく、中国が米ロに対抗すべく、核兵器やミサイ
ルの性能向上のため、関連技術の開発、実験に躍起になっているのは公然
の事実だ。
現状で戦略兵器の質、量とも米ロ両国に大きく遅れをとる中国は、「核
の先制不使用」を宣言するなど防御戦略を基本とする。しかし総兵力を五
十万人削減する一方で、国防費は十二年連続で二ケタの増加率。通常兵器
の近代化を図るとともに、戦略兵器の拡充を図っている。
大陸間弾道弾(ICBM)は、米本土を射程内に収める移動式で複数弾
頭の搭載が可能な「東風31号」の発射実験を二〇〇〇年末までに三回実
施。さらに高性能の「東風41号」の開発も進めているとされる。また潜
水艦発射の弾道ミサイル(SLBM)では中国沿岸から米本土を射程圏と
する「巨浪2」搭載の新型原潜を開発中で、未確認だが発射実験に成功し
たとの一部報道もあった。
宇宙開発でも、江沢民国家主席が「二十一世紀の宇宙大国」との目標を
掲げ、国家プロジェクトとして取り組んでいる。通信や気象、宇宙探査な
ど平和利用がうたい文句。しかし十日、打ち上げに成功した有人飛行用の
宇宙船「神船2号」搭載の運搬ロケット「長征2号F」は、推進力を大幅
に増強。昨年十二月には測位衛星も打ち上げており、ミサイルの射程や命
中精度の向上など軍事利用への転用が可能。人工衛星攻撃用の兵器開発も
進行中とされる。
米本土ミサイル防衛(NMD)は、中国のこうした「積極防衛」力の増
強努力を無にしかねない。ブッシュ政権の誕生を前に十日、米中関係につ
いて記者会見した中国現代国際関係研究所の楚樹竜教授は「NMDが中国
を対象としない保証はない。また台湾を含むことになれば内政干渉で、断
じて許せない」などと中国政府の見解をあらためて強調、米側をけん制し
た。
ロシア 戦術核へ依存強める
【モスクワ11日青木睦】ロシアがバルト海沿いの飛び地・カリーニング
ラードに戦術核を移動した、と米国が指摘したのに対し、ロシアのプーチ
ン大統領は「たわごとだ」と一蹴(いっしゅう)した。その真偽は別にし
て、こうした「疑惑」がふりかかる背景には、自国の安全保障を核兵器、
とりわけ戦術核に依存を強めるロシアの実情がある。
プーチン政権が昨春まとめた新軍事ドクトリンは、核戦争を含む世界的
な大規模戦争の可能性は減ったものの、局地戦争の脅威は高まっていると
の現状認識を示した。そのうえで、ロシアやその同盟国が大量破壊兵器に
よる武力侵攻を受けた場合のほか、通常兵器による大規模な侵略でロシア
の安全保障が危機的な状況に陥った場合は、核兵器を使用する権利を保留
する、とした。
これは、旧ドクトリンで明文化をはばかってきた核の先制使用を明確に
したばかりでなく、地域戦でも戦術核の使用があり得るとの姿勢を打ち出
したものだ。
一九九四年末に始まった「第一次チェチェン戦争」と、泥沼化した今の
「第二次チェチェン戦争」で、ロシア軍は通常兵力のぜい弱ぶりをさらけ
だした。財政難にあえぎ、国防費の七割が人件費に費やされ、新兵器の開
発、装備更新がままならない。
プーチン政権は第三次戦略兵器削減条約(START3)問題で、戦略
核の保有を米ロ双方が千五百発未満まで減らす、という思い切った核軍縮
を提唱、ブッシュ米次期政権に軍縮攻勢を仕掛ける構えだ。半面、貧弱な
通常兵力を補うため、戦術核を重視する防衛政策へ傾斜している。