投稿者 11/4 毎日 日時 2000 年 11 月 05 日 11:37:53:
<特報・劣化ウラン弾>コソボ症候群究明へ UNEP現地調査(毎日新聞)
【ブリュッセル4日森忠彦】昨年の北大西洋条約機構(NATO)軍のユーゴスラビア空爆でコソボ自治州を中心に使われた「劣化ウラン弾」による環境汚染への懸念が広
がり、国連環境計画(UNEP)の調査団が6日から2週間、初の現地調査を実施する。空爆後、コソボ住民や治安部隊兵士に「バルカン症候群」と呼ばれる疾患が報告さ
れる一方、コソボに展開する国際治安部隊(KFOR)の医療担当者は劣化ウラン弾の「危険性」を現地の駐屯部隊や国連機関に通告しており、NATOの否定にもかかわ
らず人体への悪影響の疑惑は深まる一方だ。
UNEPバルカン対策局(ジュネーブ)によると、今回の劣化ウラン弾調査団(団長・ハービスト前フィンランド環境相)はUNEP、国際原子力機関(IAEA)のほか、スウェー
デンやスイス、イタリアなどから参加する専門家約12人で構成。NATOが今年夏、初めてUNEPに具体的な劣化ウラン弾の攻撃地点112カ所を示したことを受け、このう
ちの5カ所で放射能や土壌、水質の調査を行う。
国連によると、NATOが昨年3月24日〜6月10日に行ったユーゴ空爆で、ユーゴ軍の戦車や装甲車部隊に対して米軍のA10攻撃機が3万1000発の劣化ウラン弾を
使用した。その後KFORに所属する米軍が中心となって劣化ウラン弾の回収作業を行っており、NATOは同弾が人体などに及ぼす影響については否定してきた。
しかし、KFORの米軍医は「重金属で微量の放射能のある劣化ウラン弾の破片の飛沫を長い間吸収すれば、人体への障害が出ることが考えられる」と言明。また、「米
軍では劣化ウラン弾使用の痕跡がある所では防御用スーツの着用を指示している。劣化ウラン弾に関する情報は他国のKFOR参加部隊や住民に国連などを通じて伝え
ている」と語り、注意を喚起していることを認めた。
しかし、劣化ウラン弾発射が集中したコソボ自治州の西・南西部では回収は一部にとどまり、住民への通告はほとんどなされていない。住民の中には、湾岸戦争後の
兵士や住民の症状と同じく、脱力感などの慢性症状を訴えるケースも相次いでいる。
またコソボに長期間駐在するKFOR兵士の中でも原因不明の体調不良を訴えるケースが出ており、州北部で活動する約1000人のベルギー兵の2割が「バルカン症候
群」を訴え、同国国防省は慢性疾患に対して保険の適用を決めた。
劣化ウラン弾は貫通時に燃焼した際にちりとなって拡散。化学的毒性や放射能が人体や環境に影響することが専門家によって指摘されている。健康被害との因果関係
が判明するまでには数年の時間がかかるとみられるが、コソボでの具体的な健康被害はまだ十分把握されていない。
劣化ウラン弾
核兵器の製造など天然ウランの濃縮処理過程で発生する核廃棄物である劣化ウランを弾頭に使用した砲弾。鉛よりも比重が重く、貫通性が高いため対戦車砲などに使
われ、湾岸戦争(1991年)で米軍がイラク軍戦車隊に対して大量使用した。人体への放射能被害などの危険性を指摘する専門家もおり、米兵の一部に発現した疾患
「湾岸戦争症候群」との関連も取りざたされた。
95年12月から96年1月にかけ在日米軍機が沖縄の無人島・鳥島での訓練中に劣化ウラン弾1520発を誤射する事件が発生。撤去要求運動などを受け、米軍は96
年春、沖縄の基地に配備・貯蔵していた劣化ウラン弾をグアム島の基地に移送した。