投稿者 FP親衛隊國家保安本部 日時 2000 年 10 月 14 日 17:10:49:
イスラエル〜流血がタカ派首相を呼ぶ
The Politics of Fear
聖地での衝突事件で不安が再燃
ネタニヤフ前首相の復帰を求める機運が広がる
ダニエル・クレードマン(エルサレム支局長)
ダン・エフロン
他の場所であれば、「政治的パフォーマンス」ですんだかもしれない。だが、場所は一触即発の聖地エルサレム、政治家はイスラエルの右派野党リクードのアリエル・シャロン党首だった。
シャロンは9月28日、エルサレムにあるイスラム教の聖地「神殿の丘」を訪問した。ここはかつてエルサレム神殿があったユダヤ教の聖地でもあるが、イスラム教徒にとっては預言者ムハンマドが天に召された聖地。シャロンの訪問は、その地への冒涜だった。
事件は翌日に起きた。金曜礼拝を終えたパレスチナ人の若者たちが、丘に接する「嘆きの壁」で礼拝を行うユダヤ人に投石を開始。これにイスラエル治安部隊が発砲し、大規模な衝突に発展したのだ。
週末までに、エルサレムとヨルダン川西岸などで十数人のパレスチナ人が死亡、双方に300人以上の負傷者が出た。中東和平交渉進展への望みは、またしても流血の不安へと変わった。
党内抗争が衝突の発端
エルサレムでは1年以上前から大規模な衝突は途絶えていたが、それが「神殿の丘」で再発したことには少しも不思議はない。7月の米キャンプデービッドでの首脳会談後も、「神殿の丘」に対する主権をめぐる激しい対立はまったく解消していないからだ。
ワシントンにいる和平交渉担当者たちは先週、「神殿の丘」問題を全面的に棚上げにして合意に向けての協議を続けた。
だが、時間切れは迫っている。イスラエルのエフード・バラク政権は、今月後半の議会再開とともに崩壊する可能性もある。連立政権が存続しても、来年1月にビル・クリントン米大統領の任期が終われば、しばらくは頼れる仲介者がいない事態になりかねない。
それに加えて先週の衝突事件によって、和平反対派の動き次第でいかに容易に混乱が生じうるかが浮き彫りにされた。
先週の事件には、イスラエル内の権力争いもからんでいた。発端は、イスラエルの検察当局がベニヤミン・ネタニヤフ前首相の収賄容疑などを不起訴とし、政界復帰への道を開いたことにあった。
ネタニヤフが政界復帰をにおわすと、リクード内に新たな抗争の火が広がった。ネタニヤフの後任党首であるシャロンは、すぐに注目集めに動いた。それが、エルサレムの守り手であることをアピールする「神殿の丘」訪問だった。
だが衝突事件を招いたことで、風向きは逆にネタニヤフに有利になるかもしれない。ネタニヤフは、国民の不安を逆手に取ることにたけているからだ。
ネタニヤフは昨年の選挙で敗れたときから復帰を画策していた、との見方は多い。ネタニヤフに近い筋が本誌に語ったところによると、彼はバラクをイスラエルで最も尊敬されない人物に仕立てようとしている。「バラクは最初の交渉ですべて手の内を明かしてしまう」と語ってきたネタニヤフは、パレスチナ側との交渉でバラクは譲歩しすぎだと非難している。
今のところ、世論はネタニヤフ寄りに動いている。現地紙が行った最新の世論調査によると、支持率はネタニヤフの47%に対しバラクは43%。リクード内の支持率でも、シャロンをはじめとするライバルを圧倒している。
「復帰を決断すれば、リクードは彼のものだ」と、リクードのヨッシ・オルメルトは言う。
先週の衝突事件は、和平交渉の決裂とネタニヤフの首相復帰をもたらすことになるかもしれない。だが、それを悟ったイスラエルとパレスチナの双方が、武器を捨てて再び妥協による決着をめざすという可能性も残されている。
ニューズウィーク日本版
2000年10月11日号 P.35