日債銀・本間社長の自殺がもたらすもの 日経BP

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投稿者 倉田佳典 日時 2000 年 10 月 03 日 11:53:31:

日債銀・本間社長の自殺がもたらすもの

00/10/03

 日本債券信用銀行がソフトバンクを中心とする企業グループ(オリックスと東京海上火災保険が参加)に正式に譲渡されてからわずか半月後の9月20日午前、新社長に就任したばかりの本間忠世氏が、出張中の大阪市内のホテルで死亡しているのが発見された。自殺だった。

 本間氏は5通の遺書を残していた。2通は家族あて。そして残りの3通の中には、ソフトバンクの孫正義社長にあてたものもあった。そこには「期待されていたのにお役に立てず申し訳ございません」、こうしたためられていたという。

 何が本間氏に死を選ばせたのか。その理由は窺い知れない。だが、日本銀行のエリートとして理事にまで上り詰めた人の死である。新日債銀の社長に就任したばかりということを考え併せると、本間氏が相当なプレッシャーの中に置かれていた、とは容易に想像できる。

 「今から思えば、最初の取締役会が本間氏にはショックだったのかもしれない」――。

 9月4日、預金保険機構から正式に譲渡を受けた日債銀は東京・九段の本店で、初の取締役会を開いた。出席者は、本間氏ともう1人の常勤役員である小寺義信専務、それに11人の社外取締役──孫氏、宮内義彦オリックス会長、樋口公啓・東京海上火災保険社長と新たに社外取締役に名を連ねた常盤文克・花王特別顧問、成毛真インスパイア社長(マイクロソフト前社長)、池尾和人・慶応義塾大学教授、笠井和彦ソフトバンク取締役、ダン・クエール米国元副大統領らである。

孫氏を異常に気にしていた本間社長

 午後から始まった取締役会の議論は白熱した。来年1月4日から使い始める新行名「あおぞら銀行」の英文名の冒頭に冠詞の「The」を付ける件などで、本間氏など経営執行部が示した案件が否決された。11人の社外取締役全員が発言を求め、執行部に対する批判的な意見も相次ぐなど、社外取締役が執行部にどんどん注文を付ける米国企業の取締役会さながらの風景が展開された。

 「自分自身は、これぞ『グローバルスタンダード』と感心したが、日銀というボトムアップの組織で育った本間氏は違う受け止め方をしたかもしれない」。出席者の1人はこう述懐する。

 一方で、本間氏の孫氏に対する配慮は尋常ならざるものがあったようだ。本間氏の相談を頻繁に受けていたある社外取締役は、「本間氏はいつも、『これについては孫さんはどう思うだろうか』と、過剰にも思えるほど孫さんの意向を気にしていた」と証言する。孫氏以外にも10人の論客を抱えることになった本間氏が、神経をすり減らしたことは想像に難くない。

 そもそも、孫氏に請われ日債銀の社長を引き受けたそのこと自体が本間氏にとって「針の筵」だった。

 経営悪化から株式市場の標的にされていた日債銀が、総額約2900億円の増資を実施して一時的に難を逃れたのは1997年6月のことである。生命保険会社など、他の金融機関に対し、悪名高き「奉加帳方式」によって増資引き受けを迫ったのは、当時の大蔵省官房審議官(銀行局担当)の中井省氏と本間氏その人だった。

 本間氏が、「新日債銀を再建するのが、『奉加帳』に関与した者の責任」と考えていたかどうかは別にして、日債銀の新社長に内定した今年2月以降、金融界で「よく社長を引き受けられるものだ」との声が上がっていたのは事実だ。そうした声を本間氏が知らなかったわけがない。

 その意味で本間氏の死は、自身が引きずる「旧体制(アンシャンレジーム)と、「新体制(グローバルスタンダード)」の軋轢が生んだ悲劇と言えなくもない。

 ともあれ、本間氏の後継社長である。最有力候補は、日債銀の社外取締役の1人でソフトバンク取締役でもある笠井氏だ。富士銀行の元副頭取で安田信託銀行の前会長でもある笠井氏が、後継社長に適任であることは衆目の一致するところ。実際、孫氏、宮内氏、樋口氏の3氏は、本間氏の死を受けてすぐに、笠井氏に正式に社長就任を打診している。

 笠井氏自身はこの要請に対して、強く固辞するとともに、「都銀の専務クラスをスカウトした方が良い」との考えを示した。しかし、「それには時間がない。笠井氏に就任してもらう」(樋口氏)というのが、関係者の強い意向だ。笠井氏も早晩、引き受けざるを得ない可能性が高い。

 ただその場合気になるのは、ソフトバンクとの関係である。笠井氏の就任は、「ソフトバンクの取締役を辞めてもらう」(樋口氏)ことが条件になる。そして、日債銀社長に就任した暁には、笠井氏がソフトバンク出身である以上、「機関銀行」化への懸念を払拭するうえでも、これまで以上にソフトバンクと距離を置く必要に迫られる。

 仮に笠井氏以外の人に白羽の矢が立ったとしても事情は変わるまい。それでなくとも永田町周辺では、本間氏の大阪での死を、孫氏とある韓国系金融機関の関係に絡めて噂する向きもある。そうした噂が出る今、あえて「火中の栗」を拾う人は、新日債銀の経営に強い独立性を求めるだろう。

 そしてこのことは、ソフトバンク・グループの戦略に対して微妙な影響をもたらす。

ビジネスモデルは完成したが…

 孫氏が日債銀買収に意欲を燃やしたのはそもそも、ソフトバンク・グループが進めるベンチャー投資の一翼を担わせるためだった。新興ネット企業を中心とするベンチャー企業投資と、そうした企業の株式公開による付加価値で時価総額を極大化してきたのがソフトバンクである。

 孫氏はそのために、右腕である北尾吉孝ソフトバンク・ファイナンス社長に投資事業を任せ、ベンチャー企業の株式公開の場としてナスダック・ジャパンを開設した。直接金融の舞台を整えた孫氏にとって、足りなかったのがベンチャー企業群に運転資金を提供する間接金融機能である。それが日債銀買収の動機であり、その実現をもって孫氏のビジネスモデルはほぼ完成した。

 ところが、皮肉なことに最近、ソフトバンクグループ内部にはある種の「遠心力」が働き始めている。象徴的なのが、孫氏と北尾氏の関係。今年春ごろから孫氏と北尾氏の間には微妙なすきま風が吹き始めたと言われる。もともと日債銀買収には消極的と言われた北尾氏がソフトバンクの常務を退任してソフトバンク・ファイナンスの社長に専念し始めた5月ごろから、株式市場には「北尾氏がソフトバンクからの独立志向を強めている」との見方が強く流れ始めた。

 加えて、北尾氏とナスダック・ジャパンの佐伯達之社長との関係の悪さは知る人ぞ知る。孫氏が「ソフトバンクのための市場」という批判をかわすために、ナスダック・ジャパンの運営に物申さなくなっている半面、北尾氏は同市場に上場したグループ会社株の取引低迷に業を煮やして、「他の市場への上場を検討する」と発言するなど、揺さぶりを強めている。そのため佐伯氏は、当初は予想もしなかった孤軍奮闘を強いられている。

 こうした状況に加えて、後継社長のもとで、日債銀までもが「ソフトバンク離れ」の姿勢を強めたとしたら…。

 本間氏の予期せぬ死が、ソフトバンクグループに働く「遠心力」をより一層強めるきっかけになる。こう考 えるのは、穿ちすぎだろうか。(田村 俊一、小栗 太)




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