投稿者 倉田佳典 日時 2000 年 9 月 12 日 14:46:48:
孫正義が語る日債銀買収の裏側
00/09/12
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ソフトバンク、オリックス、東京海上火災保険を中心とする企業連合に譲渡され、9月4日に国有から晴れて民営銀行として再スタートした日本債券信用銀行(2001年1月からはあおぞら銀行)。そごう問題で譲渡後に劣化した債権を簿価で買い取る「瑕疵担保」条項が国会などで問題になり、最終決着は予定より1カ月ずれ込んだ。なぜ瑕疵担保特約にこだわったのか、そもそも銀行買収の狙いは…。ソフトバンクの孫正義社長が重い口を開いた。
腐ったリンゴは絶対に返品する
瑕疵担保の問題から話しましょうか。よく、瑕疵担保特約が発動されて、国が売却後に減価した債権を買い戻すと、国民負担が増えるという議論がありますが、これは全くの筋違いです。国有銀行になったということは、日債銀の不良資産はすべてその時点で、国民の損失となったということです。これが議論の大前提です。
そもそも「瑕疵担保」なんて難しい言葉を使うからややこしくなる。倒産したリンゴ屋さんに例えればいい。
(国有銀行の売却は)中身を見ないでリンゴ(日債銀の資産)を箱ごと買いなさいという話なんですよ。一つひとつのリンゴが腐っているかどうかを議論すると時間がかかる。だからふたをしたまま買うわけです。で、ふたを開けると、案の定、腐ったリンゴ(不良資産)が入っている。
我々も貸付先のリスト、3000ぐらいあるうちの200ぐらいは見ています。そこには要注意、破綻懸念先、要管理先、といったいわば国が勝手に付けたラベルが張ってある。本来は「不適」で整理回収機構(RCC)行きなのに、メーンバンクの支援ありとか、親会社の支援ありとか、もっともらしい理由で「適」資産になっている。
つまり、ちょっと腐っているけれど、ジュース屋さんなりジャム屋さんが引き取ってくれるという「うたい文句」が付いている。
ところが、ジュース屋さんが「腐っているから引き取らない」と言い出したらどうします? 買い手は返品しますよね。箱ごと全部返したいところだけど、せめて腐っている分の代金を返してもらうのは当然でしょう。しかも返品期限は3年。それ以降は100%こちらのリスクなんですよ。
さらに、個々のリンゴについて20%腐っていたら返品に応じるけれど、19%以下だったら買ったあなたが泣きなさい、と。
はっきり言っておきます。腐ったもの(2割以上減価した資産)があれば我々は絶対に返品(預金保険機構に買い戻し請求)する。返品するとそのリンゴ(この場合融資先企業)は確実に生ごみ処理(破綻処理)されるでしょうね。二束三文だけれどジュース工場に売れるとメーンバンクが考えて代わりに引き取るということはあり得るでしょうが。
瑕疵担保を使うのは慎重に、という声が聞こえてきますが、それはおかしい。いざ返品に行ったら「お前返すつもりか」とにらまれるんだろうね。「返品しに来た人がいる。とんでもない。仲間はずれにしよう」と。これでは、法治国家ではありません。契約順守は最低のルールでしょう。
「非国民」なんて悲し過ぎる
では、なぜそういうリスクを背負ってまで買うのか。ソフトバンクはもともと銀行業務もやろうと思っていました。金融サービスはインターネットと最も相性のいいものの1つです。既にコンピューターシステムもある、社員もいる、ノウハウもある。それなら、ゼロから始める必要はない。
今回の買収、万々歳で喜んでいるとか、しめた、一方的に得したなんて全然思っていませんよ。おいしい話だったらプロの人が見過ごすはずはないでしょう。でもほかに手を挙げた日本企業はなかった。僕自身、日本で生まれて日本で育って、やっと日本国籍を取ったのに、瑕疵担保特約を行使して非国民なんて言われたら悲し過ぎます。
実際はね、ギリギリまで迷いました。真剣に数百億円違約金を払っても破談にしようかとさえ思ったんです。契約が骨抜きにならないかと、相沢さん(英之・金融再生委員長)をはじめいろいろな人に聞いて回り、首相まで説明が行き渡り、与党も含め納得が得られたようなので、最終的に決断したんです。そもそも国が私企業の契約内容を変更させるのは、米国では憲法違反だそうですよ。
世間からいろいろ心配されている「(新銀行は)ソフトバンクの機関銀行化する」といったことが起きないように、最大限の努力をしなければと思っています。
その1つが特別監査委員会です。融資の審査だとか、あるいはその他、何事においても、コンプライアンス(法令順守)がきちっと実行されているか常にチェックします。少なくともソフトバンクも、オリックスも東京海上も委員会メンバーには入りません。
さらに新銀行は社外役員が全体の過半数を占めています。各役員は自らのプライドにかけても、もし何か変なことが起きればすぐに阻止しようとするでしょう。そういう仕組みで、きちっとお手盛りを防いでいきます。
世間から警鐘を鳴らされるのはいいことだと最近、思い始めたんですよ。当人には耳が痛い話でも社会システムとしては必要だと。だんだん人間ができてきたんです、僕も。
明治維新の時、岩崎弥太郎は坂本龍馬が遺した海援隊の船を借金付きで土佐藩から買って三菱を起こしました。ところが戦後、ある程度以上の規模の銀行が、新たに発足したでしょうか。新規参入はなかったんです。
その意味では、(日債銀買収は)やはり100年に1回のチャンスだったと思っています。(談)