Tweet |
無断全文引用
MSNニュース&ジャーナルのウエブサイトには、ほかにも大量の記事が詰まっています。
http://news.jp.msn.com/
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
★神々の崩壊:世界を揺るがすヘッジファンド危機
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
田中 宇
【概要】 投資の神様と呼ばれたトレーダーと、ノーベル賞をとった経済学者、
それに金融当局OBが組んで作ったLTCMは、驚異的な高利益をあげ、世界中の
大銀行から資金をあまるほど集めた。だが「絶対儲かるはずのシステム」にも、
思わぬ落とし穴があった・・・
* * *
関係者以外の一般の人々にとってはほとんど無名のアメリカの金融会社の破綻
が、世界の金融システムを崩壊させようとしている。ニューヨーク近郊のコネ
チカット州グリニッジという町にあるロングターム・キャピタル・マネジメン
ト(LTCM)という会社である。
LTCMは、従業員170人ほどの小さな会社だが、世界の金融システムにとっては、
扇の要のような、目立たないが重要な存在であった。そして、その重要さが世
の中に認識されたのは、9月下旬にLTCMが倒産の危機に陥ってからのことだっ
た。
LTCMは、いわゆる「ヘッジファンド」の一つだ。だが、世界に3000社あるとい
われるヘッジファンドの中では、ずば抜けて運用成績が良かった。1994年に設
立されたLTCMは、95年には43%、96年には41%という、高率の運用配当をあげる
ことに成功した。
アメリカの国債金利が5%前後のときに、40%もの儲けが出せるというのだから、
驚異だ。そのため、LTCMは一般の人々には無名だったが、金融業界の人々では、
知らぬ者のないような存在だった。
LTCMの創設者は、大手金融機関であるソロモンブラザースの債券トレーダーと
して、ソロモンに巨額の利益をもたらし、副会長までのぼりつめたこともある
ジョン・メリウェザー氏。且曹_様」と呼ばれた彼が目をつけたのは、異
なる種類や満期の債券の利回り格差が、一時的に変動しても、その後ある程度
の時間がたてば、再び一定に戻る、という債券の市場原理を使って儲けるとい
うことだった。
債券とは金利付きの借用証書であるが、借り手が誰であるかによって、その利
率は違ってくる。アメリカや日本などの政府が借り手となる国債なら、予定通
り返済されないリスクが低いので、金利は比較的低くなる。
一方、企業が借り手となる社債は、倒産のリスクがあるので、金利がその分高
くないと貸し手が現れない。経営難の企業の社債(ジャンク債)は、優良企業の
社債より、金利が高くなる。アメリカでは、住宅ローンや自動車ローンの債権
を証券化した債券などもある。
これらすべての債券は、格付け機関によって格付けされ、それによって金利が
違ってくる。たとえば、5年ものの米国債は、「BB3」と格付けされた5年もの
ジャンク債より、2%ポイントだけ利回りが低いのが普通だ。どちらかの債券の
需給が一時的に変化すると、この利回り格差が広がったり、縮んだりするもの
の、数時間から数日のうちに、市場原理が働いて、元に戻っていく。
LTCMは、この米国債とジャンク債の利回り格差が広がったら、ジャンク債を買
い、米国債を空売りしておく。やがて利回り格差が縮み、ジャンク債は金利が
下がる半面、国債の金利が上昇する。債券は、金利が低いほど、多くの人々が
その債券をほしがっている(金利が低くても買い手がいる)、つまり価値が高い。
利回り格差が縮むと、LTCMが買ったジャンク債は値上がりし、売った米国債は
値下がりしたことになり、両面で儲けを出すことができる。
▼ノーベル賞学者が作った取引プログラム
とはいえ、1回ごとの利回り格差の拡大や縮小はわずかなもので、いわば水面
に立つさざなみだ。それを利益に変えるのは、さざなみを使って波力発電をす
るようなもの。膨大な量をこなさないと、十分な利益が出ない。つまり、
自動化が必要だ。
そのため、LTCMは、複雑なコンピュータープログラムを組み、無数の債券どう
しの利回り格差の変化を自動的に判断できるようにした。そして、そのプログ
ラムを組んだのは、スタンフォード大学教授だったマイロン・ショールズ氏と、
ハーバード大学教授だったロバート・マートン氏という、2人のノーベル賞受
賞者だった。
2人は、金融デリバティブの理論を解明し、デリバティブの評価基準や新商品
を作りやすくしたことを評価され、1997年にノーベル経済学賞を2人で受賞し
ている。デリバティブの生みの親ともいえる存在だ。そんな2人が作った
プログラムだから、完成度はピカイチだった。
さらに、経営者のメリウェザー氏は、1990年代初頭に、アメリカの中央銀行に
あたる連邦準備制度理事会(FRB)のナンバー2(副議長)をしていたデビッ
ド・マリンズ氏を、自社の首脳に据えた。
ウォール街の天才トレーダーが取引手法のアイデアを考え出し、ノーベル賞学
者がプログラムを作り、中央銀行の元首脳が加わって会社に箔をつける・・・。
LTCMは、これ以上の組み合わせはない、といえる「神々たち」の集団だった。
そして、会社設立の翌年に40%もの利益をあげたとなれば、関係者の注目を集
めないわけがない。
ウォール街は、巨額の利益をあげる人々を神格化してしまう場所である。アメ
リカからだけでなく、ヨーロッパやアジアからも、大手の金融機関が、投資し
たい、融資したい、といってやってきた。集めた資金を使い切れず、一部を返
還しなければならないほどだった。
▼ヘッジファンドとは
ヘッジファンドは、100人以下の個人や法人から資金を集めて運用する金融会
社である。無数の人々から金を集める銀行などに比べ、はるかに公共性が低い
ため、金融当局による監督や規制をほとんど受けていない。
ヘッジファンドには、大きく分けて2種類がある。一つは「マクロファンド」
と呼ばれるもの。下落しそうな通貨や、倒産しそうな会社の株を空売りしてお
き、予想が現実となるのを待つ(または予想が現実となるように仕掛ける)とい
う、クモが巣を張って獲物を待つような手法である。アジアを通貨危機に陥れ
た元凶と名指しされるのが、この手のファンドで、ジョージ・ソロス氏の
「クオンタム・ファンド」もこの部類だ。
一方、LTCMのようなヘッジファンドは「市場中立型」と呼ばれる。市場が変化
するのを待つのではなく、変化した後で再び元に戻る動きを利用する。マクロ
ファンドのように市場を一方向
に揺さぶったりしないため、中立型と呼ばれる。
LTCMの手法は「中立」で、しかも市場原理に基づく失敗のありえないやり方な
ので、金を貸しても安全だ、という考え方が、欧米の金融機関の間に広がった。
資本金50億ドル(約6500億円)のLTCMが、その20倍にあたる1000億ドル(約13兆円)
の資金を金融機関から借り、「絶対儲かる取引」を拡大した。
▼世界的信用縮小が始まった
だが、「絶対に沈まない」と言われたタイタニック号が、あえない最期を遂げ
たように、LTCMのビジネスにも、落とし穴が待ちうけていた。
昨年、アジアに始まった国債金融危機は、今年に入ってロシアへと飛び火し、
中南米市場、そして国際金融の総本山であるアメリカ市場をも、脅かすように
なった。ロシアが事実上の債務不履行を宣言した8月あたりから、欧米投資家
の不安が高まり、ロシアや中南米に投資されていた資金が、欧米に逆戻りする
ようになった。
世界経済は、1989年のベルリンの壁崩壊以降、欧米や日本からの資金が、アジ
アやロシア、中南米などの「新興市場」に投資される、という流れが続いたが、
それがなだれを打って逆流し始めたのである。同時にアメリカでは、ジャンク
債や住宅ローン担保債など、比較的リスクの高い債券が敬遠されるようになっ
た。
世界的な信用縮小が起こり、行き場を失った資金は、最も安全と思われる米国
債市場へと流れ込んだ。そのため米国債は値上がり(利回りは低下)し、ジャン
ク債などは値下がり(利回りは上昇)した。
普通ならこういう場合、しばらくすると米国債からジャンク債などに資金が流
れるはずだが、投資家のほとんどは不安に駆られているため、そうならなかっ
た。逆に「ジャンク債は危ない」という心理に拍車がかかり、格差は広がるば
かりとなった。
「広がった格差は必ず元に戻る」という「原則」に基づいて取引プログラムを
組んでいたLTCMは、短期間に巨額の損失を抱えることになった。9月に入って
も市場に「原則」は戻らず、9月18日ごろにはついに、LTCMの危機的状況が、
ウォール街の誰の目にも明らかになった。
▼金融機関の連鎖倒産もありうる
13兆円という巨額の負債を抱えたLTCMが破綻すると、金を貸していた金融機
関の中から、いくつも連鎖破綻が出てきかねない。しかも、LTCMは「運用の神様」
だったから、多くの金融機関が、LTCMと同じ運用ポジションを取っていた。金
融機関にとっては、貸した金が返ってこなくなるばかりでなく、自社の運用部
門も大損を被ることになった。
ただでさえ、ロシア経済の破綻やアジア経済のさらなる悪化で、世界の金融機
関の損失は増える傾向にある。LTCMの破綻は、世界的な金融破綻につながる可
能性があった。LTCM経営悪化のニュースが広まると、世界各地の株価が下落し
出した。
こうした状況をみて、アメリカの金融当局が動いた。ニューヨーク連邦準備
銀行は9月20日ごろ、LTCMに融資しているところを中心に、欧米の金融機関
15社に声をかけ、LTCMに緊急融資をすべきだと働きかけた。9月23日には、
ニューヨーク連銀に15社の代表が集められ、救済融資を渋る各社を連銀が説得
し、あるいはおどして、35億ドルの救済計画を組み上げた。
連銀自体は金を出さず、公的資金が使われることはなかったが、日本の大蔵省
が金融機関を「指導」するのと同じような、当局の圧力による救済策作りだっ
たことは間違いない。こうした、当局による圧力は、アメリカが日本や他のア
ジアに対して「そういう不透明なことはするな」と批判しつづけていたことで
ある。
香港やマレーシア、タイなど、ヘッジファンドによる攻撃の被害を受けたこと
のある国々の当局者は、アメリカの金融当局が、民間金融機関に圧力をかけて
ヘッジファンドを救済しようとしていることを、強く批判した。世界経済の
模範であったはずのアメリカに対する不信感が強まった、と指摘する専門家も
いる。
▼名門銀行も傷ついた
信用を落としたのは金融当局だけではない。LTCMに融資していた欧米の金融機
関の信用も失墜することになった。銀行業務の基本からみれば、資本の20倍も
の金を借りているLTCMにそれ以上融資することは、かなり危険なことだ。しか
もヘッジファンドは当局の監督をあまり受けていないため、経営の実態も不透
明だ。
そんなLTCMに巨額の融資が集まったのは、経営陣が「神様」で、「失敗するは
ずのない手法」をとって、驚異的な利益をあげていたからだが、LTCMが破綻し
てみると、それらはすべて_話」であった。神秘のベールがはがされてみる
と、貸し手の金融機関は「何でこんな会社に、こんなに貸したのか」と批判さ
れることになった。
最大の債権者となりそうなスイスの名門銀行UBSは、3人の経営陣が引責辞任し
た。イタリアの中央銀行は2億5000万ドルを投資していたが、担当者は「LTCM
がヘッジファンドだとは知らなかった」とコメントした。
LTCMが破綻する直前、FRBのグリーンスパン議長は、ヘッジファンドについて
米議会で証言し、「融資している民間金融機関の方が、政府よりもヘッジファ
ンドの実態を把握しており、彼らが(融資を通じて)ヘッジファンドを管理して
くれる」と述べた。だが実際には、それは全くの空論だった。
FRB主導の緊急融資によって、LTCMの危機が終わったわけではない。一時
しのぎのつなぎ融資をしただけだ。しかも、他のヘッジファンドの中にも、経
営難に陥るところが出てきた。最近のドル安円高傾向は、こうしたヘッジファ
ンドが、円安を予想して持っていたドル買いポジションを崩したことにより、
発生している。
FRBやヨーロッパの金融当局は、世界的にヘッジファンドに対する規制強化を
検討した。だが規制を強めれば、ヘッジファンドは誰の規制も受けないオフシ
ョア市場へと逃げた上で、同じことを続けるだろう。むしろ、貸し手の金融機
関の経営体質を見なおした方がいいのだが、これは短期間に達成することは
むずかしい。問題は解決されぬまま、存在しているのである。
筆者紹介は
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=sakait&vf=1
●最近のMSNニュース&ジャーナルの記事から
★素顔のジャッキー:アメリカを捨てた日々
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981012jackie2
偉大な夫ジョン・ケネディを失った後、ジャクリーンは自分
を世間の冷たい風
から守ってくれる大きな存在を必要していた。そんな彼女の前に現われたのが、
ギリシアの船舶王で「黄金のギリシア人」の異名をとるアリストテレス・オナ
シスだった。彼はジャッキーを口説き落とすのに3年かかった…。
(後篇:オナシス時代) (NBC Dateline:10月12日)
★国慶節の大事件、それはプリクラだった
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981012china
中国が建国49周年の国慶節で祝賀ムードに包まれるなか、山西省の省都である
太原市でも、ひとつの「事件」が起きた。町のデパートに「プリクラ」が登場
したのだ。値段は1回20元。日本円に換算すると約350円だから、日本のプリク
ラ(300円)と、さほど違いはない。だが、その20元は、現地ではおいそれと
出せない金額なのだ・・・ (菅原陽一:10月12日)
★イギリスで考えさせられた「運動会」
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981011matsuno
簡素でリラックスしたイギリスの小学校の運動会を経験した後の9月中旬、日
本に帰国した子供たちには、日本での運動会に向けた連日の練習が待っていた。
どうして日本の学校では、いまだに軍隊まがいの一斉行動の訓練を重視する一
方で、子供たち一人一人の存在や意志を軽視するのか。そろそろ「運動会」の
あり方を見直さなければならない。戦時経済、高度成長期の、団体行動万能主
義の時代はすでに終わっている。 (松野周治)
★再び孤独の荒野を歩く : 元X-JAPANのTOSHIさん
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981008randy
見回せば、いつのまにか世界はTOSHIさんを理解した顔をする。「ああ、TOSHI
は世界に絶望して髪を立てているのね、すばらしいわ」 彼は世界に理解され
ないと思って歌っているのに、世界は彼を理解しちゃうのだ。売れたから。有
名になったから。彼がロックを選んだのは、社会の歯車に組み込まれたくない
からだったのに……。だから、彼はもう一度、今度はまったく180度別の方向
へとジャンプした。「反逆」の対局……たとえば「自然」や「宗教」や「精神
世界」にである。 (田口ランディ:PC WORK! HOT MAIL)
★人類は「進化のテクノロジー」をマスターしたのか
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981008superman
人類は数年のうちに自らの進化をコントロールする術を手に入れてしまうだろ
う。科学者たちは、人間の遺伝子を組み換え、子供たちや、そのまた子供たち
の体まで作り変えてしまう可能性を検討している。なかには「新人類」の誕生
を予測する専門家もいるが、安全性を最優先に考えないと、とんでもない悲劇
が起きることになりかねない。
(第1部:「超人を作る技術」) (New Scientist:10月8日)
★人類の運命を変える遺伝子のテクノロジー
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=981009superman2
人間の生殖細胞の遺伝子操作が許されるとしたら、それはその技術を利用して、
人の命が救えるとわかった時かもしれない。それでも、反対する声はあるだろ
うが、これさえあれば、病気をせず、頭がよくて、運動もできる「いい子」が
作れると知りながら、反対する親はいるだろうか。
(第2部:「生命を救う技術」) (New Scientist:10月9日)
メール配信の中止やアドレスの変更は、
http://news.jp.msn.com/worldreport.asp?id=mail&vf=1
アドレスを変更する場合は、古いアドレスでの購読を解除し、新しいアドレス
での購読を開始する、という2回の作業をしてください。
ご意見、ご感想、広告に関するお問い合わせなどは
mailto:tanaka@newsjpmsn.com (田中 宇)まで。