積極思考とブラシーボ効果
−−石川光男
ブラシーボという言葉はたいていの人が知っているだろう。化学成分としては、
何の効果もないうその薬なのに、それを服用すると症状が好転する現象が見
られる。なぜこんなことが起こるのか長い間わからなかったが、1972年カリフ
ォルニア大学の研究チームがこのブラシーボ効果の謎を解く鍵をつかんだ。
親知らずの歯を抜いた直後の人を対象に鎮痛剤とブラシーボを次々に与えて
その効果を調べた。するとブラシーボを投与された三分の一は痛みがぐんと
少なくなったと報告した。そこで、その人たちに脳の中で発見された鎮痛物質
エンドルフィンの作用を押さえる薬を与えたところ、痛みがぶり返したのである。
この研究は鎮痛剤だと思い込むことによって脳の中のエンドルフィンの鎮痛
作用が働くことをはっきりと示した。鎮痛剤と思い込むというのは、心(意識)
の働きである。ブラシーボは心の状態が脳の物質に影響を与えることを明らか
にし、従来の考え方に変更を迫る新しい問題を引き起こした。これまで心は、
脳の物質の物理化学的な変化によって引き起こされる受身の存在にすぎない
とされてきたが、ブラシーボは逆の現象が存在することを示している。ガンを
宣告されると多くの人は、避けられぬ死を思い、生きがいを喪失したり、躁鬱病
に陥ってガン細胞の増加に拍車をかけ、病気を悪化させる。逆にガンを知ら
されたことによって、ガン細胞が収縮することもある。そういう人の心理状態を
調べると、気持ちの上で大きな変化が起きていて、残された生涯の一刻一刻
をいつくしむようにして生きていこうとする積極的な姿勢が見られることが多い。
ーー生命思考 TBSブリタニカ
石川光男
理学博士 国際基督教大学理学科物理学教授
(コメント)
これは、人間の意志の力が、肉体内の化学反応を支配している事が分かり
ます。多くの現代人は、肉体の状態によって、心の状態が左右され、心が
肉体の奴隷的な立場になっていますが、心の持ちようによっては、肉体的
痛感や苦痛を自由自在に感じたり感じなかったりできることが、この実験から
わかります。まざに精神統一すれば、火もまた涼しいという言葉は、決して
大げさな表現ではないのです。