この20年間、おもにフンボルト財団とバイエルン州から財政的援助を得
て、刑事法の比較研究を行ってきた。この Wintersemester でもミュンヘ
ン大学で国際比較刑事政策のゼミナールを担当し、重大・凶悪犯罪の国際
比較について講義をし、研究をしてきた。また、その間に6回の講演をし
、とくに本日のテーマである「日本における暴力団犯罪」について2
回(GieBen 大学とMuenchen 大学)にわたり講演をした。今日は、その時
のドイツ語の原稿を中心に報告をしたいと思います。
とくに、ここでは1992年に書きました「組織犯罪の研究―マフィア、ラ・コーザ・ノストラ、暴力団の比較研究―」(成文堂)と1993年に書
きました「暴力団」(岩波ブックシットNo.323)で述べた問題意識、つまり
、暴力団阪大の原因としての「暴力団と政治家の癒着関係」の問題と「暴
力団構成員と民族問題」の問題を中心にして話題提供していきたいと思っ
ております。
また、暴力団犯罪の根絶のためには、わが国の教育問題、民族問題の根
本的な再検討に加えて、具体的な刑事政策として、わたくしが、ドイツで
約20年にわたり研究をして、1984年にはドイツの連邦議会の公聴会
で発言したことのある「常習的暴力犯罪者に対する社会治療処分制度」に
ついても言及していきたい
日本における組織犯罪としての暴力団とは何か?
(1) YAKUZA と Boryoku-Dan の概念の相違
ここでは、まず、外国では当然のように使用されている「YAKUZA」とい
う概念とわれわれが刑事法の分野で使う組織犯罪集団としての「Boryoku
-Dan」という概念の違いを明確にし、われわれは、あくまで犯罪集団とし
ての「暴力団―Boryokudan」について問題にしていることを前提にして検
討していきたい。
もちろん、この両者の概念の混同は、なにも外国の専門家だけにみられ
る現象ではなく日本の刑事法の専門家のなかにもみられる。
さて、ここで「YAKUZA―ヤクザ」とは、もともとの意味は、
「ろくでなし」とか「役立たず」をいう。それが、博徒たちが行う「花札
」(Karten-spiel)で3枚のカードを合わせて合計20になると「ブ
タ(Schwein)」といって一番弱い数字を意味して通常はそのゲームでは負け
ることになるので、その20を引いた者は自嘲の意味を込めて「畜生(Mensch!)」とか「くそッー(ScheiBe)」とか言って悔しがるのである。と
くに、語呂合わせで、8=ヤ + 9=ク + 3=ザ =8+9+3=ヤ+
ク+ザ(YA+KU+ZA)=20(Schwein)となって自分達をヤクザ者の社会の
役立たずと呼称するのである。
それに対して、「暴力団―Boryoku-Dan」とは、もともと警察用語であり
暴力団対策法(1992年3月1日施行)によれば、「その団体の構成員(
その団体の構成団体の構成員を含む)が集団的に又は常習的に暴力的不法
行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。」としている。
以上のように、「YAKUZA」と「Boryoku-Dan」の違いは、まず、両者の
組織設立の目的が違う。つまり、YAKUZAはあくまで犯罪とは無縁な親睦団
体であり協同組合的団体であり、Boryoku-dan は、集団的に常習的に暴力
的不法行為等を行う目的で組織、結社された団体なのである。
日本の犯罪団体である「暴力団―Boryoku-dan」は、以上のように理解さ
れるが、ドイツの「犯罪組織」は、以下のように定義されている。すな
わち、「組織犯罪とは、2人たり以上の者が利潤や権力を得るために長期
に若しくは不定期に以下のような犯罪行為をすること、すなわち1)組織
が営業的若しくは商業的構造を装うことによる、2)暴力若しくはその他
の脅迫的な方法を使い、3)政治、メディア、公共事業、司法又は経済な
どに影響をあたえる行為を共同して行うことをいう。」としている。また
、ドイツ刑法の129条の「犯罪的団体の編成」では、「その目的若しく
は活動が犯罪行為を行うことに向けられた団体を設立した者、又はこのよ
うな団体に構成員として参加し、このために宣伝し、若しくはこれを支援
した者は、5年以下の自由刑又は罰金に処する。」としている。
(2) Boryoku-dan 犯罪の原因としての少数民族問題
戦後起こった政治家と暴力団の癒着から起こったと思われる重大犯罪、
例えばリクルート事件から最近のオウム真理教団員による大量殺人事件の
背景にはつねに「暴力団」と「少数民族」問題があった。
ここで何故「暴力団」と「少数民族」「部落問題」「韓国・朝鮮人問題
」かと言えば、例えば、アメリカ人のジャーナリスト、カプランとデュブ
ロによれば、日本の最大「広域暴力団」山口組の構成員25,000人のう
ち約70%の者がいわゆる「部落」出身者であり、約10%の者が韓国人
等の外国人であったとしているからである。
かっての「山一戦争」も一和会が韓国系の暴力団であったところに大き
な問題があったといえよう。
暴力団犯罪の実態と日独におけるその実態の内容的相違
(1) 暴力団犯罪の実態について
暴力団対策法が施行された後も暴力団の勢力は一向に下降線をたどって
いないところにわが国独特のの組織犯罪対策の難しさを知ることができ
よう。
1994年現在、まだ全国に約3、000暴力団が存在している。そ
して、約81、000人の暴力団員がいるのである。
最近の「住専問題」にも明確に表れているように、「暴力団と政治家の
癒着」の問題がある。さらに、暴力団が得ている年間の不正収益はおよそ
3兆円とも7兆円とも言われている。
(2) 暴力団による麻薬取引
1994年には、約15、000人が覚醒剤犯罪で検挙されているが、
そのうちの約44%(6,627人)が暴力団員であった。
(3) 民事介入暴力とは何か
かってバブル経済華やかなりし頃には、「地上げ」や「ノン・バンク」
等による借金やローンの取り立てなどによる暴力団の非合法な経済活動
があったが、現在では、以前ほどこうした事件は頻繁には起こっていない
。1988年のわたしのアメリカでの実態調査によれば、日本の暴力団に
よる「Loanshark」が大きな問題になっていた。しかし、商法の改正があ
り「総会屋」の締め出しが有効になったはずであるが、依然こうした事件
は現在も後を絶たない状態である。
1994年には、総会屋等の検挙人員は、862人で、検挙件数は、5
97件であった。1993年に比べ、件数で40件(7.2%)、人員で
54人(6.7%)それぞれ増加している。
(4) 政治家と暴力団の癒着をめぐる3つの具体例
1) 竹下元首相と皇民党事件
2) 四国における衆議院選挙をめぐる暴力団の暗躍
3) 選挙における暴力団と宗教団体と政治家の癒着関係
暴力団犯罪撲滅の具体的刑事政策
(1) 新しい刑事政策理論の構築―刑事政策の二極化論とは
暴力団犯罪に対するハードな刑事政策による徹底的壊滅作戦の展開の必
要性を強調したい。そのためには、暴力団に「人・物・金」の3点を絶対
に供給しない対策とその環境作りでが必要である。
(2) 暴力団対策法の早期改正の必要性
1992年にできた「暴力団対策法」には、犯罪団体結社罪の規定と非
合法経済活動よりえられた「不正収益」の剥奪の規定が最初から欠落して
いるので、例えば、ドイツ刑法のように「犯罪団体の編成」の禁止規定(
セクション129)とマネーローンダリングなどによる不正資金の剥奪規定(
セクション261 und セクション49 Abs.2)を設けて「人・物・金」のいル
ートを徹底して根絶していかなければならない。
(3) その他の暴力団対策
暴力団撲滅キャンペーンとしての「3ない運動―暴力団を助けない、恐
れない、使わない」をわれわれの日常生活の中に定着されていく必要が
ある。
(4) 社会治療処分制度の導入に向けて
1.社会治療とは何か―ビーレフェルト・モデルとは
2.人格障害的暴力団員に対する「社会治療」の適用について
3.大阪市浪速警察署の改築工事を暴力団の建設屋に依頼する理由について
http://www.kclc.or.jp/Humboldt/katoj.htm
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