
※2025年3月19日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2025年3月19日 日刊ゲンダイ2面
「石破よ、おまえもか」/(C)日刊ゲンダイ
商品券問題で歴然としたのは腐敗堕落した自民の金銭感覚だ。こんな政党に「政治とカネ」の議論などできっこないのに、野党の党利党略、自民党の個利個略の政局見通しを無批判タレ流し。
この国ではいつも国民は置き去りだ。
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さすがに国民も怒りを通り越して呆れ返っているに違いない。
石破首相が自民党の新人議員15人に10万円の商品券を配った問題である。メディア各社が行った世論調査で、内閣支持率が軒並み急落。朝日新聞の調査(15、16日実施)では、支持率が前月から14ポイントも下落して26%。不支持は15ポイント上昇し59%である。読売新聞(14〜16日実施)も支持率が8ポイント減の31%で、不支持は15ポイント増の58%。いずれの調査でも、商品券配布について「問題だ」の声が大多数を占めている。
国民が怒るのは当然だ。岸田政権下の2023年秋ごろに派閥裏金が明らかになって以降、自民の金権体質をイヤというほど見せつけられてきた。「党内野党」といわれた石破なら、体質を変えられると期待していただけに、余計にガックリ。「石破よ、オマエもか」と、多くの国民が受け止めるのもうなずける。
18日の朝日新聞朝刊の投書欄には〈かつてこの(政治とカネの)問題に遠い人物と見られていた首相にして、この感覚である〉と落胆の声が寄せられていた。石破が商品券の配布について「個人的なねぎらい」と言い訳していたことを引き合いに〈本当にねぎらわれるべきは、地震や豪雪、山林火災などの災害に対応し、復旧復興のため必死に尽力している方々ではないだろうか〉と指摘していたが、その通りだろう。
国民生活を全く理解していない証左
自民と立憲民主党の国対委員長が18日会談。石破が衆院政治倫理審査会で説明するよう求められた場合、それに応じる用意があることを自民が立憲側に伝えた。石破の政倫審への参加の可能性が高まったが、納得のいく説明がなされるのかは不透明だ。
今回の商品券問題で歴然としたのは、腐敗堕落した自民の金銭感覚だ。国民が物価高に苦しみ、10円でも安い特売品を探し回っているのに、「ねぎらい」「お土産」名目で10万円分の商品券をポンと渡す──。国民生活を全く理解していない証左だ。しかも、こうした「商品券配り」は今に始まった話ではなく、慣例化していた可能性があるというのだから、許しがたい。
毎日新聞(15日付)は、〈第2次安倍政権時にベテラン議員が首相公邸で会食した前日、首相周辺がこの議員のもとを訪れ、「お土産です」と紙袋を渡してきたという。開けると数十万円分の商品券だった〉などと報じていた。時事通信も18日、第2次安倍政権以降のこととして「首相公邸での会合で20万円分の商品券が配られていた」とする自民関係者の証言や、「いくらでもある話だ」という自民ベテランのコメントを紹介している。
さらに19日の朝日新聞は、複数の自民党関係者の話として、岸田前首相の在任中に首相公邸で開催された政務官との懇談会で、岸田側から10万円分の商品券を受け取っていたと報じた。金権腐敗はこの政党の宿痾である。
「商品券配布」の目的は“チルドレンづくり”
ああ、「伝家の宝刀」を封印?(C)日刊ゲンダイ
ここまで来たら、石破政権は即退陣、自民は即刻、下野が当たり前だ。ところが、どうも永田町はそんな雰囲気じゃない。
肝心要は野党第1党の立憲だが、野田代表は「内閣不信任案提出や退陣を求める声があるが、私は簡単に求めない」と、「伝家の宝刀」を早々に封印。小川幹事長も18日の会見で、不信任案の提出時期を問われ「簡単に言える状況にはない」と強調し、「その後の解散・総選挙、総辞職に伴う首相指名選挙を総合的に見極めなければならない」と明らかに及び腰だ。
「立憲としては、低支持率にあえぐ石破首相のまま参院選を迎えた方が有利。不信任案で石破首相を降ろしてクビをすげ替えられても、いいことはないでしょう。ましてや、準備もできていないのに、解散・総選挙なんて展開は受け入れられないはずです」(永田町関係者)
一方、自民内も「石破降ろし」という雰囲気にはなっていない。
「この状況で総理総裁を引き受けるなんて、『火中の栗』を拾うようなものだ。主要な総裁候補は皆、慎重です。表立って商品券配布問題にクギを刺す議員もいますが、本気で石破さんを降ろすつもりはないでしょう」(自民党関係者)
先日、旧安倍派の西田昌司参院議員が「今の体制では参院選を戦えない。総裁選を実施し、新たなリーダーを選び直さないといけない」と吠えたことで、永田町関係者は「石破降ろしののろしか」と色めき立ったが、そんな勇ましい動きではないそうだ。
「西田さんは今年の参院選で改選を迎えます。選挙に向けて求心力を保つために、あえて報道陣の前でしゃべったに過ぎないようだ。その点は現執行部も見透かしており、冷ややかに見ていますよ」(官邸事情通)
要するに、野党は党利党略、自民も個利個略というわけだ。本来、国民の不信をもたれた総理大臣とは厳しく向き合い、クビを取りにいくべきではないのか。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「与野党ともに首相を追及してクビを迫るエネルギーが失われているのか、情けない限りです。野党第1党の立憲は本来、信念を持って政権交代を迫るべきですが、参院選がチラついて動けない。一方、自民も少数与党でいつ政権の座を降ろされるか分からない状況ですから、誰もがお鉢が回ってくることを恐れている。要するに、我が身が可愛いということ。国民不在もいいところでしょう。そもそも、今回の商品券配布問題も裏金事件同様、実態解明を進めるべき。歴代総理がやっていた可能性が出ているわけですが、何のために配布したのか。『お土産』や『ねぎらい』にしては金額が大きすぎます。結局、『チルドレンづくり』ではなかったか。だとしたら、カネにモノを言わせて仲間を買うようなやり口で、悪質でしょう。裏金事件同様、徹底解明すべきです」
メディアには自民を下野させるくらいの気概が必要
輪をかけてヒドイのは、大メディアだ。商品券配布問題を巡る報道を見ても、永田町で繰り広げられている政局の見通しを無批判にタレ流しているだけだ。
例えば、「与党 鈍い首相交代論」「野党 不信任案に慎重」「退陣求めずに 参院選有利に」「石破総理の商品券問題は政局に発展するか」といった具合だ。バッジをつけた連中と同じ「永田町の論理」に染まってしまっているのだから、情けない限りである。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「大手ほど客観報道にこだわる傾向があり、それが自民の『政治とカネ』の問題をぼやかしてしまっています。客観報道はもちろん大事です。『平時』においては特にそうした視点は重要。しかし、今は裏金に続き、またカネの問題が噴出する『有事』です。異常事態と言えるでしょう。そんな状況の中、客観的な政局報道ばかり続けていてはダメ。自民は無反省なままで、金権体質は変わることがないからです。本来はより批判的な姿勢で、自民を下野させるくらいの気概で対峙すべき。それが、読者、国民のためになるはずです」
まさか、石破自民に借りでもあるのか。愚にもつかない政局報道ばかりやっている場合じゃないはずだ。
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