
※2025年3月6日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2025年3月6日 日刊ゲンダイ2面
言いたい放題(C)ロイター
いよいよ、その正体をあからさまにしてきたトランプ政権。媚びてすがってきた歴代自民党政権も「米国抜き」を視野に入れ始めたことだろう。「今だけ、金だけ、自分だけ」の米国に今後も貢ぎ続けて捨てられるのか。石破さんの意見を聞きたいものだ。
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こうなると、もはやディールではなく、ただの脅しなのではないか。
4日夜(日本時間5日午前)、上下両院合同会議で行われた米トランプ大統領の施政方針演説。以前から口にしているグリーンランドの買収と、パナマ運河の奪還について、「いずれにせよ、われわれはグリーンランドを手に入れる」「パナマ運河を取り戻す」と宣言してみせた。
アメリカは世界一の「軍事大国」であり、世界一の「経済大国」である。国際社会が危惧した通り、「軍事」と「経済」を使って世界中を恫喝しはじめている。
ほんの数日前、トランプと激しい口論をくり広げたウクライナのゼレンスキー大統領も、アメリカが軍事支援を停止した途端、ギブアップしてしまった。「トランプ大統領の指導力の下で協力する用意がある」「鉱物資源の協定に署名する用意がある」という手紙を送り、恭順の意を示したという。トランプが演説で紹介していた。
ウクライナに眠るレアアースなど鉱物資源の権益を欲しがっていたトランプは、まんまと奪い取った形だ。アメリカは、権益の譲渡をこれまでの支援金の「回収」と位置づけているという。
ロシアに侵略され、戦争中のウクライナにとって、アメリカの軍事支援は命綱だ。支援を再開してもらうために、泣く泣く権益の譲渡を決めたのだろう。
さらに演説では「他の国は何十年もアメリカに関税を課してきた。次はわれわれが使う番だ」「EU、中国、ブラジル、インド、カナダに対してだ」と、関税の発動を宣告。4月2日には「相互関税」を導入するという。
すでにカナダとメキシコには、3月4日、25%の関税をかけている。カナダは隣国であり、同盟国である。これまでアメリカ、カナダ、メキシコの北米3カ国は、関税をなくす自由貿易協定(FTA)を結んできた間柄でもある。しかし、この男には、同盟国だろうが、過去の経緯があろうが関係ない、ということだ。
これから4年間、世界がトランプに振り回されるのは間違いない。
報復関税による「貿易戦争」が勃発したら、世界経済は混乱し、大不況に陥る恐れがある。それでもトランプは、施政方針演説で「多少の混乱はあるかもしれないが、それでいいと思っている」と、貿易戦争をまったく意に介さなかった。
いよいよ、トランプ政権の正体があからさまになってきた。
国力が低下し、もはや他国の面倒を見る余裕はない
レアアースも権益を奪われた(ホワイトハウスから退出するウクライナのゼレンスキー大統領)/(C)ロイター
トランプは演説で中国や韓国、インドなどを名指し、「われわれより高い関税を課している」と批判したが、関税で日本に触れることはなかった。
しかし、これから4年間、日本だけが無傷ということはあり得ないのではないか。いずれ、むちゃな要求を突きつけてくるに違いない。
戦後80年、アメリカとの戦争に敗れた日本は、アメリカを「宗主国」のように仰ぎ、「日米同盟が基軸だ」とアメリカに隷従してきた。歴代首相は、常にアメリカ大統領の顔色をうかがってきた。
しかし、もはやアメリカに従っていれば安泰という時代は終わったのではないか。
戦後、アメリカは、ポーズだとしても世界の秩序を守る守護神の役割をはたそうとしてきた。しかし、トランプのアメリカは、すべて「アメリカ・ファースト」だ。世界秩序は関係ない。しかも、力をムキ出しにして他国から利益を奪い、世界の秩序を破壊しようとしている始末だ。リーダーシップを完全に放棄している。
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「アメリカの寛容さが失われたのは、結局、国力が相対的に低下したことに行き着くと思う。アメリカのGDPが世界に占める割合は、1960年は4割でしたが、現在は4分の1にまで落ちています。他国の面倒を見る余裕はないということです。平均的なアメリカ人の生活も厳しく、外国のためにカネを使うことを疑問視する人も増えている。ウクライナに対する支援も『なぜアメリカが巨額な支援をする必要があるのか、欧州のことは欧州がやるべきだ』と考える人もいます」
ヤバいのは、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」は、アメリカ国民にとって違和感がない可能性があることだ。
もともとアメリカは、第2次世界大戦の前までは「孤立主義」「単独主義」「保護主義」の国だった。トランプ政権は“先祖返り”しただけともいえるのだ。
トランプがお手本としている第25代マッキンリー大統領は、「高関税政策」を採用し、米西戦争ではスペインからプエルトリコ、グアム、フィリピンを奪い、ハワイも併合している。
もし、アメリカ国民が、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」を自然に受け入れているとしたら、これから4年間、暴走は止まらないことになる。
欧州はアメリカ頼りから脱却しようとしている
この先、日本はトランプ政権とどう向き合えばいいのか。「日米同盟が基軸」を妄信していていいのだろうか。
ヨーロッパでは、同盟国さえ切り捨てかねないアメリカに対し、安全保障面では頼れないという意識が高まっているという。チェコのフィアラ首相は4日、X(旧ツイッター)に「国際課題に対処するために他国に頼る時代は終わった」と投稿している。
実際、「アメリカ・ファースト」のトランプ政権が、他国を守るために若いアメリカ兵を戦地に送るのかどうかは疑問だ。
まして、白人の国にさえ兵士を送らないのに、有色人種の国に送るのだろうか。少なくても、これまで「台湾を守る」とは、一度も言っていない。「中国が台湾を攻撃したら守るのか」と問われたトランプは、「中国に150〜200%の関税をかける」と答えている。
他国が尖閣諸島に攻め込んだ時、トランプは軍を送るのだろうか。送ったとしても、ウクライナのゼレンスキーに「権益」の譲渡を求めたように、日本に巨額な「見返り」を求めてくるのではないか。
国益に直結しかねないだけに、世界中がトランプ政権とのつき合い方を手探りしている状況だ。
国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう言う。
「石破首相の国会答弁を見ていると、まったく危機感がない。恐らく、アメリカから関税をかけられても、他国のように報復せず、できるだけ被害が小さくなるように対応するつもりなのでしょう。アメリカとはコトを構えず、4年間をやり過ごすつもりなのだと思う。日本が鷹揚に構えているのは、為替の影響も大きいのでしょう。かつて1ドル=100円だった為替は、いま1ドル=150円です。5割も円安です。だから、25%の関税をかけられても為替で吸収できる。ただし、円高が進み、関税もかけられたら、日本企業は打撃を受けるでしょう」
前出の五野井郁夫氏は、こう言う。
「自由や平等、法の支配……といった戦後の価値観を共有できる欧州の国と日本は手を組むべきだと思う。気をつけなければいけないのは、第1次世界大戦から第2次世界大戦の間、アメリカが国際政治から手を引いた結果、『危機の20年』と呼ばれる状況が生まれたことです。ナチスが台頭した。足元は、あの時よりも不安が強い。『自国第一』を掲げるアメリカ、ロシア、中国の利害が一致するケースがあるからです」
石破首相は、持論の「対等な日米関係」はおくびにもださず、トランプを「神に選ばれた」とヨイショしていた。この調子では、日本はどこまでもむしり取られるだけだ。
http://www.asyura2.com/24/senkyo296/msg/732.html