
※2025年2月1日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
俊夫さんが亡くなってから7年近く(赤木雅子さん提供)
大阪高裁が逆転で財務省のふざけた「文書不開示」をひっくり返したが、これが「ニュース」になったように、民主主義の根幹を揺るがす隠蔽が今もアチコチで行われている。旧安倍派の会計責任者隠しもその延長。上が腐れば下まで腐るの劣化の惨憺。
◇ ◇ ◇
「主文、原判決を取り消す」
逆転勝訴を告げる裁判長の声に、鳴りやまない傍聴席の拍手。原告の女性は隣の弁護士と握手を交わし、あふれ出す涙をハンカチで押さえた。
森友学園への国有地売却を巡る公文書改ざん問題で、財務省が存在も明かさず関連文書を不開示とした決定について、大阪高裁は1月30日、1審判決を覆し「違法」と認めた。不開示決定の取り消しを求めて国を提訴したのは、赤木雅子さん(53)。夫は2018年3月、改ざんを強いられて自ら命を絶った近畿財務局職員・俊夫さんだ。
なぜ夫は死に追い込まれたのか。その解明に向けて着目したのは、国有地売却に関連する事件捜査で財務省が東京・大阪両地検に提出した文書だ。夫を苦しめた改ざんに至る意思決定や、財務省と近畿財務局の指示の流れが記されているに違いない。そう踏んだ雅子さんは21年8月、情報公開制度に基づき財務省と近畿財務局に文書の開示を請求したが、不開示となった。しかも文書の存在すら明かされないままに。
文書があるかないか答えようともせずに、不開示とはやり過ぎ──。大阪高裁は財務省のふざけた対応を真っ向から否定。判決文はたった10ページしかない。異例の薄さが、国の主張や理屈のデタラメさを物語る。こんな当たり前の判決が出るまで、21年10月の提訴から3年3カ月、夫の死から数えれば、7年近くもの歳月が流れてしまったのだ。雅子さんの無念を思えば「今頃遅いよ!」と声を荒らげたくもなる。
財務省に著しくかけた法律順守の精神
この日の閉廷後、雅子さんは「苦労が報われた」と語ったが、国が上告すれば戦いはさらに続く。上告しなくても、判決は開示まで命じるものではない。財務省がアレコレと屁理屈をこねて、文書の全部、あるいは大半を開示しない可能性が残されている。
「財務省の隠蔽体質を考えれば、残念ながら、まだ手放しでは喜べない状況です」と言うのは、情報公開請求に詳しい神戸学院大教授の上脇博之氏だ。こう続けた。
「01年施行の情報公開法の理念は、請求があれば『原則公開』です。文書の存在すら明らかにしないのは例外中の例外。あり得ない対応でした。財務省はハナから原則公開の理念をないがしろにし、昨年3月に決定を取り消すよう求めた総務省の審査会答申も無視。雅子さんとの控訴審では『答申が誤っている』とまで主張していた。法律を順守する意識はみじんも感じられません」
そもそも、至極当然の判決が大手紙の1面を飾る「ニュース」になったこと自体、異常だ。それだけ民主主義の根幹を揺るがす隠蔽が、今もアチコチで行われているということ。慣れっこになってしまっている国民の意識も麻痺している。
旧安倍派の会計責任者隠しも、その延長だ。おとといは自民党派閥の裏金事件を巡り、衆院予算委員会で旧安倍派の会計責任者だった松本淳一郎氏(政治資金規正法違反=虚偽記入で有罪確定)の参考人招致が、野党の賛成多数で議決された。
参考人招致は全会一致が長く慣例化しており、賛否が割れる多数決での議決は1974年以来、実に51年ぶり。与党筆頭理事を務める自民党の井上信治議員は「数の力による議事運営はこれから厳に慎んでいただきたい」と注文をつけ、きのうの衆院予算委で質問に立った自民議員たちも多数決による議決に文句タラタラだった。唖然だ。どの口が言うのか。
裏金問題の真相究明のため「第三者委員会」を立ち上げを
フジテレビ開局以来初の赤字に(C)日刊ゲンダイ
これまで散々「数の力」に任せて悪法の数々を強行採決でゴリ押ししてきたクセに、少数与党に陥ったら数の力を否定するなんて、ちゃんちゃらおかしい。あまりにも都合がよすぎる。
情けないのは与党の公明党だ。態度は二転三転。当初は参考人招致に賛成する構えだったが、いざ採決になると結局は退席となった。その背景について、きのうの読売新聞の政治面に驚くべき記事が載っていた。自民側に「連立を離脱するのか」とせっつかれ、軌道修正を余儀なくされたというのだ。
昨年の衆院選は自民の裏金問題のあおりで8議席減。代表だった石井啓一氏まで落選し、比例代表はついに600万票を割り込んだ。夏の都議選や参院選を控え、裏金自民とこれ以上、同一視されたら自滅行為。それでも裏金政党のドーカツに屈し、ひよったわけだ。
大体、半世紀ぶりに全会一致の慣習が崩れたのは、自民の自業自得ではないか。裏金問題の全容解明に向け、ちっとも自浄能力を発揮してこなかったせいだ。この期に及んで連立パートナーを脅した挙げ句、松本氏が民間人であることや、強制力がないことを理由に参考人招致に差し出す気もない。いまだ裏金政党に反省の色なし。少しはフジテレビを見習って「第三者委員会」を立ち上げ、裏金問題の真相究明に努めたらどうなのか。
まあ、そのフジも隠蔽体質は自民と似た者同士。女性との「人権侵害が疑われる事案」を社長が把握しながら、元タレントの中居正広を約1年半も起用し続けたTV局である。「隠蔽」と「スットボケ」は同じ穴のムジナだ。まるで自民党政権を真似たかのようなデタラメ対応のツケが回り、親会社フジ・メディア・ホールディングスは今年3月期連結決算の業績予想を大幅に下方修正。売り上げは従来予想より501億円も減り、フジテレビ単体の決算は、1959年の開局以来初めて赤字に転落する見通しだ。
総理は4年前の約束を果たせ
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう指摘する。
「フジサンケイグループ代表で『フジの天皇』と称される日枝久氏の存在が象徴的です。彼は極めて政界との距離が近く、特に安倍元首相とはゴルフコンペが慣例化するほど親しかった。安倍政権はモリカケ・桜を見る会をはじめ、イラク派遣に関する日報問題、統計不正問題など、隠蔽・改ざんが日常茶飯事で、処分は常にトカゲの尻尾切りでした。そんな政権にフジの天皇がスリ寄り、庇護を受けていれば、組織のタガが緩んでいくのは当然です。NYタイムズは、9000万円ともいわれる中居正広氏の示談金を『相手女性への口止め料』と断じましたが、上が腐れば下まで腐るで、フジの天皇からMCを務めた中年タレントに至るまで隠蔽体質にすっかり染まってしまったのでしょう。問題は、この構造腐敗が7年8カ月に及ぶ安倍長期政権下で日本社会全体に蔓延しているように思えることです」
この負の連鎖と劣化の惨憺を断ち切るには、まず腐りきった政治が変わらなければいけない。よもや、石破首相は自らの言葉を忘れてはいまい。4年前、党総裁選への出馬断念会見で「赤木雅子さん」とその名を口にし、「一番悲しんでいる人に向き合わなくて、なにが政治か」と、財務省の公文書改ざん問題の再調査を求めたことを--。
前出の上脇博之氏はこう言った。
「今回の判決確定後に、国が文書を開示しても黒塗りだらけの『のり弁』対応なら、再び雅子さんは開示を求めて提訴しなければならないかもしれません。これ以上、彼女を苦しめ、負担を強いるのか。国はそこまで恥知らずかどうかが問われています。石破首相は今こそ4年前の約束を果たすチャンスです。いわゆるアベ政治のウミを出し切れなければ、石破首相の存在意義はありません。この国の独裁国家のような隠蔽体質を変える上でも、国民は声を大にして石破首相に『有言実行』を迫るべきです」
高裁判決に関し、石破はきのうの衆院予算委で「判決内容を精査し、財務省や法務省とも相談しながら適切に対処する」と語るにとどめた。やはり全国民の怒りが必要だ。
関連記事
雅子さんが訴訟に初めて勝った!大阪高裁が森友文書「不開示」判決を取り消し、法廷の拍手鳴りやまず 森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/24/senkyo296/msg/559.html
http://www.asyura2.com/24/senkyo296/msg/566.html