「103万円の壁」撤廃を素直に喜ぶのは単純すぎる 二極化・格差社会の真相
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2024/12/17 日刊ゲンダイ ※後段文字お越し
非課税枠引き下げを大義名分で謳うが、その向こうには…(C)日刊ゲンダイ
不安でならない。自民、公明、国民民主の3党が先週、例の「年収103万円の壁」を、178万円を目標に引き上げることで合意した件である。
主唱していた国民民主に連立与党が譲歩した形。はたして両者は一体化しつつあり、問題大アリの今年度補正予算も17日には成立する見通しだ。
自公は防衛費増額の財源となる所得税の増税時期決定を先送りし、これも国民民主主導の、ガソリン税の上乗せ暫定税率の廃止でも合意した。どれも市民生活にとって“いい話”のはずなのだが、素直には喜べない。
非課税枠の引き上げは税収減を招くだろう。今回の合意通りなら減少幅は7兆〜8兆円だと、政府は試算している。
減税効果による経済活性化は税収増にも通じるので、実際のところはわからない。政府試算をうのみにするより、数字に込められた徴税当局の怨念に留意しよう。
なにしろ、2027年度には防衛費がGDP(国内総生産)の2%へと膨れ上がる。1%だった従来の、ざっと2倍だ。必要な追加財源約14.6兆円の大部分は歳出改革や決算剰余金の活用、税外収入等の積立金等で手当てするとして政府は、約1兆円程度だけを法人税やたばこ税、所得税の増税で賄うとPRしてきた。
大増税の伴わない大軍拡などあり得るのか? 否、政財官マスコミの首脳らは、いずれ消費税率の大幅引き上げに持っていく腹だと断じたい。
状況証拠は山ほど。政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は22年11月、安保3文書改定直前の報告書で「(軍拡の)財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべき」だと強調。ことさらに社会保障制度の維持を持ち出し、消費税増税を「有力な選択肢」だと叫んだのは、経団連による昨年9月の提言だ。
財務省やマスコミのご託宣とは裏腹に、消費税が異常な不公平税制である実態は周知の通り。また経団連には10年ほど前、なんと消費税率19%と法人税減税をセットで論じていた前科もある。
軽減税率のエサで飼われた新聞が、消費税増税に批判的な論陣を張る可能性は皆無に近い。引き下げをうたっていた国民民主が、いつの間にか消費税には触れなくなったのも、あうんの呼吸の産物か。
大軍拡だから大増税、なら反対で盛り上がるだろう世論も主婦や学生らの生活改善を大義名分にされれば和らぐ。「103万円の壁」引き上げは大増税劇の序幕かもしれないと知るべきだ。
斎藤貴男 ジャーナリスト
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「戦争経済大国」(河出書房新社)、「日本が壊れていく」(ちくま新書)、「『明治礼賛』の正体」(岩波ブックレット)など著書多数。
http://www.asyura2.com/24/senkyo296/msg/341.html