※2024年12月19日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年12月19日 日刊ゲンダイ2面
防衛増税も所得増税も、先送りならやめたらどうだ(C)日刊ゲンダイ
ちょっと前まで国会で主張してきたことを、あっさり引っ込める無節操の漂流政権。いい加減なもんだが、だとすると、国民にはもっとやって欲しいことがある。マイナ保険証の強行見直しこそ、メンツを捨てればできること。防衛増税も所得増税先送りならやめたらどうだ。
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「少数与党の中で本当にいい審議ができた」──。政治改革関連法案の衆院通過に加え、2024年度補正予算が成立した17日夜、総理官邸で記者団にそう語った石破首相。
しかし、いったい、どこが「いい審議」だったのか。
多数を握る野党の賛成を得るために、野党案を丸のみしただけの話なのではないか。
「政治改革関連法案」の衆院通過は、まさに野党案の丸のみだった。
当初、自民党は、批判が強かった「政策活動費」を廃止する代わりに、外交の秘密に関わる支出は非公開にできる「公開方法工夫支出」なる制度を新設する法案を提出していた。「公開方法工夫支出」は、形を変えた「政策活動費」だ。「政策活動費」は、支出先を公開する必要がなく、事実上、政党幹部の裏金となっていた。自民党幹事長には、年間10億円も渡っていた。この期に及んでも自民党は、名称を変えて「政策活動費」を温存しようとしていたということだ。
しかし、野党から強い反発を受けて「公開方法工夫支出」の新設を断念。この国会で「政治とカネ」に道筋をつける必要に迫られていたため、最後の最後に、野党7党が提出していた政策活動費の「全廃法案」に賛成し、衆院を通過させたのが実態である。
補正予算の成立も、ほとんど同じ構図だ。
予算案に賛成してもらうために、国民民主が求める「年収103万円の壁」見直しを受け入れ、日本維新が主張する「教育無償化」の制度設計を話し合う協議会の設置でも合意。さらに、立憲民主の主張をのんで能登半島地震の復興へ予備費から1000億円を充てることを決めた。野党の要求をのみ、補正予算案が修正されるのは28年ぶりのことだ。採決の直前、日本維新と国民民主から賛成を取りつけ、補正予算案を衆院通過させている。
石破首相は「いい審議ができた」などと口にしていたが、なんのことはない、野党の協力を得るために、節操なく主張を引っ込めただけのことである。
第2の真空総理
野党に譲歩することで、まんまと補正予算を成立させた石破自民党は、「少数与党下の国会運営の手法が形にできた」と、手ごたえを感じているという。臨時国会の、この「成功」をモデルケースにするつもりらしい。
自民党関係者からは、「小渕首相のように『真空総理』になれば、少数政権でも来年の通常国会を乗り切れる」との声があがっているという。
小渕恵三は1998年7月、首相に就任したが、直前の参院選で自民党が惨敗したため参院は与野党が逆転し、野党の協力を得ないと予算も法案も通らないという状態からのスタートだった。
7月から10月まで開かれた臨時国会は、バブル崩壊後に起きた金融危機に対応するために「金融国会」と称された。その時、小渕首相は、野党が提出した「金融再生法案」を丸のみして乗り切っている。小渕本人は、周囲に「おれは真空だから、対立することはないんだ」と語っていたそうだ。
たしかに、この臨時国会と同じように、野党に譲歩し、野党案を丸のみすれば、石破政権は来年の通常国会を乗り切れる可能性が高い。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「石破政権は、日本維新と国民民主をてんびんにかけ、それぞれの要求を聞きながら、来年の通常国会を乗り切るつもりなのでしょう。日本維新か国民民主のどちらかが賛成してくれれば、本予算も法案も成立しますからね。さっそく、日本維新の幹事長は、維新が求める“教育無償化”や“社会保障改革”が予算案に反映されれば本予算への賛成もある、と発言しています。もはや石破首相は、政策に対するこだわりもなく、メンツより政権延命を重視しはじめている。自分たちの利権が侵されない限り、野党の要求を次々に丸のみする可能性は十分ありますよ」
しかし、政策に対するこだわりも捨て、野党案の丸のみでは、総理をやっている意味がないのではないか。
廃止する必要があるのか
この人が元凶(C)日刊ゲンダイ
どうせ、なんでもかんでも丸のみならば、石破首相は、いますぐ「紙の保険証」の存続を決定すべきだ。国民も存続を望んでいるはずである。メンツを捨てれば、これこそ簡単に実行できるはずである。内閣支持率だってアップするに違いない。
政府は12月2日から健康保険証の新規発行を停止し、「マイナ保険証」への一本化をスタートさせた。しかし、マイナ保険証の利用はほとんど進んでいない。10月末現在、国民の約6割がマイナ保険証を保有しているのに、11月の利用率は、わずか18.52%だ。
利用が進まないのは、使うメリットがあまりないうえ、情報漏れなどの不安があるからだろう。毎日新聞の調査によると、52%がマイナ保険証への移行に「不安」を感じているという。
すでに発行されている紙の保険証は経過措置として最大1年間は使える。
しかし、そもそも、なぜ現行の健康保険証を廃止する必要があるのか、多くの国民は疑問に思っているはずだ。経済アナリストの森永卓郎氏が「週刊ポスト」(12月13日号)でこう書いている。
「私は目下、がん闘病中でいくつもの病院に通い続ける身だが、いまも紙の保険証を使っている。それで不便を感じたことがなく、マイナンバーカードの提示を求められたこともない。現行のままで何一つ問題ないし、誰に聞いても現行の保険証で困っているという声は聞いたことがない。マイナ保険証への全面切り替えは非現実的な政策にしか見えない」
マイナ保険証を使いたい人は使えばいいが、慣れ親しんだ紙の保険証も残せばいいだけの話なのではないか。
バカみたいなのは、現行の紙の保険証が廃止されても、まったく同じように使える「資格確認証」という保険証が交付されることだ。
従来の保険証の期限が切れ、マイナ保険証も持っていない人には、保険証として利用できる「資格確認証」が自動的に送られてくる。「資格確認証」の有効期限は最大5年だが、有効期限を迎えた場合は、また自動的に更新される。
わざわざ、既存の紙の健康保険証を廃止し、まったく同じ機能を持つ「資格確認証」を発行する意味がどこにあるのか。
健康保険証を人質にする悪質
経済評論家の荻原博子氏はこう言う。
「現行の保険証は月に1回、病院の窓口に提出すればいいだけで、保険証を忘れても『次回、来た時に持ってきて下さい』で済みます。でも、マイナ保険証は、毎回カードリーダーに読み込ませる必要があり、しかも、いまだにカードリーダーの接続不良などトラブルが絶えない。使い勝手が悪い。そもそも、2022年10月、当時の河野太郎デジタル相が突然、紙の保険証の完全廃止を表明したのは、本来、任意のはずのマイナンバーカードの取得を推し進めるためでしょう。国民皆保険の日本で、保険証を人質にしてマイナンバーカードを取得させようというのはおかしいですよ」
もともと石破首相も、紙の保険証は残すべき、という立場だったはずだ。
9月の総裁選の時には「紙の保険証との併用も選択肢として当然」と発言している。なのに、総理になった途端、衆院本会議で「スケジュール通り進めていく」と百八十度、違うセリフを吐いているのだから、国民も呆れ返ったはずだ。
石破政権は、異論があるからと、防衛費増額の財源となる「所得税増税」の決定も先送りしている。
政策に対するこだわりもなく、なんでもかんでも簡単に先送り、丸のみできるなら、「紙の健康保険証」の存続など、たやすいはずである。
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