※2024年12月3日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年12月3日 日刊ゲンダイ2面
マイナ保険証をお持ちなんですか(C)日刊ゲンダイ
河野前大臣がいきなり言い出した紙の保険証廃止が現実となった。東京新聞の取材で、そのデタラメの一端が明らかになっているが、最後まで説明がない紙との併存を拒否する理由、新たなカードを持ち歩く時代錯誤、その裏に見え隠れする利権など、見直しを示唆しながら傍観の石破首相も命取り。
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おなじみの健康保険証の新規発行がついに停止された。利用率は2割に満たないのに、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」を基本とする体制へと移行した。既存の保険証は最長1年間使えるし、有効期限が切れる前に加入する医療保険者から「資格確認書」が自動的に無償交付される。マイナカードを受け取り、保険証としての登録をしなくても、これまで通り医療機関を受診できる。保険診療を受けられる。けれども、不安しかない。
別人の情報がひも付けられたり、窓口の負担割合が間違っていたり。致命的なトラブルが相次ぐマイナ保険証の本格運用が始まったのは、岸田政権発足間もない2021年10月だった。そもそもマイナカードは任意取得だったのに、22年6月に閣議決定した「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に「健康保険証の原則廃止」をこっそり盛り込み、10月に当時の河野デジタル相が「24年秋の保険証廃止とマイナカードへのひも付け」をいきなり表明。世論の反発はほぼ黙殺され、移行が現実になった。
マイナ保険証への一本化に伴い、医療機関の窓口などで患者の資格を確認する方法は9パターンに激増する。@既存の保険証A資格確認書Bマイナ保険証C利用できるサービスがマイナ保険証などに限定される「顔認証マイナカード」D来春の実用化を目指すスマホ搭載のマイナ保険証E26年導入を目標とする次期マイナカード--の6パターン。これに加えて、カードリーダーが読み取らない場合にFマイナ保険証とA4判の「資格情報のお知らせ」Gマイナ保険証とマイナポータルからスマホにPDF保存した「健康保険証」Hマイナ保険証と窓口などで記入する「被保険者資格申立書」──もある。
「先送りの検討」も撤回
もう何が何やら。これまでは各人交付の保険証1枚で事足りていたのに、一気に煩雑になった。少子高齢化で社会保障費の膨張に歯止めがかからない。お上から「医者にかかるな」と言われたも同然だ。
過去最多の9人が名乗りを上げた9月の自民党総裁選で、石破首相は保険証の新規発行停止時期について「先送りの検討も必要」と言っていたのに、また変節である。2日の衆院代表質問への答弁では、「本人の健康医療情報を活用した適切な医療の提供に大きく寄与する」と利点を強調。「丁寧に周知し、国民の不安に迅速に応える」などとシレーッとしたもんだった。石破は健康診断だの、歯の治療だの、毎週のように通院している。マイナ保険証を使っていれば、使用感に通じていそうなもの。何事も縷々として語りたがる石破をもってすれば、強行突破に値するメリットを具体的に言ってもよさそうなものだ。
政治ジャーナリストの山田厚俊氏はこう言う。
「長らく冷や飯を食わされても、党内野党と揶揄されても、石破首相は正しいと思うことは譲らず、自分の考えを貫き通してきた。だから、世論の後押しを受けて首相まで上り詰めたのに、その途端にブレまくっている。前言を翻すのであれば、国民にキチンと謝罪し、方針転換した理由を丁寧に説明すべきです。ねちっこく理屈を話す姿勢が持ち味だったのに、石破カラーは消え失せてしまった。歴代首相との比較で世論の期待が大きかった分、失望はそれを上回る。辞任を求める声が一気に高まるかもしれません」
いまもって費用対効果の試算なし
勝手に決めて進めた「政治家・河野太郎」も要廃止(C)日刊ゲンダイ
東京新聞(1日付朝刊)がここに至るデタラメの一端を報じていた。まず目を剥くのが、マイナ保険証導入に直接関係する費用。14〜24年度に国が投じた経費は8879億円に上り、そのうち6割にあたる5423億円はマイナポイント事業など、普及に充てられたという。にもかかわらず、厚労省によると、医療機関の窓口で使われた割合は全国平均で15.67%(10月)。利用登録解除は792件(11月8日時点)に上る。
政府は医療情報の共有によって薬剤の重複投薬や二重検査などが防げるようになり、医療費抑制につながるとアナウンスしてきたが、費用対効果を試算した形跡は見当たらないという。厚労省が16年に公表した報告書で、導入に向けて〈費用対効果を踏まえた上で検討が必要〉と訴えていたのにスルー。石破応援団のひとりである平デジタル相は、既存の保険証廃止について「デジタル化のメリットはケタが違う」と年間40兆円を超える医療費の抑制効果を強調しているものの、「デジタル庁では効果額の試算はしてない。数字は持っていない」と明言したというから、開いた口が塞がらない。
併用を排除した理由は最後まで説明なし、かえって持ち物を増やす時代錯誤。マイナ保険証強要の裏には、利権が見え隠れする。マイナカードの発行業務などを担う「地方公共団体情報システム機構」(J-LIS)から関連事業で巨額発注を受ける5社は、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に対し、13〜23年度に計8億円超も献金。政治資金収支報告書によると、TOPPAN6300万円、NTTデータ5450万円、日本電気1億7100万円、日立製作所4億250万円、富士通1億3000万円といった具合である。ここにも「政治とカネ」だ。
献金企業の寄生システム
淑徳大大学院客員教授の金子勝氏(財政学)は、こう指摘する。
「マイナ保険証というのは、自民党に献金する企業が儲ける究極の寄生システム。世界に立ち遅れた日本の情報産業のための救済事業と言ってもいい。1枚のプラスチックカードに個人情報を詰め込むのは先進国では日本だけ。それも新たに発行するのですから、ナンセンス極まりない」
23年7月に開かれた衆院特別委員会の閉会中審査で、当時の加藤厚労相(現・財務相)が「G7では、異なる行政分野に共通する個人番号制度を有した上で、個人番号を確認できるICチップ付きの身分証明書となるカードを健康保険証として利用できる国は、わが国以外はない」と答弁。要するに、他国ではそんなリスキーな制度は敷いていないのだ。
「デジタル後進国から挽回するのなら、まずクラウドで情報を管理。用途に応じたアプリをスマホにインストールし、使い分ける。顔認証や指紋認証など、スマホのセキュリティーレベルは高い。そうした先端技術をうまく利用する発想がないのは、日本の技術が周回遅れだからです。マイナ保険証は欠陥だらけで、敗北はハッキリしている。利用率はせいぜい3割で頭打ちになるでしょう。自民党を下野させ、政権交代しない限り、軌道修正は図れない」(金子勝氏=前出)
亡国のマイナ保険証をめぐる大混乱はこれから。見直しを示唆しながら、傍観を決め込んだ石破の命取りになるだろう。
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