※2024年11月14日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
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※2024年11月14日 日刊ゲンダイ2面
いくつもの壁を放置してきた歴代政権の大罪(C)日刊ゲンダイ
玉木国民の要求に自公政権は慌てて協議を始めているが、庶民いじめ、金持ち優遇の不公平税制を押し付けてきたのは誰なのか。彼らに庶民に金を回す税制改正ができるのか。玉木も人気取りだが、いくつもの壁を放置してきた歴代政権の大罪と改革の限界。
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少数与党に陥落し、自分たちだけでは法案も予算案も通すことができなくなった自公が、国民民主党を取り込もうと「年収の壁」をめぐる政策協議を慌てて始めている。
「手取りを増やす」を衆院選公約に掲げて躍進した国民民主が要求しているのは、所得税がかかる課税最低限である「年収103万円の壁」の178万円への引き上げ。これをやるとしても税制改正に合わせて来年度以降の実施だが、国民民主は「(補正予算を組む)経済対策にも何らかの形で反映してほしい」(浜口政調会長)と主張。玉木代表も「103万円の壁の引き上げを経済対策の中に書いてもらわないと困る」と、ハードルを上げてきている。
惨めな与党を手玉に取るように、玉木は強気一辺倒。「ゼロ回答なら来年度予算案に賛成することにならない」と与党を揺さぶるが、一方で玉木の不倫問題が尾を引いている。国民民主は13日、党の倫理委員会に調査を委任したことを明らかにした。早々に代表続投を決めたが、これまでみたいに大口を叩いてはいられないだろう。
消費税減税の方が効果的
国民民主の「103万円の壁」引き上げという公約は人気取りの類いで、財源を考えて真剣に練られた政策とは到底思えない。
「178万円」という金額は、課税最低限が1995年から103万円に据え置かれてきたことから、その間の最低賃金の上昇率1.73倍に合わせて算出した数字だという。政府が7兆〜8兆円の税収減になると試算すると、玉木は税収の上振れや予算の使い残しなど、一時的な剰余金を充てると説明。1回こっきりの「定額減税」じゃあるまいし、恒久財源なしに恒久的な減税は無責任のそしりを免れない。
「壁」にしたっていくつもあって、103万円だけじゃないのだ。
社会保険料の支払いが生じる「106万円の壁」と「130万円の壁」。配偶者特別控除が段階的に減り始める「150万円の壁」。配偶者控除の対象外になる「201万円の壁」もある。
103万円の壁は、学生の場合、特定扶養控除がなくなって親の税負担が増えるラインでもある。また、103万円の壁が配偶者手当を打ち切る目安になっている企業も多く、世帯収入という観点では「手当」という手取りも減ってしまう。
103万円の壁を178万円に引き上げれば、万々歳という単純な話ではないのだ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「国民民主党のやっていることはポピュリズムですよ。わかりやすいスローガンで問題を簡略化し、財源を放置して、有権者の支持を集めた。『手取りを増やす』と言っても、いろんな壁があるし、実際『103万円の壁』で大きく手取りが減るわけではなく、誤解ではないかという見方もある。『手取りを増やす』と言うのなら、一番簡単なのは消費税の税率を下げることですよ。これなら全国民が対象になりますし、よっぽど効果的です。国民民主も時限的な消費税減税を公約に掲げていたのだから、こちらを強く押し出すべきでしょう」
アベノミクス10年のしわ寄せが家計を直撃
12日から始まった自公国協議(C)日刊ゲンダイ
玉木らの主張がうさんくさいのは間違いないのだが、衆院選で議席4倍増という結果は、世間が国民民主の「手取りを増やす」に喝采を送ったということだ。
読売新聞が11〜12日に実施した世論調査でも「103万円の壁」の引き上げについて、「賛成」が78%、「反対」は13%だった。国民のこうした反応は、裏を返せば、歴代の自民党政権が財務省と一緒になって、庶民からむしり取ってばかりだったことへの怒り。諸悪の根源は自民党と財務省なのである。
消費税と法人税の関係性がいい例で、第2次安倍政権は酷いものだった。消費税については、2014年4月に税率を5%から8%に引き上げ、19年10月に10%へとさらに引き上げた。一方で、法人税については、14年6月に安倍首相(当時)が「今後数年間で実効税率を30%未満に引き下げる」と宣言。全国平均で34.62%だったものが毎年のように段階的に引き下げられ、18年度以降、29.74%と宣言通り、30%を切っている。まるで法人税の減税分を消費税増税でカバーしたかのようだと批判されたものだ。
富裕層への金融所得課税の強化だって、さっさとやるべきなのに、岸田前首相も現首相の石破も株価が暴落すると狼狽し、引っ込めてしまった。結局、歴代の自民党政権が庶民いじめと金持ち優遇の不公平税制を押し付けてきたから「手取りが増えない」わけで、そんな彼らに庶民に金を回す税制改正などできるのか。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「アベノミクス以来のこの10年、米国、財界、株式市場が喜ぶ政策ばかりやってきました。その裏で個人が犠牲になり搾取され、しわ寄せは家計に。増税や社会保障費などの負担増により、可処分所得は圧迫され、円安物価高により実質賃金は低下しました。それが個人消費を直撃し、直近の5年間で個人消費は実質ベースで減っています。つまり、国民には苦しさが鬱積しているのです。石破首相は総裁選時に『低所得の人の負担を減らし、法人税や金融所得課税を増やす。弱った人たちに還元する』と言ってたじゃないですか。所得再配分としては望ましい政策です。これを実行すべきなのに、国民民主党の要求に沿うだけでは、何の改革にもなりません」
「モデル世帯」はとうに幻
要は、自民党と財務省が長年、国民生活の豊かさより財源確保を優先してきたということでもある。
所得税がかかる課税最低限は、高度成長期には物価上昇に合わせて引き上げられていたが、95年に103万円に引き上げられて以来、29年間も据え置かれていることがその象徴である。
そうした姿勢は今現在も続いていて、厚労省が来年の通常国会に提出しようとしている106万円の壁の撤廃も、医療や年金など社会保障財源の不足を補うために保険料を負担してくれる人を増やそうとしているのが真相。つまり、泥縄なのだ。
そもそも「年収の壁」は、本当はもっと前に引き上げたり、撤廃すべきだった。
政府が年金支給額の基準で使う「モデル世帯」は、相変わらず「夫は40年間平均的な収入を得たサラリーマン、妻は40年間専業主婦」という昔ながらの家族の姿である。「年収の壁」を設けているのは、税制にしても社会保険にしても、いずれも専業主婦に対する優遇制度である。
しかし、時代は変わった。共働きが増えたり、リストラや転職など「40年間平均的な収入を得たサラリーマン」は当たり前ではなくなっている。非正規同士の夫婦だっている。「モデル世帯」はとうに幻になっているのに、抜本的な改革がなされないまま、失われた30年がまだ続いているのである。
「税制も社会保障制度も、働き方や家族の形など社会の変化に全く対応できていません。LGBTや同性婚、選択的夫婦別姓制度の導入に対応できないこともそうですが、すべては自民党が時代遅れの政党だということです。積み残した宿題がたまってしまっている。衆院選に大敗し、政権を失いそうになって慌てて、その宿題に取り組んでいるのが現状で、先送りしてきた問題に対し、野党に対応を迫られる局面がこれから次々と出てくるでしょう。対応できなければ、内閣不信任ですから」(五十嵐仁氏=前出)
そう考えてくると、自公国協議は怪しい。目先の人気取りと政権維持のための保身に、国民は騙されてはいけない。
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