※2024年11月8日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年11月8日 日刊ゲンダイ2面
ガキ大将(左)とガリ勉(C)JMPA
ディールを好む米国至上主義者に脆弱基盤の外交未経験首相がどう立ち向かうのか。USスチールは言うに及ばず、自動車、農作物、防衛、為替とロクなことにならない予感。内政でも「103万円の壁」の財源問題を抱え、内外に難題の石破政権は立ち往生へ。
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早くも暗雲が垂れ込めている。7日の日経平均株価は3営業日ぶりに反落し、前日比99円26銭安の3万9381円41銭で引けた。
米大統領選は大接戦の予想を覆し、トランプ前大統領が地すべり的に勝利。減税や規制緩和への期待から6日の米株式市場はNYダウの1500ドル超上昇など主要3指数が軒並み急伸し、そろって最高値を更新した。
米国株の好況を引き継ぎ、日本株の買いが先行したのは寄り付き直後だけ。日経平均は前日比400円高まで上げ、4万円台回復が意識されると急失速。下げ幅は一時450円を超えた。前日にトランプ勝利を先取りして1005円高まで伸ばし、利益確定売りが出やすかったとはいえ、浮かれる米国市場とは雲泥の差。トランプ返り咲き後の日本の行く末を象徴しているかのようだ。
「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン!」の雄たけびとともに米国第一主義が復活。日本製鉄が約2兆円を投じ、すでにトランプが「絶対に阻止する」と宣言した米鉄鋼大手・USスチールの買収は言うに及ばず、自動車、農作物、防衛、為替などなど、どこをどう見てもロクなことにならない予感しかしない。
しかも多国間外交を嫌い、2国間の「ディール(取引)」を好む米国至上主義者に対峙するのは、よりによって外交シロウトの石破首相である。押しの強さに尻込みする姿が今から目に浮かぶ。この巡り合わせの悪さを、国民は呪うしかないのではないか。
米国第一の関税強化にのみ込まれる日本経済
「製造業の復活」を掲げるトランプは日本を含めた全ての国に一律10〜20%、中国製品にはなんと60%の追加関税をかける方針。「辞書で最も美しい言葉は関税」と息巻き、来年1月の就任早々に手を付けかねない。
前政権時代は日本の自動車メーカーを目の敵にし、トヨタ自動車のメキシコ工場建設に対し「米国に建設しないなら多額の関税を支払え」と要求。トヨタは米国内雇用の大幅増員を余儀なくされたが、今回は別の問題が影を落とす。
選挙戦でトランプはメキシコ経由の輸入品は「100〜200%の関税を課す」と主張。人件費の高い米国を避け、メキシコに生産拠点を構える日本の自動車メーカーには死活問題となる。日産自動車は昨年60万台超をメキシコで生産。うち半数近くを米国に輸出し、ホンダもメキシコ産自動車の8割を米国の輸出に振り向けた。
実行に移せば自動車メーカーは大打撃。牽引役が痛手を負えば、日本経済全体にもダメージは波及していく。経済評論家の斎藤満氏が言う。
「現在の『円安ドル高』の為替について、トランプ氏は『米国の製造業にとって大惨事だ』と発言。輸出を念頭に是正を訴えていますが、猛烈に関税を強化すれば逆効果です。輸入側は関税負担を米国内の販売価格に転嫁せざるを得ず、トランプ氏勝利の追い風となった高インフレを助長しかねません。インフレが続けば米国の利下げは遠のき、日米の金利差は埋まらず、円安ドル高は収まりません。円安に伴う日本の輸入物価高やエネルギー価格の高騰はそのままです。米国独り勝ちの発想に根ざした関税強化は対米輸入を抑え込み、海外にドルを回さないことを意味します。基軸通貨の役割を放棄し、ドルの供給を妨げれば世界経済全体の悪化を招き、日本も例外なくのみ込まれてしまいます」
柄にもない態度は足元を見られるのがオチ
ここまで、やれるのか(C)ロイター
11日召集の特別国会で再び首相に指名されても、石破は日本を代表して最もエゴイスティックで厄介な強敵と立ち向かわなければいけないのだ。
トランプは離反者続出の1期目の反省からか、今回の政権人事はイエスマンだけで周りを固めることになりそうだ。大統領選と同時実施の連邦議会選で共和党は4年ぶりに上院の多数派を奪還。下院も優勢に立ち、大統領に加えて上下両院も掌握する「トリプルレッド」の可能性が高まっている。ブレーキ役不在なら、1期目にも増してトランプはやりたい放題。日本に無理難題を押し付けてくるに違いない。
対する石破は、外相や経産相など対米交渉を担当する重要閣僚に就いた経験はゼロ。「党内野党」として冷や飯を食い続けたせいで党内基盤は脆弱だ。早期解散が裏目に出て衆院選で自公は過半数割れの大敗を喫し、「少数与党」の窮地に立つ。国民民主党との部分連合を進めようにも「年収103万円の壁」の財源問題を抱え、政権運営は四苦八苦の状況だ。
ただでさえ、日米首脳の上下関係は明白なのに、石破はさらなるハンディを背負うのだ。キャラクター的にも、さしずめ「ジャイアン」と「出木杉君」といった感じで、「水と油」の最悪コンビの印象である。ウマが合うかは石破本人も気にしているようで、7日午前、たった5分の電話会談を終えただけでホッとした様子。「話をしたのは初めてだが、非常にフレンドリーな感じがした。本音で話ができる方だという印象を持った」とおべんちゃらを述べていたが、先行きが思いやられる。
もはや「神」にすがるしかない石破外交
石破は先週からトランプ対策を始め、「長い説明を嫌う」「議論を仕掛けるな」と外交筋から指南を受けていたらしい。裏を返せば、石破は理屈っぽくて議論を好み、長々と説明しがち。トランプに嫌われるタイプということだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「外交を有利に進めるには、首脳同士の良好な関係は重要です。とりわけ共和党の米大統領は陽気なキャラを好む傾向があり、『そこまでやるか』というほど接遇するくらいでちょうどいい。中曽根元首相とレーガン元大統領の『ロン』『ヤス』関係しかり。小泉元首相はプレスリーのモノマネまで披露(=写真)し、ブッシュ元大統領に『無二の親友』とまで言わしめた。トランプ氏と共通の趣味であるゴルフを通じて『蜜月関係』を築いた安倍元首相はある意味、バカに徹する強みがありましたが、石破首相は明らかに“陰キャ”。媚びへつらう必要はないものの、相手の歓心を掴む努力は大事です。1週間前からトランプ氏対策を練り始めるとは、いかにも付け焼き刃的で出はなをくじかれやしないかと不安になります」
ちなみに、石破は慶応高時代にはゴルフ部に所属していたが、ここ十数年はプレーしていないという。そんな石破があれほど毛嫌いした安倍にあやかり、他国首脳に先駆けてトランプと直接会談したがっているのは噴飯モノだ。18日からのブラジルG20サミット出席後の帰路に米国へ立ち寄り、一目だけでもトランプの顔を拝みたいようだ。
人には向き不向きがあるし、首脳同士の蜜月関係が国益に結びつくとも限らない。実際、安倍はステルス戦闘機F35を100機も追加購入させられた挙げ句、トランプに従来の4倍強となる年間80億ドルもの在日米軍駐留経費の負担を迫られた。
2019年締結の日米貿易協定では自動車の関税引き上げの脅しに屈し、農産品関税交渉はベタ降り。当時の農産品の関税撤廃率は日本72%に対し、米国1%と惨憺たる結果で、米国で余った飼料用トウモロコシ250万トンの購入まで押し付けられた。
柄にもない石破の態度はトランプに足元を見られるだけ。えげつない商売人に「在日米軍の駐留経費を増額しろ」「農産品をもっと買え」と強引に求められ、カネをむしりとられるのがオチである。
「数少ない共通点は2人ともプロテスタント系のクリスチャンなこと。石破首相は18歳のときにプロテスタントの教会で洗礼を受けています。信仰を通じた信頼関係構築に望みを託すしかない」(斎藤満氏=前出)
もはや石破は「神頼み」。内外の難題にもがき苦しみ、立ち往生へとまっしぐらだ。
http://www.asyura2.com/24/senkyo295/msg/891.html