※2024年0月17日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年0月17日 日刊ゲンダイ2面
裏金を「不記載」と言い張り、非公認は「大変なこと」、あたかも断罪したかの如くのまやかし演説(石破首相)/(C)日刊ゲンダイ
裏金を不記載と言い張り、非公認は「大変なこと」と庇う首相の反省を有権者はどう聞くか。短い選挙戦だが、「ご祝儀相場で逃げ切り」どころか、すべてが裏目で負のスパイラル。まだわからないが、歴史が動く前夜の緊迫。
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反省だけならサルでもできる──。今から30年ほど前に大流行したテレビCMのキャッチコピーが、頭の中をグルグル回る。
2週間足らずの短期決戦の火ぶたが切られた衆院選。応援演説で裏金事件の反省の弁を語る石破首相を見るにつけ、冒頭の言葉を浴びせたくなる向きも多いだろう。
「パーティー収入の不記載、そういうことが二度とないよう、深い反省のもとに選挙に臨む」
石破は第一声の場に選んだ福島県いわき市でも反省を連呼したが、この短い発言だけで、もう突っ込みどころが満載だ。まず「不記載じゃなくて、裏金じゃねえか!」と。
反省は裏金を裏金と認めてからだ。ところが、石破は裏金を決して「裏金」とは認めない。9日の衆院解散直前、アリバイまがいに開いた党首討論でも「裏金は決めつけ。不記載だ」と逆ギレしたほどだ。
裏金を「不記載」と言い張るのは石破だけではない。この言い換えは、自民党全体の総意。その証拠に自民の衆院選公約には裏金事件の「裏」の一文字もない。〈今回の政治資金の問題〉とあるのみで、公約からして「裏金隠し」。今回の早期解散の狙いが、あからさまに集約されている。
不人気の岸田前首相にはお引き取り願い、誰でもいいから新たな「選挙の顔」を担ぎ、ボロが出ないうちに史上最速日程で解散に打って出る。野党の準備不足で共闘を阻止し、つけ入るスキを与えぬ党利党略。何とか逆風選挙をしのげば、あとは「国民の審判を仰いだ」の決まり文句で裏金議員のみそぎを済ませたことにしてチョン──。しかも、新総裁に選ばれた石破本人の意思など、お構いナシである。
軽いドツキ程度では済まされない
裏金隠し解散は、党の重鎮たちが用意周到に進めてきたシナリオで、誰が「選挙の顔」に選ばれようが、実行するのは既定路線だった。重鎮には、お役御免の岸田も含まれ、総裁選の決選投票で自派閥を動かし、恩を売ることで新総裁を脅すのに一役買った。「仇で返すなよ」というわけだ。
総裁選中は「国民に判断材料を提供するのは新首相の責任。本当のやりとりは予算委員会だ」とか言って、早期解散に慎重だった石破もすっかり形ナシ。重鎮たちの意向に屈し、完全に骨抜きにされてしまった。
ずっと「党内野党」で仲間の少ない石破にすれば、重鎮たちに従わないと政権は維持できない。わが身かわいさで持論を曲げても平気の平左。猫なで声で正論風なことを言っても、しょせん、この程度の変節漢だった。
裏金議員の公認についても、石破は「徹底的に議論する」と言っていたクセに、党重鎮のシナリオに乗ると「原則公認、比例重複もOK」に変節した。世論の批判を浴びて「比例重複ナシ、12人の非公認」に踏み切ったものの、非公認のうち3人は出馬を断念。選挙に弱い連中を非公認の「水増し」に利用したにすぎず、大半の裏金議員は公認された。毎度おなじみ、「やっているふり」のポーズってやつだ。
だからだろう。裏金議員には大甘で、刺客も立てず、同僚議員の応援も可。石破と総裁の座を争った高市前経済安保相はこれみよがしに裏金議員の応援に繰り出し、全国行脚だ。石破は非公認でも当選すれば「党の同志としてお迎えをすることはある」として追加公認を許し、政権の役職起用も「適材適所だ」と含みを持たせている。
それでいて非公認は「いろいろなハンディの中で戦って議席を得るのは大変なこと」と庇う首相の「反省」を有権者はどう聞くのか。反省連呼の二枚舌は、軽いドツキ程度の突っ込みじゃあ、もう済まされない。
裏金隠し→みそぎの魂胆はサルでも分かる
真相解明にはフタをして「派閥のルール」と言い訳演説、なぜそれで裏金問題終焉になる?(萩生田光一元政調会長)/(C)日刊ゲンダイ
裏金を「不記載」と言い張り、ペナルティーであるはずの非公認を「ハンディ」と言い換える。先の大戦で旧日本軍は、部隊の全滅を「玉砕」と美化したものだ。似たような国民ダマシの欺瞞が、今の石破自民党には満ち満ちている。
「石破首相は機械的に反省の弁を述べているだけ。謝る暇があれば、もっと他にやるべきことがあるはず」と言うのは法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)だ。こう続けた。
「石破首相は選挙演説で『二度とないように』と、裏金事件の再発防止にも触れていますが、まだ裏金事件は解決していません。誰が、何のために始め、何に使ったのかを、いまだに明らかにしていないのが、今の自民党じゃないですか」
非公認となった萩生田元政調会長は衆院選の第一声で「派閥のルールを踏襲した」と弁明していたが、所属した旧安倍派だけで計6.7億円もの裏金を積み上げていたのだ。それも2022年までの5年間に限った額で、裏金づくりは20年以上前からの慣習とされる。裏金の総額は数十億円規模に膨らんでも、おかしくないのだ。
萩生田は「事務所で意図して裏金をつくるとか、私的流用を図るとか、ましてや脱税とか。このような事実は一切ございません」と言い訳したが、もうウンザリだ。なぜ裏金づくりを長年にわたって放置してきたのか。「派閥のルール」なんかでゴマカさず、その理由を国民に明らかにするのが先である。
「事件の原因を追究し『同じ失敗を二度と起こさない』との心構えがあってこそ、初めて『再発防止』は成り立つ。真相解明にフタをし、つき物に取りつかれたように大慌てで解散・総選挙になだれを打てば、ますます怪しさは増す。よっぽど知られたくない秘密が隠されているのだろうと疑われるのがオチです。ましてや石破首相は『国民に十分な判断材料を示すため、予算委員会での一問一答が必要だ』と言っていた。前言を大きく翻したことで、追及を受けたくない後ろ暗さが余計に際立ちます」(五十嵐仁氏=前出)
歴代最短命の大幅記録更新へとまっしぐら
短い選挙戦に「勝てば官軍」。ドサクサ紛れに裏金をなかったことにしてしまおう。そんな石破自民の魂胆は、それこそサルでも分かる。
「ご祝儀相場で逃げ切り」どころか、すべてが裏目で負のスパイラル。自民が公示前勢力から大きく議席を減らし、単独過半数を割り込もうものなら、石破はもたない。裏金非公認でムダに党内の恨みを買っているだけに、高市や旧安倍派を中心に「石破おろし」が吹き荒れることだろう。
憲政史上、最も短命に終わった政権は戦後最初の東久邇宮稔彦王内閣。在任期間はわずか54日間だったが、敗戦処理内閣として発足した憲政史上唯一の皇族内閣である。平時だと在任64日間、非自民の細川連立政権を継いだ羽田孜内閣が最短だ。発足直前に社会党が離脱したため、少数与党内閣としての船出を余儀なくされた。
自民党政権に限れば、在任65日間の石橋湛山内閣がワースト。今回の選挙後、石破は短命記録を大幅に更新しかねない。まさに「歴史が動く」前夜の緊迫である。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「実質賃金は一向に上がらず、物価高に苦しみ続ける国民生活や、大地震と豪雨に見舞われながら、遅々として進まない能登の災害復旧など、この国の課題は山積みです。だからこそ、裏金事件ひとつ満足に解決できない政党に日本の将来を託すわけにはいかない。あれだけ威勢の良かった石破氏でさえ、首相になれば自民の“負の磁場”にからめ捕られ、何もできなくなる。いくらシャッポをすげ替えても自民は自民。本質は変わらず、もはや党の存在自体が国の停滞を招く国民の脅威です。大いなるリスクを投票行動で取り除く必要があります」
反省は常に「次の行動」でのみ示せる。それは裏金自民の長期政権を許した有権者にも当てはまる。いい加減、サルでなければ目覚めるべきだ。
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