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※2024年10月9日日刊ゲンダイ
早くも絵空事ばかり…(石破首相)/(C)日刊ゲンダイ
「賃金と物価の好循環」などお題目に過ぎないのが今の日本経済の現実だ。それなのに、アベノミクスを断罪せず、村上大臣も腰砕けで、最低賃金1500円など、絵空事ばかりの石破自民。
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「雪中松柏」。9日の衆院解散を決めた石破首相が自身のホームページに掲げている言葉だ。厳しい雪の中でも、松や柏は緑の葉の色を変えないことから「時勢によって変節しない人物」を例える意味で使われ、石破も政治姿勢の在り方についてこう書いている。
<媚びず、おもねらず、妥協せず。常に県民に真摯であり、国民に誠実でありたい。>
だが今の石破の言動を見る限り、石破自身が、この言葉をきれいさっぱり忘れ去ったとしか思えない。総裁選で繰り返し訴えていた“公約”が次々と反故にされているからだ。
「今なら勝てるだろう解散っていうのは良くない」「政府与党と野党できちんと論戦。それが政治の責任」と早期解散を否定しながら、あっという間に解散を表明。
選択的夫婦別姓制度の導入や金融所得課税の強化についても「さらなる検討」「具体的に検討することは考えていない」とトーンダウン。
裏金議員の公認も厳正対応を口にしていたはずが「原則公認」に舵を切る。世論批判が高まり、慌てて「一部非公認」を打ち出したが、全国幹事長会議では「(裏金事件の)国民批判は私どもが思っているよりはるかに強い」と他人事のように言っていたから、しょせんはその程度の認識だったということだろう。
もはや今の石破の姿勢は、良識ある国民にとって「媚びる」「おもねる」「妥協」の3文字しか見えないのではないか。
インチキ「キシダノミクス」をなぜ引き継ぐのか
党内野党と揶揄されながらも、ブレずに正論を貫く──のが持ち味だったはずなのにブレまくり。
それは経済に対する姿勢も同じだ。石破は衆院選後、すぐに総合経済対策を決定。財源の裏付けとなる2024年度補正予算案を国会に提出する方針で、すでに@物価高対策Aデフレ脱却に向けた経済成長力の強化B災害対応など安心・安全の確保──を柱に掲げているのだが、見過ごせないのはこの発言だろう。
「(物価上昇を上回る賃金上昇を定着させて)成長と分配の好循環が回っていく経済を実現しなければならない」
どこかで聞いたことがあると思いきや、岸田前首相のインチキ「キシダノミクス」と同じだ。
石破は岸田から政策を引き継ぐよう求められたため「おもねった」のだろうが、厚労省が8日発表した8月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、現金給与総額(名目賃金)に物価の変動を反映させた実質賃金は前年同月比0.6%減で、3カ月ぶりのマイナス。
6、7月の実質賃金を押し上げた夏のボーナス支給の効果が剥落したのが要因とみられるが、つまり、その程度ですぐに下振れしてしまうのが日本経済であり、「賃金と物価の好循環」などお題目に過ぎないのが今の現実ではないのか。
石破は決断力が乏しく、それほど意志が強くない
自民党を潰すしかない(C)日刊ゲンダイ
総務省が8日に発表した8月の家計調査を見ても、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は29万7487円で、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.9%減少。日本のGDP(国内総生産)の約5割を占める個人消費は1〜3月期で4四半期連続のマイナスとなり、「100年に1度の金融危機」と呼ばれたリーマン・ショック以来の事態に。4〜6月期は辛うじて増加に転じたとはいえ、依然として厳しい状況は変わっていない。
円安進行で物価高も加速。外国為替市場は7月に37年半ぶりとなる1ドル161円台後半まで下落し、市場に激震が走ったが、元日銀理事の山本謙三氏が記した「異次元緩和の罪と罰」(講談社現代新書)によると、国際決済銀行(BIS)が相対的な通貨の実力を示す指数として公表している「実質実効為替レート」はすでに1ドル360円時代を下回る円安レベルだというから驚愕だ。
山本氏は<すべてが日銀のせいというわけではない>としつつも、<異次元緩和が果たした役割は大きい>と書いていた。
つまり、第2次安倍政権から始まった異次元緩和=アベノミクスが今もなお日本経済に重くのしかかっているわけで、そのアベノミクスを引き継いだ岸田の経済政策を継承するなど論外なのは言うまでもないだろう。
絵空事ばかり並べたてる姿勢に国民はうんざり
経済評論家の斎藤満氏がこう言う。
「石破首相は反アベノミクスの議員であり、日銀の異常ともいえる金融緩和にも異論を唱えていた。経世済民だったはずなのに今の姿勢は全く違う。キシダノミクスを引き継ぐ、アベノミクスに戻る、というのであれば岸田首相から代わった意味がありません。政治家としての信念はどこに消えたのか」
斎藤氏の言う通りだろう。それなのに、石破はアベノミクスを断罪せず、アベノミクスに批判的な主張を続けてきた村上総務相も7日の衆院本会議で、「デフレでない状況をつくり出し、GDPを高め、雇用を拡大したと評価がなされているものと承知している」などとアベノミクスを持ち上げる腰抜けぶりを見せていたからクラクラしてしまう。
さらに石破は2020年代に最低賃金の全国平均を時給1500円に引き上げる目標を掲げているが、29年度までに達成するには25〜29年度の5年間で年平均「89円」の引き上げが必要だ。過去最高の引き上げ額となった24年度ですら「51円」だったのに、それをはるかに上回る額を5年間連続というのが出来るのか。
総裁選でも「あれもやる。これもやる」と空手形を連呼する候補者ばかりが乱立した自民党。選挙前だからなのか、有権者ウケを狙って、現実離れした絵空事ばかり並べ立てる姿勢に国民はうんざりしているに違いない。
裏金だけじゃなく、「政権交代しかない」理由がここにもあるのだ。
石破を長く知る元参院議員の平野貞夫氏がこう言う。
「一言で言えば、石破首相は決断力が乏しく、それほど意志が強くない。それまで訴えてきた政治信条や政策を驚くほど簡単に翻すのはそのためでしょう。経済政策を見ても、アベノミクス路線を引き継ぐのではなく、食糧やエネルギーなど次世代分野について打ち出すことで石破カラーを出せたはず。政治の在り方というのか、根本的なことを理解していない。石破は『石を破(壊)』と書くが、国が破壊されかねません」
石破は旧安倍派議員らの顔色をうかがっているのかもしれないが、反社のような連中に気を使うのではなく、最優先で考えるべきは国民生活だ。
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