※2024年10月8日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年10月8日 日刊ゲンダイ2面
「ゲル長官」の大博打(C)日刊ゲンダイ
非公認となる面々。(左上から時計回りに)下村博文元文科相、西村康稔元経産相、萩生田光一元政調会長、平沢勝栄元復興相、高木毅元国対委員長、三ツ林裕巳衆院議員(C)日刊ゲンダイ
遅きに失した感のある裏金議員の非公認だが、まあ、やらないよりはマシ。驚くべきは彼らの怒り、反発だ。「自分だけ」の連中が宣言する「倒閣運動」は、自民内部崩壊という終わりの始まり。
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9日、衆院が解散される。「15日公示─27日投開票」の日程で実施される総選挙が迫る中、土壇場で石破首相が意地を見せ、自民党は上を下への大騒ぎだ。世間が白眼視する裏金議員の処遇をめぐり、及び腰になっていた石破が事実上のペナルティーを断行。岸田政権下の4月に決めた党内処分が続くなどしている6人を非公認、元職を含む残りの40人超についても比例代表への重複立候補を認めないとする基準を示したからだ。国会の政治倫理審査会に出席して説明をしなかった議員は、もれなく対象となる。
事態は週末に一気に動いた。何だかんだ言っても、これまで通りだとタカをくくっていた裏金議員が腰を抜かさんばかりの衝撃を受けたのは、想像に難くない。
裏金事件の総本山である旧安倍派幹部「5人衆」のボス格だった萩生田光一元政調会長(東京24区)は、石破が方針を示してから間を置かずにX(旧ツイッター)で反応。〈この度の党の決定を重く受け止めております〉〈今回の政治資金に関する問題で、国民の皆様に政治への不信感を抱かせてしまったことを深く反省しております。今後は謙虚に受け止め、誠心誠意、丁寧に説明を続けてまいります〉などと殊勝な投稿をしたが、およそ半日後、事務所が運営するメールマガジンが関係者のものと思われるメールアドレスを唐突に配信。追っておわびも配信した。事務所内が混乱している様子がうかがえる。
善悪色分けで劇場型選挙へ
石破政権発足から1週間。国民的人気を背景に自民党総裁選の決選投票で劇的な勝利を収めた割には、滑り出しは上々とは程遠い。共同通信の世論調査(1〜2日実施)によると、内閣支持率は50.7%。岸田政権の55.7%、菅政権の66.4%よりも低かった。期待が大きかった分、より深い失望を招いたということだろう。
与野党が論戦を交わす予算委員会を開かず、早期解散を優先。それどころか首相就任前に解散を予告し、批判してきた「7条解散」を強行。選択的夫婦別姓制度の導入は棚上げ、原発は利活用にシフト。日銀による追加利上げ容認から牽制に転じ、現行の健康保険証とマイナ保険証の併用に理解を示していたのに一本化方針を堅持。総裁選を勝ち抜いた途端、選挙戦での発言を次々に後退させてきた。心底ガッカリ。ここまで国民をがっくりさせた首相は久々ではないか。そこへブッ込んできた裏金議員への対応。石破の決断は遅きに失した感はあるものの、やらないよりはずっとマシではある。横死した安倍元首相の後継を自任し、旧安倍派頼みの「高市早苗首相」が爆誕していれば、この展開はあり得なかった。
法大大学院教授の白鳥浩氏(現代政治分析)は、こう指摘する。
「石破首相がここまで踏み込むとは想定外で、正直驚きました。世間の期待がしぼんでいくのを目の当たりにし、森山幹事長が敷きつつあった裏金議員の『原則公認』路線を押しのけざるを得なかったのでしょう。とはいえ、政治は政治。自民党の生き残り戦略もチラつく。小泉元首相が仕掛けた郵政選挙を彷彿とさせます。裏金議員と非裏金議員を『悪い自民党議員』『良い自民党議員』に色分けし、劇場型選挙を仕立て、国民の注目を自民党に集める。そうなれば、猛攻撃してくる野党は蚊帳の外。旧安倍派や旧二階派をスケープゴートにし、自民党全体に累が及ばないようにする計算でしょう」
「政治とカネ」を繰り返した自民党の70年
「ゲル長官」の大博打(C)日刊ゲンダイ
驚くべきは裏金議員の怒り、猛反発だ。朝日新聞(6日付朝刊)によると、非公認の基準に該当する旧二階派の平沢勝栄元復興相(東京17区)は取材に「総裁選では、一生懸命石破さんを応援した。こんな仕打ちは、あまりにひどい」とぶちまけ、Xにも〈この問題に関する決定プロセスには理解に苦しむものが多々あります〉と投稿していた。毎日新聞(6日付朝刊)にも、裏金議員の恨みつらみがズラズラ。
「党を分断する史上最低の決定だ」
「自民党の一致団結なんてもうない。(石破首相は)作られた世論に迎合して仲間を売るリーダーだ」
「一度党として決めた処分を、総裁が代わってひっくり返した。こんなのは民主主義政党でもなんでもない」
立法府の一員でありながら、違法行為に手を染めていたのに言いたい放題。東京都連会長の井上信治元万博担当相もきのうの都連会合で、「なぜもう少し早く決断してもらえなかったのか。大変遺憾だ」「ギリギリのタイミングだ。党本部から正式な伝達が何もない」などと批判していた。前会長の萩生田や平沢に加え、党員資格1年停止を食らっている下村博文元文科相(東京11区)も非公認。ほぼ比例復活で当選を重ねてきた旧安倍派の越智隆雄衆院議員(東京6区)は、勝ち目がないとみて不出馬を決めた。収拾がつきそうもない事態に悲鳴を上げるのも無理はないが、盗人猛々しい連中が宣言する「倒閣運動」に自民党の本質がよく表れている。裏金腐敗集団の自壊がついに始まった。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「一体どの口が言うのか。ア然です。自民党は来年、結党70年を迎える。その歴史を振り返れば『政治とカネ』をめぐる問題の繰り返し。ゴマカシを重ね、逃げてきたツケがついに回ってきたということ。選挙情勢調査などでは、とりわけ東京、神奈川、千葉、埼玉といった都市部は壊滅的だったと聞きます。石破首相はここで荒療治をしなければ、マトモな仲間も、ひいては自民党も守れないと腹をくくったのでしょう。そうした緊張感を持ち、捨て石になるくらいの覚悟を持って選挙に臨めない裏金議員は、自らバッジを外すのが賢明な判断です」
「高市拓」政界復帰を画策
それにしても、自民党というのは有象無象の集まりだ。
高市と焼けぼっくい再婚した山本拓元衆院議員が政界カムバックを画策。旧安倍派の高木毅元国対委員長(福井2区)が無所属出馬に追い込まれたのを受け、「福井2区に自民党が候補者を立てないのでは党としての責任を果たせない。自民党員の選択肢として私が受け皿となりたい」と意欲を燃やしているという。
山本は3年前の衆院選で比例代表北陸信越ブロック単独21位に登載され、9選を目指したが、次点で落選。その後、選択的夫婦別姓に反対する高市とヨリを戻して「高市拓」となり、妻を支えていると報じられた。回転ドアじゃあるまいし、自民党の国会議員は簡単に出たり入ったりできるのか。高市政権が誕生していれば旧安倍派に矛先が向けられることはまずないし、これまたあり得ない展開だった。福井県連の良識が問われる。政界、一寸先は闇と言うが、いろいろ深すぎる。
「選挙に強い一定数の裏金議員が勝ち上がってきたとしても、自民党は単独過半数割れする可能性がある。どう転んでも、党内に禍根を残すのは間違いありません。石破首相は先を見据えて決断したのか。果たして政権を維持できるのか。来夏には参院選が実施されます。衆院の裏金議員にだけみそぎを強いるのは不公平感が残る。改選を迎える裏金参院議員は戦々恐々でしょう。衆院選が終わった途端に石破降ろしのノロシが上がるだけでなく、派閥復活の揺り戻しが起きる懸念があります」(白鳥浩氏=前出)
野党は千載一遇のチャンスをみすみす逃しそうな気配だし、ぺんぺん草も生えないくらいトコトンやり合ってほしいものだ。
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